ボトルレター
冬のよく晴れた日
道を歩いていたら
きれいなガラス瓶を拾った
明るく透けているのを
手元にかざして
少し、眺めてみた
いろんな角度から見ていると
光の加減で明るくなったり暗くなったり
瓶の中が
揺らいでいる
何か、聴こえる…
瓶の中で
風が鳴っている
さらさらと
静かにしている時だけ聴こえる
笹の風音みたいなもの
机に飾ってみたけれど
何か違った
瓶の中の風が
外に旅したがっているみたい
そうだ、この瓶で
ボトルレターを出そう
さっそく便箋を買いに行った
空色の便箋があって
とても素敵だったから
「ひとつください」
ぽかぽかした気分で
家に帰った
さあ、なんて書こう
……………………………………
はじめまして
これを拾ってくれた人
ありがとう
きみの住んでいる町からは
海は見えますか
山は見えますか
都会もいいですね
ここには小さな駅しかありませんから
どれもとても憧れます
こちらは朝がとても早いです
夜明け前からみんな起き出して
仕事に出かけたり学校に行ったりします
夕方には帰ってきて家で過ごします
夜になると星がきれいに照らします
きみの町はどうですか
お返事ください
待っています
………………………………
どんな人が拾ってくれるんだろう
おじいさんかもしれないし
ちいさな女の子かもしれない
あ、でも
よその国の人かもしれないね
お返事も、出せるとは限らない
それなら
書き直してみよう
……………………………………
はじめまして
これを拾ってくれた人
ありがとう
誰だかわかりませんが
同じくらいだと思って書きます
今日はいいことありましたか?
さみしかったり苦しかったりは
しませんか
拾ってくれたあなたに感謝を
新しいことに手を出せる
好奇心に感謝を
あなたに何か
いいことがありますように
友愛を込めて
まだ会ったことのない
あなたに
……………………………………
手紙を書いてみたら
空色の便箋の上に
白い雲みたいに文字が並んでいた
だからそれを
飛行機の形に折りたたんで
瓶に詰めて栓をした
できあがったボトルレターを
眺めていたら
瓶のなかで便箋が
幸せの青い鳥みたいに見えた
ほんとは飛行機だけどね
ボトルレターを流しに
夜の川原まで歩いていった
川岸に降りて
そっと瓶を手放すと
ゆらゆら揺れて流れていった
なんだか、とても大切にしていたものを
失くしてしまったときみたいに
すうっと、さびしくなった
川面は鏡みたいに凪いでいて
夜空の星が映っていて
まるで瓶が
天の川を流れているみたいだった
……あれ?
…………本当に?
見間違いかと思ったけれど
見間違いじゃない
瓶が本物の夜空のなかを
流れていた
ほんのり青いボトルレターは
流れ星みたいにきれいだった
どうして?飛行機に折ったから?
鳥が飛んでいったみたい
しばらく瓶を見送っていた
星に紛れてみえなくなるまで
誰か、宇宙人が
拾ってくれるといいな
と思う
最近読んだ、107号室通信、という漫画の空気感がとても好きで、一話は短いのですが、不思議な印象のショートストーリーが集まっていました。
そういうのを目指してみました。
あくまでも、目指しただけですが。。