episode 1-1-7 魔導列車強盗団(中編)
限界です。ひとまず書けるところまで書いてみました。
ここまで何度書き直したのか解らないです。
文才の無さに泣けてくる。
窓際に座っていた女性が突然立ち上がると、窓の外を指して悲鳴をあげた。ジニーとスピッツは、女性の声に驚いて振り向いた。二人はすぐに立ち上がると、女性のもとへ駆け寄り尋ねた。
「どうしたの、何かあったの?」
「い、いい、今、あの丘の上に人影が見えたの! あ、あれは間違いなく強盗団だわ!」
恐怖で震える女性の言葉に車内は騒然となる。ジニーやスピッツだけでなく、車内の全員が窓の外へ目を凝らした。車内には不安と緊張が渦巻いていた。
「人影? それらしいのは見えないけど」
スピッツが目を凝らして窓の外を注視する。暮れなずむ夕日に染まる連丘が広がっているだけで、それらしい人影はどこにも見えない。
スピッツの視線につられて、窓の外を見ていた他の乗客達も、一斉に窓に鼻先をくっつけた。だが、そこには何もなかった。人騒がせな、とでも言いたげな様子で乗客たちは女性を疑うような目で見た。その中には、不快感や怒りをあらわにする者もいた。
「ほ、本当よ。私は確かに見たの! ああ、あの丘の上にたくさんの人影がいたのよ!」
非難の視線を浴びながらも、女性は恐怖で声を震わせながら必死になって訴える。嘘をついているとは思えない。ジニーは窓の戸を持ち上げた。暴れ狂う風が車内に吹き込む中、ジニーの耳は確かにその中から異音を捕らえた。
「何かが近づいてくる!」
次の瞬間、車内に吹き込む強風にまぎって甲高い獣の鳴き声が聞こえた。その声をジニー以外の全員がその耳に捉えた。
「おい、今のはチョコボの鳴き声じゃないか?」
チョコボとは大きなくちばしと長い足を持ち、全身が黄色の羽毛で覆われた鳥型の魔獣だ。温厚な性格で人に害をなさない魔獣である。馬よりも早く走ることができ、山や川、砂漠など、どのような場所でも自由自在に素早く移動できる。
本来ならば、平地の草原に生息するチョコボの鳴き声が丘陵地帯で聞こえるわけがない。スピッツが疑問に思いながら窓を外を見つめると、それは突然現れた。丘の頂から、チョコボにまたがる一団が風を切って疾走している。彼らは列車に並行しながら、徐々に距離を縮めて来た。車内の乗客達はチョコボに騎乗する男達の獲物を狙う肉食獣のようなギラついた目を見て悲鳴を上げた。
列車が突然急停止した。鋼鉄を引き裂くような甲高い音が列車全体に響き渡り、騒然となった車内では、荷物が散乱し、乗客が床の上に転がり倒れた。ジニーはとっさに座席にしがみ付いたが、隣にいたスピッツは雪崩のように倒れて来た人だかりの中に埋もれてしまった。
ジニーは慌てて立ち上がり、窓の外を見た。丘の上にいた強盗団の姿はどこにも見えない。停車した列車は恰好の餌食だ。強盗団が見逃すはずがない。もしかしたら、すでに先頭車両へ向かっているのかもしれない。
ジニーは倒れ込んだ人だかりの中に埋もれたままのスピッツに声をかけた。
「スピッツ、大丈夫?」
「な、内臓が飛び出そうだ。早く、早く出してくれ」
スピッツは苦痛に顔を歪めながら、差し出されたジニーの手を掴んだ。ジニーは彼を引き上げようとしたが、重い荷物や人の体が邪魔をしてなかなか動かなかった。
「強盗団の奴らは?」
「姿は見えないけど、この状況を見過ごすはずがない。きっと今にもすぐにやってくるよ」
「ジニー、一つだけ解ったことがあるぞ」
周囲の人達の助けも借りて、やっと体を掘り起こされたスピッツは立ち上がりながら言う。
「強盗団の内通者は機関士だ。そうでもなければ、突然止まる理由が見当たらない」
「まぁ、これじゃ狙ってくださいと言っているようなものだもの」
その時、ずっと前の方から銃声が聞こえた。何発も轟いてくる銃声に、乗客たちはパニックになった。混乱の中、最後尾車両との連結扉が開く。現れたのは、列車の護衛として雇われた五人組の傭兵達だ。まるでこれから狩りでもするかのように、好戦的な笑みを浮かべている。
「邪魔だ、どけ! 道を開けろ!」
「殺されたくなければ、車両の隅っこで大人しく縮こまっているんだな」
