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自分を有能と嘯いたメンバーを勝手に勧誘して勝手に崩壊した話

作者: あうまる

 まずこの状況を整理しよう。今僕らはいつもクエストクリア時の打ち上げで利用しているギルドの酒場。そこで定位置になっている四人掛けのテーブルにいた。そこに超が付くほどの有名パーティが何も言わずに僕らの前に来たってところだ。


 僕らみたいな弱小パーティーにいったい何の用なのかよくわからない。


「えっと…何か御用ですか…?」


 とりあえず僕はリーダーとして何も言わずにこちらを見ている超有名パーティー『新緑の一団』のリーダー、グリンさんに声をかけた。実力もさることながらその容姿は世の女性を魅了してやまないらしい。


 グリンさんは返事をせず僕らを見る。そして目をつぶった。


「はぁ…なるほど…話を聞いていた通りだな。」


 一息おいてから声を出すグリンさん。いったい何を聞いていたというのか、僕らは目くばせをしながらグリンさんの次の言葉を待った。


「お前ら『肥沃なる大地』のパーティーメンバーは四人だろ。なのに何で三人しかいないんだ?」


 グリンさんは僕らを見渡しながら言う。なんだ、そんなことか。


「そりゃ、四人目は今トイレに行ってるから…」


 僕の隣に座っているパプルが説明しようと声を上げる。しかし彼女が言い終わる前にグリンさんは遮ってしまう。


「言い訳はいい!お前らパーティーメンバーをなんだと思っている!!」


 いきなりの怒声にさすがにビビりましたとも。


「い、言い訳なんかじゃ…」


 僕がちゃんと説明しようとするとグリンさんのパーティーメンバーの後ろから僕らの四人目のメンバー、グレアが顔を覗かせた。


「なんだグレア、そんなところにいたのか。グリンさんに説明してあげてよ…」


 僕はグレアの顔を見てホッとした。これで誤解が融けると思ったから。だけどグレアは思いもよらないことを言い出した。


「ほ、ほらグリンさん…俺の言ったとおりでしょ…俺はこの席に座る許可すらもらえなかったんだ…」


「はぁ!?あなた何言ってるの!!?」


 グレアの言葉を聞いて声を荒げたのは僕の向かいに座るレド。彼女は立ち上がりグレアに詰め寄ろうとした。しかしそれはグリンさんのパーティーメンバーのイエリーさんに阻まれた。


「暴力で黙らせようって魂胆かしら?おとなしく座っててくれないお嬢ちゃん。」


 イエリーさんに押されてレドは椅子に座らされてしまった。


「いや、許可も何もいつも…」


「ほら!いつも俺はこの打ち上げに参加してない!俺がいない間に勝手に報酬の分け前を決めて俺には金貨一枚しかくれないんだ!!」


 それを聞いて僕は頭を抱えてしまう。ああそうだ…こいつこういうやつだった…


「話に聞いてた通りだな。お前らが最近クリアしたクエストのほとんどをグレア殿が中心となってやっていたのに、渡される分け前が金貨一枚とはどういう了見だ!?そんなの宿代と昼食代で消えるような額じゃないか!!」


 もう僕らは頭を抱えているだろう。


「なんだ?何も言えないのか?はっ、所詮は寄生することしかできない弱小者ってことだな。」


 グリンさんは軽蔑した視線をこちらに向けている。なんかもう、どうでもよくなってきた。


「…それで、それを言うためだけに来たんですか?」


 僕はもうどうでもよくなって、そもそも何しに来たのか聞いてみる。


「知れたこと。グレア殿はこれからうちのパーティーに入ってもらうことにする。もうお前らとは一切かかわらないからな!」


 それだけ言ってグリンさん入ってしまった。他のメンバーもグリンさんの後について行く。そしてグレアもこちらをバカにした表情を見せて行ってしまった。


 後に残った僕らを他の客は軽蔑の目で見る…ことはなく肩を叩かれ、よく我慢したなと色々とおごってもらった。


 まあ、あいつの事を知っていればこういう風に慰めてくれるよな。


 さて、さすがにパーティーが三人だと面倒だから新しいメンバーを募集するか。




 グレアが抜けてから一か月が経過した。僕らはあの翌日にメンバー募集をしたらすぐに応募してくれた人を迎え入れて新生『肥沃なる大地』として忙しい日々を送っていた。


 そして今日もクエストクリアの打ち上げでいつもの酒場にいる。


 いつもと違うのは僕の足元に装備を剥ぎ取られボロボロになったグリンさんが土下座をしているくらいだろうか。


「すまなかった!!俺があいつの言葉をうのみにしたばかりに!!どうかあいつを引き取ってくれないだろうか!!」


 額を地面にこすりつけて叫ぶグリンさん。しかし僕は無視をして食事を続ける。他のメンバーも同じだ。新しく入ったブルルさんだけちょっと戸惑っているが。


「すまないブラン殿!本当に申し訳なかった!!」


 あ、ブランって言うのは僕の名前ね。


 まあ、グレアは口先ばかりで実力はからっきしだったからね。口はうまいから交渉用にメンバーとしていてもらったけど、まさか他のパーティーに入るために自分がいかに有能か触れ回っているとは思わなかったよ。


 まあそれを鵜吞みにしてパーティーに入れたら実力はないわ、パーティー内外でもめ事を落とすわで『新緑の一団』の評判は地に落ちたらしい。


 具体的に何がどうなったのかは知らないけど、飛ぶ鳥を落とす勢いだったのが、街を歩くだけで石を投げられるような状態だとか。


 それでいてグレアは『新緑の一団』から出て行かないものだから今やパーティーは壊滅状態らしい。


 まあ因果応報って言うのかなこういうの。


 僕らは土下座を続けるグリンさんを無視して食事を続けた。

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