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嘘はBLの始まり  作者: 紫紺
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幕間 その3


「それじゃまた。今夜は楽しかったよ。おやすみ」


 マンションに戻ると、二人は各々の部屋へと向かう。エレベーターの扉が閉まるのを、どちらかともなく眺めていた。


「はあ……」


 享祐は部屋に入るなり、リビングのソファーにダイビングした。

 この一週間、いつも以上に忙しかった。夜中までロケが続いたのに、朝からまた撮影とハードな日もあった。


 ――――三十超えるときついって先輩が言ってたけど、本当だな。


 だが、今の疲れはそれだけが理由じゃない。というか、今日は物凄く元気だったんだ。他でもない、本日は『最初で最後のボーイズラブ』の撮影に加え、伊織との取材まであったのだから。

 しかもその後デートに誘い、共に過ごすことができた。享祐のテンションは絶好調だったのだ。


『ドラマを成功させたいから……』


 この一言を聞くまでは。


 ようやくため口をきくようになって、『享祐』とも呼んでくれた。なのに……。


 ――――理由なんて聞くんじゃなかった。


 大きくため息を吐く。伊織の気持ちはわかる。あいつが今回のドラマでブレイクしたいのは若い役者であれば当然だ。自分の十年前はもっと露骨だったかもしれない。


 ドライブ中の伊織は可愛かった。乗り慣れないのか何度も座り直したり。突然、どんな妄想にかられたのか、頭をふりふりしたり。見てて飽きない。愛しい気持ちを抑えるのが苦しいくらいだ。


 もそもそと起き上がり、冷蔵庫からビールを出す。プルトップを力任せに開けると一気に喉に流し込んだ。


 ――――あいつの望み通り、恋人ごっこをするか? ドラマの撮影期間限定で。


 伊織のためならそれもありかと思う。恋人ごっこであれば、もっと積極的にふるまうことも可能かも。と、そんな下心も湧いてきた。

 だけど、そうしてしまえば、ずっと本心を言えないまま終わってしまうんだ。


 冷蔵庫の扉に凭れ、窓の外に浮かぶ夜景が黒目勝ちの瞳に映る。それがいつしか滲んでいくのに気付いた。


 ――――涙……。なんてこった。俺もずいぶん甘ちゃんになったもんだな。


 もう一度ビールを口にする。今日に限って、苦味が舌に残った。




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