車内に響き渡る獰猛な声。強盗団の襲撃にパニックに陥った乗客たちを、傭兵たちは容赦なく押しのける。彼らの任務は強盗団から乗客と列車を守ることだったはずなのに、床に倒れたままの乗客を石ころのように蹴り飛ばす。乱暴な足取りで歩く彼らの表情は、先ほど現れた強盗団と変わらない。スピッツがまだ倒れ込んでいたままなら、きっと踏み潰されていたに違いない。
「これから俺達がお前らの為に、強盗共を蹴散らしてやるんだ。ありがたく思いな!」
「臆病者共は、そうやって車両の隅っこでガタガタ怯えていろ」
傭兵達の視界に入らないように、ジニーとスピッツは車両の端によって大人しくしている。ジニーは傭兵達の実力を見極めるために、ひそかに彼らを監視していた。傭兵達は自分たちが強者であるかのような尊大な態度で、車両の中央を歩いている。高慢な態度で周りを見下している。ジニーはそんな傭兵達の視線の先、手に持つ武器、足元の動きなどを細かくチェックしている。傭兵達の個々の特徴や能力を知ることで、相手と自分とのレベル差を計ろうとしているのだ。
ジニーの祖母コーデリアはヴィジランツ(ダンジョンや魔素濃度の高い領域を探査する際の護衛役を主にした職業)として、祖父の冒険に付き合っていた。祖父曰く、単純な戦闘力では戦場で名を馳せた傭兵よりも強かったとのことだ。その祖母からジニーは様々な対人戦闘に関するスキルの基礎を叩き込まれている。
戦いは戦う前から始まっている。祖母から口煩く教えられたことだ。
ティンバーの駅構内で見かけた時から、ジニーは傭兵達を信用なんてしていなかった。ジニーの目には、列車と乗客を守る為に出て来た傭兵達が敵にしか見えていない。
「いいか、変な気を起こして俺達の邪魔をして見やがれ。そんな奴は、強盗共じゃ無くて俺達が殺してやるからな」
護衛対象の乗客達を脅す傭兵達を見て、スピッツはジニーに小声で話しかける。
「……この後、どうする?」
「……そんなの決まっているでしょ。何? もしかして怖気ついたの?」
ジニーはスピッツを挑発するように言う。ジニーの青い瞳が波打っているかのように好戦的な輝きに満ちていた。
「まぁ、聞くだけ野暮だよな」
スピッツは肩をすくめながらも、どこか楽し気に言う。その表情はジニーと同じように好戦的な闘気に漲っている。
二人とも戦闘が始まる直前の息が詰まるような張り詰めた空気を楽しんでいるかのようだ。
「お前達はここでガタガタ震えながら事が終わるまで大人しくしていろ。そうすれば、誰も怪我もしない。誰も死なない。余計なことは考えない方が身のためだぞ」
傭兵たちはそう吐き捨てて前の車両へと進んでいく。ジニーとスピッツは、車両連結扉が閉められた後もしばらくはその場から動かずにいた。前の車両から傭兵達の怒鳴り声が聞こえてくる。その耳障りな声が聞こえなくなってから、二人は傭兵達の後を追いかけ始めた。足音は急ぎ足になり、二人の間には緊張が走った。
前の車両も倒れた床に散らばる荷物と倒れ込んだ乗客達によって、車内は大混乱だった。荷物や乗客の隙間をかき分けながら、二人は傭兵達を追跡する。前の方から響き渡ってくる銃声によって、車内の混乱はさらに増していく。襲撃してきた強盗団の恐怖に耐えられなくてパニックになった人だかりの中を突き進んで行く。どれだけ急ごうとしても前に進むのが困難な状況だ。傭兵達との距離はどんどんと離れていく。傭兵達の姿は完全に見えなくなったが、奴らが通った後だけはしっかりと残されている。
強盗団の襲撃で錯乱した乗客達に押しつぶされながら三車両分移動したところで、ようやくジニーとスピッツは三等車両から抜け出すことができた。乗客達にもみくちゃにされながら突き進んだからか、ジニーとスピッツは気を切らしながら雰囲気の異なる車両を見渡した。その車両は列車で働く乗務員用の休憩室として確保された車両だ。車両内には緊迫とした静寂に包まれている。
激しい銃声音が前の方から何発を聞こえてくる。乗務員たちは、車両の隅にひしめき合って、恐怖におののいていた。しかし、中には勇気を奮い立たせて職務を全うしようとしている者も少なからずいた。恐怖に怯える乗務員を叱咤する声があちこちから聞こえてくる。
女性アテンダントが車両に入ってきたジニーとスピッツに目を止めた。
「あ、貴方達、何をしているの。危ないから、元の場所に戻りなさい。今は緊急事態なのよ。」
