第八話
天文五年 (一五三六年) 十月 播磨国 飾東郡 上鈴村 山本勘助
儂は諸国を放浪していた。だが何処の国に行っても色黒で容貌醜く、隻眼、体に無数の傷があり、足が不自由で、指もそろっていないので不気味がられ、酷い時には石を投げられていた。
そして放浪している時に面白い噂を聞いた。播磨の飾東郡にある小寺家の嫡男によって、三年で小寺領内が豊かになったという噂だ。
しかも、その嫡男の年齢は七歳と聞く。儂は興味が出た。この噂が本当だとすると、その嫡男はとんだ麒麟児であるからだ。
だが、一つ問題がある。
それは、儂の容姿が良くない事だ。恐らくこのまま、面会を望んでも牢に入れられるだけだろう。
そこで儂は一つ策を取った。それは、噂の嫡男の領地である上鈴村の寺に居ついて周辺で噂になる事だ。
だが、これは賭けだ。嫡男が来なければ、無理矢理追い出されるかも知れないし、最悪の場合、捕縛される可能性もある。
そして儂は賭けに勝った。何故なら寺で子供達に算術を教えていた時に、侍にしては幼く、侍の子にしては上等な着物を来た男が、話しかけて来たからだ。
「そなたが噂の牢人か?」
そう、聞かれて顔を向けた時顔には出さなかったが驚いた。何故なら儂を見て、哀れみの表情でも、軽蔑の表情でも、嫌そうな表情でも無く、普通に尋ねて来たからだ。正直嬉しかった。この様な姿になってから普通に見られる事が無くなったからだ。
その後諸国を放浪していた事や諸国の情勢、兵法について話した。彼は真剣な顔をしながら聞いてくれた。
そして、少し悩んでからこう言った。
「そなたさえ良ければ小寺家に仕えてみないか?」
思わず驚きが顔に出てしまった。そして、思わず少し試してしまった。
「小寺家は不気味な男でも雇って貰えるのですか?」
男は不敵な顔をしながら言った。
「俺はそなたが欲しい。だから、そんなの関係ない」
そこで腹を括った。このお方に仕えよう。このお方の為なら死んでも構わないと。
だから、頭を下げて
「儂を此処まで買ってくれたのは貴方が初めてです。
どうか儂を小寺家に仕えさせては貰えませんか?」
と言った。
儂は今日の出来事を一生涯忘れる事は無いだろう。
初めて他者視点で書きました!
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