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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第11章…俺は真面目に働く

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俺もアルバイトをする

 「俺、アルバイトやるよ」


「えっ?」



その日の夜。

柚希が酔い潰れない程度に軽くお酒を飲んでいる時、俺はそう言った。



「柊斗アルバイトやるの? どうして?」


柚希はきょとんとした表情で俺を見た。


「どうしてって……普通に考えて働かなきゃならんだろ。俺は家を追い出されて貯金もそろそろ底をつくんだから」



俺はもう裕福なお坊ちゃんではない。柚希が愛しすぎて、柚希を幸せにするために今すぐにでも働かないと気が済まない状態だ。


そもそも俺は家を追い出される前からもともとアルバイトをやるつもりだったんだ。当時は柚希と一緒にバイトしてお近づきになりたいという下心丸出しの動機だったけどな。


で、動機はどうであれバイトする気マンマンだったんだけど、メイド服姿の柚希があまりにも可愛すぎて眩しすぎて、バイトしたい気持ちがどっかに吹っ飛んでしまっていた。


しかし今こうして柚希と同棲を始めたことで、『絶対にこのままではいけない。働かなくてはならない!』という気持ちに再び火がついた。いや、火というより炎だ。



「別に柊斗は働かなくても大丈夫だよ? 私がずっと養ってあげるから」


「そうはいくか! 俺は柚希にいっぱい甘えたいけど、こればっかりは甘えるわけにはいかねぇんだ!」


ここまで世話になっといて柚希のヒモになるとか恥知らずにも程がある。

柚希は柊斗にとってとことん都合の良いヒロインという設定にされてるんだろうが、いくら柚希の言うことでもこれだけは聞けない。



「俺は柚希の足を引っ張りたくない。家に住まわせてもらった恩は必ず返す。絶対に柚希の役に立ってみせる」


「……柊斗……好き……」


柚希は瞳を潤ませて俺に尊敬の眼差しを向けてきた。別に尊敬される要素はどこにもないんだけどな。人として当たり前のことしか言ってないんだけどな。



「そっかそっか、柊斗がそう言ってくれるのはとても嬉しいよ。私、今のバイトそろそろ辞めようかなって思ってたところだから」


「え? 柚希メイド喫茶のバイト辞めるのか?」


「うん、店長さんには近いうちに辞めるってもう伝えてあるよ」


「な……なんで辞めるんだ?」


メイド服の柚希は破壊力最強レベルの可愛さだったから辞めちゃうのはちょっと残念な気持ちはある。

もちろん柚希の気持ちを最優先に尊重したいから文句は一切言うつもりはないが。



「なんでって……それは……」


俺がなんでって聞くと柚希は頬を少し赤らめて、視線を逸らして俯く。



「……私は、()()()()()メイドでいたいと思ったから……」



「……っ!!!!!!」



柚希の顔は灼熱のように真っ赤だった。顔が赤いのは酒のせいか、それとも……


柚希の言葉、表情、仕草で、また心臓を貫かれてしまった。

それは……柚希の無敵可愛いメイド姿を、これからはガチのマジで《《俺だけが》》見ることができるということでいいんだよな……?

そんな嬉しすぎることを恥ずかしそうに、こっちをチラッと見つめられながら言われたら……破壊力すごすぎてしばらくノックアウトされた。



「そ……その、私たちもう付き合ってるわけだし!? ちょっとエッチなバイトは控えるべきだと思ったんだ、うん!」


柚希は手をブンブン振って弁明するが、破壊力がさらに増してるだけなんだよなぁ……砂糖より甘い血を吐きそうだ。



「それでね、メイド喫茶のバイトは辞めて、別のバイトをしようと思ってるんだけど……どのバイトにするかは今考え中」


「そうだったのか」


「柊斗は何のバイトをするのか考えてるの?」


「ん? んー、えーっと……まだ決まってないな……」


『頑張りたい!』『働きたい!』って気持ちだけが先行して具体的に何のバイトをしようとかは全然考えてなかった。気持ちだけじゃダメなんだよ、バイトについてちゃんと考えないと。そんなこともできてない俺無能だな。



「決まってないならさ、ウチの店長さんに相談してみたらどうかな?」


「店長さんに?」


サングラスの怖そうなおっさんだったよな店長さんって。まあ怖そうなのは見た目だけでちょっと話してみたら優しそうな感じだったけど。いやしかし見た目が怖いとやっぱりちょっと苦手だ。申し訳ない店長さん。怖いものは怖い。



