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嘘はBLの始まり  作者: 紫紺
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幕間 その11


 全く予期しないことだった。越前は咄嗟に伊織を引き寄せ口づけた。そうでもしなければ、あの緊迫した場面で、微妙な間が開くことになっただろう。

 あのまま享祐も棒立ちしていたら、撮り直しになるだけじゃなく、伊織が何を言い出しそうになったかわかってしまったはずだ。


 ――――あいつ、俺の名前を呼びそうになった。言い出して、気が付いて、それを呑み込もうとした。そのまま他の言葉に寄せるのはさすがに無理だったかな。


 それまでは、見事な演技だった。ハッピーエンド縛りだし、原作の流れもある。そうなればどのようなせりふ回しになるかは想像がついた。

 頑なに自分の気持ちを隠そうとする相馬亮。それを駿矢と生きる決断をさせることが伊織に課せられたラストシーンだった。

 激しく想いを吐露する駿矢を前に、相馬は逃げていた自分を恥じ、歩を進めようとする。相馬自身もそれを望んでいたのだ。


『何を失っても、僕は構わなかった。あんたと一緒にいられるなら』


 ――――それは実は、相馬が一番聞きたかったことなんだ。


 享祐は自問する。俺もそれを望んでいるのだろうか。伊織がそう思ってると、知りたいだろうか。

 相馬を責め続ける駿矢は、最後にこう訴えて自分を賭けた。


『自分に嘘をついて、あんたは幸せになれるのか? 将来のためなんて僕のせいにして。それであんたは満足なのか』


 考えたセリフではあったろう。でも、いつしか勢いで放った言葉たちは文字を超えていった。


 ――――あれは、伊織の本心なんだろうか。だから、最後に俺の名前を?


『この気持ちを隠したまま生きていけるのか? 二人が出会う前に戻れるのか? あんただってわかってるはずだ。そうだろ……きょうすけ』



 

 クランクアップ後、花束を持ち一緒にカメラに収まった。監督やスタッフと雑談もした。

 一つの仕事を終えた充実感はあったけれど、享祐の心は千々に乱れていた。本当は伊織を連れて帰りたかったのに、そうしなかったのもそのためだ。いや、そうできなかった、か。


 伊織が自分を探しているのがわかった。けれど、享祐はその視線から逃げるように自分の控室に戻る。今はまだ、二人きりで話をしたくなかった。

 



 享祐がマンションに戻ったのは日付が変わってからだ。控室に籠ってたら、監督に捕まってしまった。

 このドラマは実りの多いものになったと、彼は満足そうに宣い、数字よりも、もっとどでかいインパクトを残したと断言した。享祐も全く異論がなかった。


 ――――あ、伊織からだ。


 ワインで一人打ち上げをしていたら、伊織からメールが来た。この時間までお互い連絡を取らないのも不自然だが、お互いが『待って』いたのかもしれない。


『今日の撮影、本当にありがとうございました。今日だけでなく、ずっと助けてもらいましたが、今日のは本当に申し訳なくて……おかげでいいラストを迎えることができました』


 敬語に戻ってる。

 日付が変わっているのに関わらず、『今日』になっているのは、打ってから何度も逡巡してようやく送ったからだろう。


『今から……行ってもいいですか?』


 享祐は一瞬躊躇う。

 もし、このメッセージが敬語じゃなかったら、もっともらしい理由で応じなかったかもしれない。けれど……。


『敬語止めるなら、いいよ』


 そう打ち返していた。






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