表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘はBLの始まり  作者: 紫紺
22/78

幕間 その4


「それじゃ、次は製作発表会かな」

「そうだな。台本もらったら、また連絡するよ」

「うん、待ってる」


 三條伊織はビールに酔ったのか、顔を少し赤らめて微笑んだ。玄関の扉を閉め、越前享祐は壁に背中をつけると、大きく息を吐いた。


 ――――全く、冗談じゃない。青木の野郎やろうじゃないけど、なんだってこんな時間に来やがった。


 伊織と会うまでは、今のほぼほぼプライバシーのない関係を享受できていた。青木マネージャーとは10年以上の仲だ。加えて享祐には、青木女史に隠すような恋愛もなかった。仕事が忙しかったし、売れようとする野心もあった。  


 二人三脚で芸能界の荒波を泳ぎ抜き、ようやく今の地位を得たのだ。現在においても挑戦を続けているが、このひと月あまり、少しだけ方向が揺らいだ。

 それが今回の役柄であり、伊織の出現だった。


『享祐、大丈夫だったかな』

『心配しなくていい』


 何が大丈夫なものか。あの女のことだ。何か気付いたに違いない。こんなに速い段階で知られたくなかったのに! 

 ドカドカと音を鳴らしてリビングに戻る。テーブルの上は伊織がさっと片付けてくれていた。足をキッチンに向け冷蔵庫の中から追加のビールを取り出す。


 ――――今日の撮影も最高だった。あいつはまだまだ化ける。俺の腕のなかで、変身していく。


 抱きしめて、キスをする。それだけのことで、伊織はどんどんと成長していた。

 本人が気づいているかは知らないが、古い皮が剥がれてそこから新芽が覗き育っていくように。そのたびに輝きが増して享祐を魅了していた。

 彼にとって、それを見届けているのも至福の喜びだった。


 ――――だけど……。


 このドラマが終わったら、取った手を離さなければならないのか。あいつはこれを役作りのためのお芝居だと信じている。


 ――――馬鹿な。そんな酔狂な役者、どこにいると思ってんだか。


 享祐はもう一度大きなため息を吐いた。

 それでも今はそのフリをしていなくてはならない。青木に見つかってしまったのだ。自分の気持ちを察せられたとしても、ドラマのためだと建前を振りかざせば、あの女も滅多なことで引き離そうとはしないだろう。


 ――――俺ってこんなピエロだったかなあ。こんなこと初めてだよ。


 グラスを持ったまま、バルコニーに出る。空気はもう冬の気配。冷たくしんとした風が肌に当たる。眼下に広がる煌びやかな都会の夜景が美しい。


 ――――それでもいい。今、俺は幸せだ。役者を目指して初めて、俺は本気の恋をしている。そうだな。まさにタイトルどおり、『最初で最後のボーイズラブ』だ。


 自嘲気味な笑みを享祐は口元に浮かべた。舌に残るのはビールの苦味だけではなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