「あぁ、知ってるよ。強盗団が襲撃してきたんだろう。心配する必要はないさ。俺達がどうにかするから」
「な、何を言っているの! 馬鹿なことを言ってる場合じゃないのよ。貴方達みたいな子供が何をしようっていうの? というよりも何ができるっていうのよ。とにかく、傭兵達が強盗団を退治しにいったから、安全が確保されるまで元の場所で大人しく待っていなさい! 大丈夫だから、性格は最悪だったけど傭兵達の腕は確かなの。だから、安心してちょうだい」
アテンダントの制止を振り切って、ジニーとスピッツは車両を走り抜けていく。
「ちょっと、待ちなさい!」
「私達のことはいいから、そんなことよりも後ろの乗客達を落ちつかせた方がいいよ。あのままじゃ、無理やり扉と窓を壊してでも外に逃げ出しかねないよ」
ジニーはそう言うと、連結扉を閉めてアテンダントの声を遮断した。スピッツがジニーに向って言う。
「なぁ、本当にアイツらが守ってくれると思うか?」
スピッツは先ほど乗客を突き飛ばしながら進む傭兵達の貪欲な視線を見逃さなかった。彼らは獲物を選ぶかのように、怯える乗客たちをじろじろと見回していた。その視線がスピッツとジニーに止まると、傭兵達は酷薄とした笑みを浮かべた。
「お前も見ただろ? あいつら、俺達のことを気持ち悪い笑みを浮かべて見ていたのを」
「私達じゃなくて、スピッツを見ていたんだよ」
「はぁ!? なんでだよ」
「そりゃ、そんな見るからに高そうな服着ているからだよ」
「……普通の旅装のはずなんだけど、そんなにおかしいか?」
「乗る車両さえ間違わなければね」
従業員専用の車両を抜けると、そこは食堂車だった。天井からはクリスタルのシャンデリアが垂れ下がり、壁には古びた絵画が飾られていて移動する宮殿のような車両だ。しかし、その豪華な内装も先ほどの急ブレーキのせいで一変していた。ガラスのシャンデリアは揺れて床に砕け散り、絵画は壁からずれ落ちて破れてしまっている。テーブルや椅子はひっくり返り、割れた食器類と飲料と料理が床の上で混然一体となっているせいで、何とも言えない匂いが充満している。
食堂車にいる乗客達と給仕係の乗務員は、突然の強盗団の襲撃に慌てふためていた。そんな乗客達の中、ワインや食べ物で服を汚したまま何が起きたのか解らず呆然と座っている者を見て、ジニーはスピッツに言う。
「ここでなら、スピッツも普通に見えるかもね」
「俺の服装はそこまで変なのかよ」
「そうじゃなくて、同じ高そうな服を着ているじゃない」
スピッツは複雑な表情をして、自分の服と食べ物とワインで汚れた乗客の服とを見比べている。
「目立たないように普通の服を用意しろって言ったのに」
その少し大きな声で漏らした愚痴にジニーは苦笑した。
「きっとスピッツの周りではそれが普通だったからでしょ」
食堂車両を抜けると、今度はまっすぐの通路が続くだけの車両に出た。通路には等間隔に扉が設置されている。
「ここから二等車両のようだな」
「見るかぎり、二等車両から個室ってことなんだろうけど、一等と二等では何が違うの?」
「単純に部屋の広さだな。等級が上がるほど快適になる程度だ。二等車の個室は四席で、一等車は二席で部屋にベッドも付いていたな」
「……ずいぶん詳しいね」
「そ、そそ、そりゃ、俺は旅慣れしているからな」
たどたどしいスピッツの言い訳を聞き流して、ジニーは車両の通路を進んだ。
「にしても、無駄に豪華な客室だな」
通路を歩く際に、扉が開かれたままの客室の横を通り過ぎた際に部屋の中を覗き見たスピッツが毒づく。
「裕福な人間には、豪華な客室で快適な列車の旅をってか。そのおかげで強盗に狙われてたんじゃ快適もなにもあったもんじゃないな」
まるで金持ちに何か思う所があるかのように、スピッツは皮肉めいた言葉を言う。そもそも、この列車で一番の金持ちはスピッツなのではないか、と頭の中によぎった言葉をジニーは言わないでおくことにした。
「どうやら男達はこの車両にいるお金持ち達の財布には、目もくれずに一番の前の車両へ行ったみたいだね」
「仲間達と合流するのが目的なんだろ」