「店長さんはね、いろんな仕事をいっぱい経験してるらしいから何かアドバイスしてくれるかもしれないよ」


「そ、そうか……」


あの店長さんがいろんな仕事を、ねぇ……

俺の脳内には反社会的なものばっかり思い浮かんでくる。思い浮かべただけで怖くて震える。

いや見た目で判断するのはよくねぇけどマジで店長さんのオーラヤバかったからな。多くの修羅場をくぐり抜けてきた感じがするし、味方になってくれたらすごく心強そうだ。



「私が柊斗と付き合い始めたことは店長さんにもちゃんと話して、私が辞める理由も察して受け入れてくれたんだ」


「そうか。店長さんいい人だな」



俺は柚希の彼氏、柚希は俺の彼女。

俺たちが交際していること、できるだけ多くの人に知ってもらいたい気持ちはある。拡声器で全力で叫びたいくらいだ。もちろん近所迷惑だから自重するけどな。




―――




 後日、俺と柚希はメイド喫茶の店長さんに会いに行った。

柚希はバイトを辞める日までもう少しあるのでそれまではちゃんと今まで通りバイトするようだ。

俺は客として来店し、店長さんと話をしたい。



「栗田様、いらっしゃいませ」


「こ、こんにちは店長さん」


店内に入ってすぐ店長さんと会えたので挨拶する。いい人だってわかってるけどやっぱり怖い。



「柚希ちゃんも一緒か」


「はい、こんにちは店長さん! じゃあさっそく私はメイド服に着替えてきますね」


柚希はそう言って更衣室に向かった。

俺と店長さんの2人になって緊張感が増す。



「柚希ちゃんから聞きましたよ、柚希ちゃんと交際を始めたのですね。おめでとうございます栗田様」


「あ……は、はい、ありがとうございます」


祝福してもらえたのが嬉しくて、少し緊張が解れた。



「それで……俺はバイトをしようと思っているのです。少しでも柚希に恩返しがしたいんです。で、どんなバイトをしようか考えているところなんです」


「ほう、ならばウチのメイド喫茶で働きませんか?」


「え!? 俺がですか!?」


俺がメイドって誰が得するんだよ。柊斗は中性的な顔はしてないし、身長は高めだし体格もややガッチリしてるしで女装したところでギャグにしかならない。どんな仕事でも頑張る覚悟はしてきたけどメイドはちょっと無理だろ……いやしかし給料次第ではやる価値あるか……?


俺が真剣に悩んでいると店長さんはクスッと笑った。


「はは、冗談ですよ栗田様。ウチの店は女の子じゃないとダメです」


冗談だったのか……俺明らかに緊張してる感じだし緊張を解そうとしてくれたのかな……でも店長さんが言うと冗談に聞こえなくて怖いぞ。



「冗談はさておき、私でよければ相談に乗りますよ。お任せください」


うおう、頼もしいなぁ。俺も店長さんみたいに頼られる男になりたい。



「柚希ちゃんから聞きましたよ。栗田様は運動がとても得意のようですね」


「いえ、それほどでもないですよ……」


「ふむ、確かに栗田様は背丈も体格もなかなか。これなら体力が必要となるバイトもこなせそうです」


「はは……」


この身体は()()()身体だからちょっと複雑な気分だな。でもこの身体に入っている俺を柚希は肯定してくれたから、もうあまり気にしないようにしたい。

柚希のためならこの身体、最大限に活かしたい。



「わかりました。私のツテでいいバイト紹介しますよ。ちょっと体力的にキツイですが給料は弾む仕事があります。きっと栗田様ならやりとげられるはずです」


「おお、ありがとうございます!」



キツくても給料が良いバイトか、俺はどんな仕事でも頑張ると決めたからその方が都合がいい。

店長さん見た目が怖いからなんかうさんくさいバイトかもしれないと思わされるが、柚希は店長さんのことを信頼してるみたいだし、俺も店長さんを信じるぞ。


もしも店長さんが悪い人だとしたら、その店で働いている柚希に間違いなく危険が及んでいたはず。でも柚希はこの店でずっと元気にやってきたんだから大丈夫だ。



……とはいえ、緊張や不安はやっぱりある。

いや、しっかりしろ俺! 柚希のためなら、悪いこと以外はなんでもやってやる! 気合い入れるぞ!! よし、気合い入った!!



「お待たせしました!」


ドキッ!!


メイド服に着替え終わった柚希が来て、気を引き締めたはずなのにあっさりとゆるゆるになってしまったのであった。


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