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嘘はBLの始まり  作者: 紫紺
27/78

TAKE21 初回配信


 本日、ついに初回配信が開始される。あれから慌ただしく年が明け、今日から僕らのドラマが始まるんだ。

 配信だから、チャンネル契約している人はいつでも観られるわけで、別に配信時間に合わせなくてもいい。

 んだけど、やっぱり、その時にリアルで観る人が多ければ、それだけ期待値が高いってことだよね。


「いよいよだな」

「は、吐きそう」


 享祐の部屋、あのデカいモニターの前で僕たち二人はその時を待っていた。内容が内容だけに夜11時配信だ。

 この夜ばかりは仕事を入れないように東さんに頼んでおいた。選んでる立場じゃないのにね。


「大丈夫かよ」


 ふふっと笑って頭をツンツンしてくる。はあ、でもマジ気持ち悪くなってきた。享祐も仕事切り上げてきたみたいだ。さっきまで青木さんと電話で話してた。


「多分……でも、視聴者数も気になるけど、ドラマとしての完成度が……」


 撮りながら小さなモニターでは逐一チェックしたけれど、40分通しては観てないんだ。正直、そっちの方が気になった。

 だって、いくら初回の視聴者数が多くたって、役者がヘボだったらそれで終わりだよ。評判次第でドラマは終わっちゃう。


 ――――ううっ。やっぱり吐きそう。


「お、始まった」


 ――――ひええっ。


 当たり前だけど、僕が映ってる。テレビに映るのは初めてじゃないし、子供向けとは言え、毎週、それも地上波日曜朝に映ってた。でも……違うっ。


「ひ、酷い演技だな……」

「そんなことない。ま、少し硬いけど、初々しくていいよ」


 なんて享祐が慰めてくれるけど、とてもじゃないけど直視できない。僕は手で顔を覆い、指の隙間からのぞき見する。まるでホラー映画を怖がる子供みたいだ。


「ほら、しっかり見てろ」


 享祐が僕の腕を取り、肩から頭を自分の腕の中に抱え込んだ。


「ええっ……」


 仕方ない、逃げてても。

 僕はその恰好のままドラマを見入った。配信だからCMがないっ。拷問だよ。


『お坊ちゃまが、本性丸出しだな』

『お仕置きだ。俺を手玉に取ったつもりなら容赦しない』


 ――――ごくん。


 僕は唾を呑み込んだ。だけど口の中がカラカラで実際は空気を飲んだ。


 メインテーマのサビが印象的なシーンで流れてくる。ぐっと気持ちが高ぶる。

 二人のキスシーンから、僕の手首を掴む享祐の大きな手が映し出され、僕の手のひらへと移っていく。固く力を入れたそれは、ゆっくりと解かれていく。 

 よじれたシーツと切ないメロディー。画面にはキャスト、スタッフのクレジットが流れていく。


「伊織……」


 抱えられた腕が外され、僕は自然と享祐に寄り添う。なんだか泣けてきた。


「享祐」


 何故か名前を呼んでみた。呼びたくて、愛しい人の名前を。暖かい手のひらが僕の顎にかかった。

 僕はその手に誘われるまま上を向く。享祐の黒目勝ちな瞳が見えたところで瞼を閉じた。ふっくらとしたあいつの唇が触れる。


 ――――享祐、きょうすけ……


 何度も、何度も唇を食み合う。配信はもう終わってしまったというのに、そんなこと気にも留めず。

 なにがこれほど感極ませているのか。わかってる。あの時無我夢中で演じた、いや、享祐と二人だけの世界に入っていたことを思い出したからだ。


 カメラもスタッフも、僕のなかから消えていた。あの瞬間、僕は駿矢の名を借りて、相馬亮のふりをした越前享祐を愛していたのだから。





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