表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘はBLの始まり  作者: 紫紺
52/78

幕間 その9


『冗談じゃない。ゲイなんて報じられたら困るんだよ』


 享祐の顔を見ることなく、言い放たれた言葉。彼にとっては暴言と言ってもいい。胸に穴があいたまま、閉じられたドアを見つめていた。


 ――――そりゃ、そうだ。でも、あいつはずっと不満げだった。俺の気のせいだろうか。


 こんなことなら、告白せずに『嘘の関係』でいた方がよかったかもしれない。伊織のこととなると、つい弱気になってしまう享祐だ。

 あのバカ記者にスクープ? 撮られてから、それが大したことでなくてもナーバスになる。自分たち芸能人なら当たり前のことだ。


 本当のところを掴まれなければいい。簡単だ。夜中に辞去した部屋が女優のなら『厚顔甚だしい嘘』が、男同士だと、『そうだよね。まさかだよね』になる。楽勝だ。


 ――――けれど、伊織はそれが不満そうだった。


 それならば。と享祐は思う。自分はもう、カミングアウトしてもいいと思っている。ここまで培ったキャリアが、そんなことで崩壊するならそれも仕方ない。それだけのことだ。


 享祐は俳優だけが仕事と思っていない。長くこの業界に居れば、自分の限界もわかってくる。製作側にも興味があり、実際ショートムービーを撮って発表もしていた。もっと時間があればそっちに尽力したいくらいだ。


 ――――だから、これを機に仕事が減ればそれもまた良しだ。青木は怒るかもしれんが。


『ゲイなんて報じられたら困るんだ』


 あれは本心なのか? 自分が感じていたものは間違ってたのか。

 享祐は映画の撮影中、そんなことを考えていた。身が入っていないわけではない。演技中は集中した。今日は某女優とキスシーンがあって感情も込めたつもりだ。越前享祐とでなく、役柄の人物として。



「越前君、最終回の台本来たわよ」


 休憩中、青木が『最初で最後のボーイズラブ』の脚本を持ってきた。相変わらずギリギリだ。明後日の台本を今ってどういうわけだよ。と嘯きながら受け取った。


「なあ、俺のスケジュールって今後どうなってる? ドラマと映画が終わったあと」


 自分のスケジュールなんてアバウトにしか入っていない。以前は空くことが恐ろしく、青木女史に何度も尋ねた質問だ。

 今となっては詰まっているのがデフォルトになっていて、オフを心待ちにしている。


「月10のドラマ入ってるけど。夏クールの。あと単発の時代劇スペシャル。なに? 休暇はまだ先でしょ」


 年に一度、3週間の完全オフを貰うようになったのは2年前、30歳になってからのことだ。

 毎年夏場に設定し、旅行や自身の撮影に充てていた。今はまだ3月に入ったばかり、青木の言う通り、夏はまだ遠い。


「いや、別に。どうなってるのか聞いてみただけ」


 今、もし伊織との仲を公表したら、これらの仕事どうなるんだろう。全部断ってきたらそれはそれでお笑いだなと思う。腫物に触るような現場も優に想像がついた。


「それより、ちょっと気になることがあって」


 台本を持ったまま思いを巡らす享祐に、珍しく沈んだ表情の青木が呟いた。彼女は常に強気なイメージを前面にしてるので享祐は戸惑う。


「なに?」

「あの、例の馬鹿馬鹿しい報道の後、過激反応するファンの子がいてね」

「へえ……」

「ま、越前君に危害を加えるとは思えないけど、あんなのでも信じちゃう子はいるのよね」

「ふうん……でもその辺のことはちゃんとしてくれるんだろ?」

「ああ、そうね。気にしなくていいわ」

「了解。任せた」


 享祐は片方の口角を上げて台本に目を戻してページをめくる。だが、その手が止まり、顔が固まった。


 ――――なんだ……これは。


 最終回クライマックス。台本4ページ分が真っ白だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