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世界旅行記  作者: 大人モドキ
3/3

#3

 ある旅人が険しい山道を歩いていました。この旅人は絶滅したと言われている竜人族でした。彼は自分の住んでいた集落に炎を放ち、周りの森ごと焼いた者を探すため旅をしていました。彼がしばらく山道を歩いていると看板を発見しました。看板には私たちの国は崖の上です、と書かれていて看板の後ろにはとても登れそうにはない壁のように高い崖がありました。彼はそれを見上げ、なるほどそういう事ですかとつぶやくと、ローブの下から翼を出してまっすぐ上へと羽ばたいて飛んでいきます。やがて崖の上につくとそこには大きな門があり、その前に見張りの兵士と思われる人が二人立っていました。

「ようこそ、ここは我ら有翼人族の生まれた国です! 飛んでこれるという事は旅人さんも亜人ですね。どうぞごゆっくりしていってください!」

 亜人とは人間族を除く全ての種族の総称です。そしてそのように迎え入れられた彼は見張りの兵士に有翼人族の生まれた国とはどういうことかと聞きました。

「それではご説明いたしましょう、何故この国が有翼人族の生まれた国と言われているのか。それはそれは昔、この地で一人の天使族と一人の悪魔族が出会い、恋に落ちました。ですが天使族と悪魔族は本来絶対に相容れる事など出来ない種族、当然の事ながら両種族が互いを愛し合うなど許されることではありません。そこで二人はこの山に隠れるようにして二人で暮らし、やがて交わり天魔族という種族が生まれました。天魔族は山の中で隠れるように繁栄し、そして国を作りました。そしてその天魔族の子孫が我ら有翼人族というわけです」

 国の歴史を聞いた彼は入国検査を済ませた後、門の中に入って行きました。国の中は多くの人たちで賑わっていました。彼はしばらく国の中を見て回りながら竜人族の島について知ってることを聞いて回りました。しかしそれについては誰も彼の求めているような詳しいことは知りませんでした。ですが有翼人族はこの国だけでなく世界中にいるからそいつらに会って話を聞けば何か分かるかもしれないとも教えてくれました。彼はその度に、お礼を言い国の中を歩いて行きました。

 翌日も彼は国の中を見て回ります。国の中は昨日と変わらず活気に満ち溢れています。しばらく見て回った彼はある事を近くの人に聞いてみました。

「一つお尋ねしますが、この国に天使族か悪魔族がやってきた事はありますか?」

 その質問に対して、そのような事は俺が知る限りはないなという答えが返って来ました。彼はしばらくいろんな人に声をかけてその質問をしますが、答えは全部同じでした。入国門の前で入国する人たちを彼は見たりもしましたがその中にも天使族も悪魔族もいません。結局この日は入国する人たちを見るだけで日が暮れてしまったので彼は宿屋に帰りました。そして入国してから二日後、彼は旅に戻ろうと国の玄関口である大きな門の前にいました。国を出た後はどちらに? という兵士の質問に対して彼はぐるりと回って山の裏側に行こうかと思いますと答えます。

「あー、悪いですがそれはやめといたほうがいいと思います。あのあたりはずっと昔から白い雲と黒い雲がぶつかっていて、絶えずそこから灰色の雨が降っているんです。もしかしたら異常はないのかもしれませんが私たち有翼人族からすればどうも不気味に思えてしまって、私たち自身はもちろんこの国を訪れる旅人にも近づかないように警告しているんです」

 それを聞いた彼はその光景は山頂からでも見れるのかと尋ねたところ、見れると思いますと答えが返ってきました。そして、でもわざわざその光景を見たいだなんてあなた物好きですねと皮肉を言われました。しかし彼は気にすることなく国を出て山頂へと登ります。山頂からは先ほど兵士が言っていた光景がよく見えます。彼はそこから飛び、少し近づいてその光景をよく見ました。

「……やはりそうですか、天使族は同じ種族内のルールを守らない異端を許さず、どこまでも執拗に追いかけて罰を下す。対して悪魔族は魔空間に住み、同じ種族内で休むことなく戦い合うため同じ種族のいる所に、どこであろうと魔空間から顕現する。あの国の昔話を聞いて両種族の追手が来ないのはおかしいと思いましたが、あの位置で遠目からは雲に見えるほどの軍勢で両種族間で戦争をしているとは……。それにしても天使族と悪魔族が交わり天魔族が生まれ、時を経て有翼人族に成り下がってもなお戦争をしているとは、天使族と悪魔族はどこまで行っても分かり合えない種族どうしなのでしょうね」

 彼は空中で一人でそう言うと、くるりと後ろを向いてそのまま飛んでいきました。

 とある山にひっそりと隠れるように国がありました。その国は天使族と悪魔族が交わり生まれた天魔族の子孫、有翼人族が暮らす国でした。そんな有翼人族が近づかない山の裏では、今でも白い雲と黒い雲がぶつかり合ってそこから灰色の雨が降るという不思議な光景が見られるのです。

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