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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第1章…推しのヒロインがいる世界に転生
3/79

2人目のヒロイン・龍崎梨乃




―――




 朝食を食べ終えて次は登校時間だ。

苺と一緒に住んでることは学校では内緒で、ウワサされたらイヤだからという理由で苺と一緒に登下校することはない。


まあこれも原作通りだ。原作でも柊斗と苺が一緒に登下校したことなど一度もない。

苺は最終的に結ばれるヒロインだが、最後の最後まで苺と一緒に登下校するシーンは描かれなかった。


苺が先に学校に行き、それから5分くらい待って俺も出発した。



転生して初めての学校だ。

原作でしっかり読み込んだ俺は学校がどこにあるのかはだいたいわかっている。学園モノでありがちな、特に特徴にないごく普通の高校だ。


普通じゃない学校の場合は校則とかの説明とかしなくてはならなくなっていろいろめんどくさくなる。普通の学校って設定にしておけば読者に説明する必要がなくて便利なのだ。


まあでも緊張はするな。2次元の世界の学校に行くのなんて生まれて初めての経験だからな。

前世でも高校生だったのは10年くらい前だ。話が合うかどうか不安だ。


そんなことを考えながら通学路を歩いていた。



「キャッ!?」


「うおっ!?」



曲がり角のところで、俺は女の子とぶつかった。



女の子は俺とぶつかって尻もちをついて、スカートの中身が見えていた。俺は慌ててそこから目を逸らす。

あまりにもラブコメの教科書というようなテンプレのベッタベタの展開。2次元ではアホみたいに何度も見たこの光景も、自分自身が体験するのは生まれて初めてで、なんかむず痒い。



「いたたた……」


「ごめん……大丈夫か?」


俺はその子に手を差しのべる。彼女は素直にその手を握った。


「いや、こちらこそすまん……ん?

あれ、なんだ栗田君じゃないか。おはよう」



!?

俺は彼女の顔を見てハッとした。



彼女はヒロインの1人、龍崎(りゅうざき)梨乃(りの)だ。



黒髪ショートカットのクール系美少女。

基本的に無表情であまりしゃべらない。しゃべる時は男っぽい口調。

スポーツが得意で弓道部に所属している。弓道をやるクール系美少女……オタクにはたまらんだろう。俺もわからんでもない。


クールビューティで無表情系ってのはオタクに大人気属性で、この梨乃も例外ではなく超人気ヒロインといえる。


この漫画、3回人気投票をやったけどこの梨乃は第2回の一度だけ苺に勝って人気1位になったこともある。苺の対抗馬、2番手のライバルヒロインにふさわしい存在だ。


俺の推しではないが、間違いなく彼女も人気ヒロインと言える。



しかし、梨乃も結局は負けヒロインとなる。

とはいっても俺の推しと比べればとても扱いが良いと言える。最後の最後まで苺と苛烈なヒロインレースを繰り広げ、読者を大いに盛り上げた。


最終回直前で失恋して泣くシーンは多くの読者を感動させた。



推しではないけど梨乃は可愛い。目が合うだけでドキドキする、そんな魅力が間違いなく彼女にはある。

だが俺は若干違和感を感じていた。今の状況に。


梨乃とぶつかってパンツが見えるなんてシーン、あったっけ?


