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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第1章…推しのヒロインがいる世界に転生
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1人目のヒロイン・小雀苺

ヒロイン4人いるのでまずは4人紹介します。

主人公の推しは4人目で5話から登場です。



―――――――――



 俺は死んだ。間違いなく死んだ。

死んだはずなのだが、なぜか天国にも地獄にも行ってない。

ここはどこだ。真っ暗で何も見えない。何もない。


別に天国も地獄も信じてないから驚くこともないが。やっぱり死んだら完全なる『無』になるんだなぁ。


まあ推しのヒロインが報われない世界に何の未練もない。このまま永遠に無の状態でも勝手にしろって感じだ。何もかもどうでもいい。疲れた……



『――――――』



? なんだ?

何か声が聞こえてきたような気がする。なんて言ってるのか、どこから聞こえているのか、何もかもわからないが。



『――――――!』


また聞こえた。さっきよりハッキリと聞こえたような気がした。



『―――柊斗(しゅうと)!』



……? シュウト?

何を言ってる、俺はそんな名前じゃねぇ。


俺の名前は―――


…………

……


……なんだっけ?

あれ? 俺の名前なんだっけ? 全然思い出せん。


俺もう死んだから名前を失った的な? なんかその考え方中二病感あってイヤだな。



じゃあシュウトって名前は一体何なんだよ。生前の俺の名前じゃねぇことだけは確かなんだけど。覚えてないけど『シュウト』が俺の名前ではないことだけはなぜかわかるんだ。不思議だなぁ。


……待てよ。『シュウト』って名前、そういえば聞いたことあるな。



―――私っ、柊斗くんのことが好き!―――



―――そうだ。思い出した。

思い出すのに時間はかからなかった。死ぬ直前に一番強く思っていたことに関係する名前だからだ。



『ツンデレお嬢様と幸せになる話』

その()()()の名前だ。


栗田(くりた)柊斗(しゅうと)、17歳、高校生。


俺はこいつ嫌い。2次元キャラで一番嫌い。なんならこいつ以外の2次元キャラで嫌いなキャラはいないというくらいこいつが嫌い。


なぜなら俺の推しヒロインをフったからだ。俺の推しヒロインを泣かせたからだ。


お着替えシーンを目撃したり、風呂でバッタリ遭遇したり、一緒に布団に潜り込むイベントが発生したり……俺の推しと散々ラッキースケベを堪能しておきながら、推しを選ばなかった忌々しい糞野郎だ。


身長もそれなりに高く成績もそれなりに良く、さらにそれなりにイケメンなのが余計に腹立つ。


推しを選ばなかったから嫌いというのは我ながらガキだなとは思うがとにかく嫌いなものは嫌いなんだよ。


とにかく、なんでその嫌いな野郎の名前で俺を呼ぶんだ。



『柊斗! 柊斗ってば!』


うるせぇ、柊斗じゃねぇって言ってんだろ。

マジで何なんだよこの声。どんどんボリュームがでかくなって俺の脳内に直接響かせてきやがる。


……待てよ。この声、聞いたことあるな。

とある大人気声優の声に似ている。


別にその声優のファンじゃねぇし、声優オタクでもねぇから声を聞いただけで当てられるわけでもないので自信があるというわけでもないが。

なんか知ってる声のような気がする。


その声優は、『ツンデレお嬢様と幸せになる話』で、メインヒロインの役をやっていた。



…………

いや、まさかな……たまたまだろう。たまたま似ているだけだろう。



『柊斗! いいかげん起きなさい!』


ああわかったよ、起きるよ。どうせうるさくて寝られやしねぇし。

俺は声のする方向へ、ゆっくりと目を開けた。


真っ暗だった俺の視界に光が差し込んでくる。その光とともに飛び込んできた光景。



そこには1人の女の子がいた。

俺はこの女を知っている。知り合いじゃねぇけど知っている。



「はぁ、やっと起きた。手間かけさせないでよね」


目を見開いた俺を見て女は呆れたようにため息をついた。



信じられない。この目で見ても何もかもが信じられない。まさかとは思ったが、本当に……


さっきから何度もずっと俺を呼び、今目の前に確かに存在している女は、俺が読んでたラブコメのメインヒロイン、小雀(こすずめ)(いちご)だ。



金髪のツインテール、ツンデレという萌えの王道。

胸はペッタンコだし凶暴な性格で、暴力ヒロインというヤツだが、素直になれないツンデレな性格と、大人気声優の圧倒的萌えボイスの合わせ技で多くのオタクのツボにぶっ刺している大人気ヒロインだ。



…………

で、その小雀苺がなんでここに? なんで俺の目の前に? 2次元キャラのはずなのに。俺は2次元と3次元の区別くらいついている。2次元キャラに接触するなど絶対に不可能のはず。そのはずなのに。


その小雀苺は確かに俺の目の前にいて、俺に話しかけている。

紙の上や画面の上の存在ではない。俺と同じ空間に存在している。


俺の脳内は大パニックだ。何もかもが意味わからん。これは一体どういうことだ? これは幻覚か? 俺は死んで頭がおかしくなったのか?



「……何? 人の顔をジロジロ見て。キモい」


ツンデレヒロインの小雀はさっそく俺を罵倒してきた。

今の俺は罵倒されても反応する気力もない。普通に目の前に存在して当たり前のように話をするこいつにどうしても慣れない。


どうしても信じられない俺は、小雀苺の頬をつねってみた。


ガン!