前の方から激しい銃撃戦の音が聞こえて来た。ジニーとスピッツは歩く速度を上げた。車両を移動すればするほど前から聞こえてくる銃声音が大きくなっていく。通路に人の気配はない。乗客だけでない乗務員の姿すらない。誰もが部屋の中で息を潜めて嵐が過ぎるのを待っているのだろう。強盗団の襲撃から時間が経過している。目の前の連結扉を開けて、次の車両へ移動したと同時に強盗団と出くわしてもおかしくはない。断続的に聞こえてくる銃声は、誰かが襲撃してきた傭兵団に応戦しているということだ。その誰かは傭兵達でないのは確かだ。
「ねぇ、スピッツ。この列車って傭兵以外には防衛戦力になるような人っているの?」
「少ないけど警備員が乗ってはいるな。10人くらいは乗っていたはずだ。ティンバー駅で何人か置き去りにされたみたいだから、今は4,5人ほどじゃないか?」
「置いていかれた?」
ジニーはティンバー駅で列車に走って追いかけていた時を思い出す。あの時、プラットホームで自分の後ろを走っていた警備員が何人もいた。あれは列車に飛び乗ろうとしていたジニーを捕まえるために追いかけていたわけではなかったようだ。
「何人かがティンバー駅で降りるのを見ていたからな。プラットホームで必死に列車を追いかけていた警備員は、多分交代要員だったんだろう」
この話を聞いたことで、スピッツは列車の機関士が強盗団と内通しているという疑惑が確信に変わった。ティンバー駅で警備員の大半を降ろしてしまったことで、列車は強盗団の襲撃に対してほとんど無防備になっていた。先頭車両に残された警備員達は、数で劣る強盗団と死に物狂いで戦っている。彼らは最後尾車両にいるはずの警備員と傭兵が、いつでも駆けつけてくれると信じているのだろうが、それは甘い考えだった。
ジニーは前に進むにつれて、車両の空気が戦場のように張り詰めていくのを感じた。息苦しいほどの緊張感にもかかわらず、彼女は口元に微笑みを浮かべた。
「さっきの傭兵達の狙いは邪魔な警備員達を排除すること」
「だな。警備員さえいなければ、ゆっくりと品定めする暇もできるだろうしな」
列車内にまだ強盗団が侵入してこないのは、彼らにとって警備員を強引に排除する必要がないからだ。機関士までもが強盗団の仲間だとすれば、再び列車が動くことはない。強盗団は、いずれ内部に侵入させた仲間である傭兵達が邪魔な警備員を片付けてくれるのを待っているだけでいい。
「どう考えても最悪な状況だな。作戦はあるのかよ、ジニー」
「お婆ちゃんが教えてくれたんだよね。獲物を狩る時に確実に安全な方法で狩る方法は、相手が油断している時を狙えってね」
「つまり、警備兵と戦っている強盗共にバックアタックを仕掛けるってことか?」
「それ以外に良い作戦があれば聞くけど?」
賞金首の強盗団との戦闘が迫っているというのに、ジニーは子供のように楽しそうにしていた。緊迫した状況にも関わらず、彼女の声には緊張感がまったく感じられなかった。スピッツは彼女の態度に呆れながらも、彼女の言うとおりにするしかないと思った。
「会った事も無いお前の婆さんだが、その教育に関しては一つか二つは言いたいことがあるが、作戦自体に文句はない。だけどな、一つだけお前に聞きたいことがあるんだが」
そう、強盗団と戦う前にスピッツが懸念することが一つだけある。それは、本当に二人だけで十人以上いる強盗団を退治することができるのかということだ。何よりも、スピッツはジニーのレベルを知らない。今日あったばかりの、しかも自分よりも年下に見える少女が、賞金がかけられた強盗団と戦えるとは思えない。
車両の連結扉に手をかけながらジニーは振り返る。
「聞きたいことって、何?」
「お前、さっきの傭兵達くらいなら倒せる程度の戦闘スキルを持っているって言っていたけどさ、本当なのか? 見た所、武器一つ持っていないじゃないか」
スピッツはジニーのことを疑っているわけではない。戦闘スキルといっても千差万別だ。武器や魔法による直接的な戦闘能力だけではない。回復魔法やアイテムを使用しての、戦闘を支援するスキルも戦闘スキルとして扱われている。もしも、ジニーが後者のスキルを有しているのなら、それによっては作戦を考え直さなくちゃならなくなる。
だが、ジニーがスピッツの疑問に答える前に、車両連結扉を貫いて男の怒鳴り声が聞こえて来た。
この後は強盗団との戦闘になります。
できる限り早く書き上げるつもりです。