原作もアニメもバッチリ履修済みだけど登校中に梨乃とぶつかってパンツが見えたなんてシーンは記憶にない。


原作と微妙に違ってきているんだろうか? 主人公の人格が変わったんだから多少は原作とのズレがあってもおかしくないのかもしれない……



「? どうかしたか栗田君」


「いや、なんでもない」


「早く行かないと遅刻してしまうな。せっかくだから一緒に行こうか」


「あ、ああ」



梨乃と一緒に登校することになった。

梨乃は学校でもかなりの人気者で、周りの男子からの視線が痛い。ラブコメでよくある状況だ。




―――




 学校に到着。


「ではまたな、栗田君」


「ああ……」


梨乃は別のクラスなのでここで別れる。

俺は自分のクラスの教室に入る。



「おはよ~柊斗~」


「……あ、お、おはよう芋山いもやま


「え? なんで上の名前で呼ぶんだ? いつもみたいに善郎よしろうって呼べよ」


「あ、ああ、善郎……」


()()()()って呼んでくれてもいいんだぜ?」


「……断る」



こいつは芋山いもやま善郎よしろう。栗田柊斗の親友だ。

ラブコメにおける主人公の友人のテンプレみたいな男だ。お調子者で、スケベで、ヒロインたちにはウザがられる。でもなんだかんだでいい奴……みたいな。


漫画をしっかり読み込んだ俺だがハッキリ言って善郎はあまり興味なくて、呼び方すら間違えるほどだ。

俺はこんなんで()()()()になりきれるのだろうか。



「くっくっく……」


善郎はなぜかニヤニヤした顔で俺を見てきた。


「なんだよ」


「いや、今日は苺ちゃんと一緒じゃねぇのか?」


「別に一緒じゃねぇけど。ていうかいつも一緒じゃねぇし」


「照れんなよ、お前と苺ちゃんはクラス公認カップルなんだからよ。スミにおけねぇなぁ、このこの」


うぜぇな……



まあ確かに()()()()()()だったな。俺と苺が一緒に住んでることは学校のみんなは知らないはずなんだが、()()()()確かに俺と苺はクラス公認カップルということになっていてよくクラスメイトにからかわれたりする。


なんでクラス公認カップルになったのかというと―――



「ちょっと、教室の入り口で突っ立ってんじゃないわよ。邪魔よ」



後ろを振り向くと、こっちを睨みつける苺がいた。

明らかにイライラしている表情をしてやがる。俺と話す時はいつもこんな感じだ。



「なんだよ、別に邪魔じゃねぇだろ。普通に通れるだろ」


「うっさい、あんたの存在自体が邪魔なのよ」


「なんだとコラ」


俺と苺はその場で言い争いを始める。

クラスメイトのみんながそれを見てニヤニヤとしている。



「まーた栗田と小雀がイチャイチャしてるよ」


「夫婦喧嘩だ夫婦喧嘩」


「ケンカするほど仲が良いっていうし、お熱いねぇ2人とも」



クラスでは俺と苺がケンカするのは日常茶飯事で、いつの間にかクラス公認カップルとして認識されるようになっていた。

これじゃもう登下校を別々にしている意味ないな。意味があるとすれば、苺が柊斗(おれ)を意識して恥ずかしがっているというのがわかる、それだけだ。



……そう、このラブコメは苺が勝ちヒロインで、苺と結ばれることが決まっている。



もう物語は終盤に入っているようだ。クラス公認になるほど、俺と苺の仲はもうすでに深まっているところまで来ている。完全に()()()()に入っている。


苺は凶暴な態度だが、俺に何度も突っかかってくるし、言葉では俺を拒絶するが基本的に俺と絡むことが多いし、苺はもうすでに柊斗(おれ)に惚れている。



そして柊斗の中でも今の段階でもう苺を選ぶことがほぼ決まっている。

そう、()()()な。



俺は柊斗じゃない。名前は忘れたけどこのラブコメの読者、ファンの1人でしかない。

『武岡柚希』というヒロインにガチ恋している痛いオタクだ。




―――




 昼休み。昼食の時間だ。

俺は弓道部が活動している弓道場に向かっていた。


昼休みに梨乃がいつも自主練をしていて、俺は梨乃を見に行っている。

なぜなら原作でも柊斗はそういう行動をしてたから、俺も試しにちょっと同じことをしてみようと思った。



()()()()の本命は苺のくせに、苺ルートのくせに、梨乃のところに行くとは、やはり柊斗は女タラシの糞野郎だ。


まあ梨乃も人気ヒロインだから梨乃の出番を増やすために作者がそういう展開にしてるってだけだけどな。主人公というのは作者の都合で都合よく動かされる哀れな存在ともいえる。



弓道場に到着すると、たくさんの見物客が来ていた。しかもほとんど男子。

目当てはもちろん、龍崎梨乃。


梨乃はとても可愛くて男子にモテモテで、しかも弓道の実力もすごくてエースだから、みんなそれを見に来てる。

俺も梨乃が弓道をしているシーンは原作で何度も見たが、せっかく転生したのだからしっかりと見てみたい。



―――ビシュッ!


カンッ!



「おお~っ!!」


見事に的に命中し、見物客から歓声があがった。

梨乃の弓道の腕前は百発百中で、何もかもが美しくてすごい。


梨乃の弓道は一度は見る価値があるな。俺も実際にこの目で見れて感動した。



 自主練終了後、梨乃は俺に気づいて近づいてきてくれた。



「今日も来てくれたのか、栗田君」


「ああ、すごかったよ」


「ありがとう。なんだか照れるな」



照れくさそうに俯く梨乃の姿は、多くの読者を虜にしてきたに違いない。



「ちょっと柊斗、こんなところで何してるのよ」



「!」


梨乃と談笑していると、苺もやってきた。


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