ゲンコツされた。痛い。夢や幻覚とは思えない。

何もかも理解できないが、本当に小雀苺は俺と同じ世界にいた。



「……お……お前は誰だ?」


「はぁ? 何寝ぼけてんの? もう1回殴られたいの?」


「いいから名前を言え」


一応確認する。奇跡的に顔も名前も声も一緒の別人ってこともありえないことはないからな。確認だ確認。



「小雀苺だけど? それが何?」


……確認した結果、こいつは小雀苺だった。

とにかく漫画アニメの登場人物のはずだった女が今こうして実在している。それを受け入れないことには話が前に進まない。



「……じゃあ……俺は誰だ?」


「ねぇ、さっきから何言ってんのあんた!? バカじゃないの!?」


「おかしいのはわかってる。とにかく今の状況をハッキリさせたいんだ。

教えてくれ、俺は誰だ!?」


なんか少しずつ、現在進行形で()()()が一体誰だったのか不明瞭になってくる。覚えているはずなのにどんどんそれが遠ざかっていく感覚がある。それがとても怖くなってきた。



「さっきから何度も名前呼んだでしょうよ。

あんたは柊斗。栗田柊斗よ。なんなら鏡見る? ホラ」



苺が持つ手鏡に映る俺の姿。

それは、俺ではなかった。紛れもなくその姿は、俺が知っている栗田柊斗だった。


……やっぱりそうか……

俺は栗田柊斗……生前読んでたラブコメの主人公……


目の前にいる女、俺の名前、俺の顔。

それらの証拠を突きつけられ、認めざるを得なくなった。


俺は混乱して今の状況を理解するのにかなり時間がかかったが、時間が経つにつれてどんどん冷静になっていき、ようやく事態を飲み込めてきた。



かつてオタクだった俺は()()()()()()が起こる作品を何度も見てきた。


これは転生だ。俺は死んで生まれ変わった。

()()()が熱心に読んでいたラブコメの主人公に転生した。



「……えっと、それで……ここはどこだっけ……」


「あたしの家よ」



同じだ……『ツンデレお嬢様と幸せになる話』の内容と、同じだ。


主人公栗田柊斗は、ツンデレお嬢様の小雀苺と一つ屋根の下で暮らしている。

理由は親が勝手に決めた。苺は俺の婚約者で、苺と一緒に暮らすことになるという、ラブコメではありきたりな話だ。


今の俺も苺の家で寝ていた。これはどう考えても一緒に住んでいる。

漫画と同じ展開が起きている。


俺は……マジで今から栗田柊斗なんだ。

『ツンデレお嬢様と幸せになる話』の主人公なんだ。



「もう、いつまで寝ぼけてるわけ? シャキッとしなさいよ!」


バシッ!


「いってぇ」


背中を思いきり叩かれた。そんな強く叩かなくてもいいだろうが。

漫画で読んだ通り、苺は本当に暴力的な女だ。



「ごはんできてるってママが言ってたから早く来なさい」


苺はそう言って部屋から出ていった。

俺はその苺の後ろ姿をジッと見る。


この女がメインヒロイン。つまり……

もしこの世界の物語が、漫画と同じように進んだ場合……


俺はこの女と結ばれることになる。

この女が、このラブコメ世界での勝ちヒロインである。




―――




 俺と苺は食卓で朝食を食べ始めた。


苺の母もいて、俺の分も朝食を作ってくれていた。原作で何度も見た、いつも通りのシーンだ。

しかし俺は前世ではずっと1人暮らしだったから今の状況は違和感がすごい。慣れる気がしない。



「あ、ちょっと! 醤油かけすぎよ!」


「は?」


目玉焼きに醤油をかけてたら苺にキレられた。


かけすぎ? どこが? どこがかけすぎなのか全くわからん。

まあ原作通りか。柊斗も苺も醤油が好きでよくケンカになっていたな。



「かけすぎてねぇよ。これが普通だ」


「うるさい、よこしなさい」


強引に俺の手から醤油を奪い取りやがった。そして苺は自分の目玉焼きに醤油をかける。



ドババーッ


「は? お前の方が多くかけてるじゃねぇか」


「うるさい!」


「……チッ」


まあいい。俺は柊斗と違って別に醤油が好きというわけでもない。

苺なんてほっといて俺は黙って食べ始めた。



「あれ? どうしたのあんた。()()()()()ここで醤油争奪戦が始まるっていうのに。醤油をあっさり諦めておとなしく食べてるなんて珍しいわね」


「別にもういらねぇよ醤油なんか」


「ウソ……あんた醤油大好きでしょ!? ()()()()()あたしと大ゲンカ始まるところでしょ!? まああたしがボコボコにして終わるんだけどね」


いつもなら、いつもならって……知らねぇよそんなもん。

俺は俺だ。()()()()()()()はもういません。残念だったな。



食事を続けようとすると、なぜか苺が俺の目の前に醤油をヒラヒラとさせてきた。


「なんだよ。食いづらい。邪魔」


「ホラ、醤油よ」


「いらねぇって言ってんだろ」


「……何よ、つまんない」


原作とはまったく違うことを言った結果、苺の態度は言葉通りすごく退屈そうになった。なんだこいつ、構ってほしいのか?

これ好感度下がったっぽいな。ギャルゲーだったら間違いなく選択肢ミスった感じか。


まあいいや。好感度低いなら低いで別に構わん。悪いけどハッキリ言ってこの女を攻略する気はない。

人気第1位の大正義メインヒロインだか完全勝利ヒロインだか何だか知らねぇが、俺の推しではないからだ。


俺は、推し一筋。一途だ。

ハーレムを作る気はない。


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