#2
ある旅人が道を歩いていました。この旅人は絶滅したと言われている竜人族でした。彼は自分の住んでいた集落に炎を放ち、周りの森ごと焼いた者を探すため旅をしていました。
彼がしばらく歩いているとある村にたどり着きました。その村は村中にある樹に咲き誇る花が有名で遠くの町や国から花を見に来る人が種族を問わず沢山いるほどでした。
「これは……見事なものですね。この村の事は様々な町や国で噂は何度も聞いてはいましたが、まさかこれほどまでに綺麗に咲いているとは……」
彼が村の入り口で花に見惚れていると、一人の村人が自慢気に近づいてきます。その人は自分は村長だと名乗り、この村の花を見にいろんな町や国から獣人族や魔人族などいろんな種族の人が来る事、この村の花の樹は自分たちの祖父の代の村人たちが植えた事、この綺麗に咲き誇る花は今の時期にしか見ることが出来ない事などを村の宣伝を交えながら彼に教えてくれました。
「この村について様々な事を教えていただきありがとうございます。この村には本当に様々な場所からこの花を見に様々な人がやってくるのですね。それでなのですが、この村に様々な場所から人がやってくるという事はそれだけ村の外の様々なお話を聞くと思います。今のようにこの村の事を色々と教えながら旅人とお話をする村長さんならなおさらの事だと思います。竜人族の住んでいたと言われている島の事について、何かお話を伺った事はありませんか?」
彼がそう尋ねると村長さんは首を横に振り、儂もその島にしか住んでいなかった竜人族が絶滅したという事しか知らんと言いました。彼は村長さんにお礼を言い、村中の花を見て回る事にしました。村の樹々には色とりどりの花が沢山咲いていて彼だけでなく、その花を見にこの村に訪れた様々な種族の多くの人たちが笑顔になっています。そうしてしばらく彼が花を眺めながら歩いていると彼の視線がある一本の樹で止まります。その樹は村の中央に生えているのですが周りの樹々とは全く違い、その樹にはしめ縄が飾ってありましたがその樹の枝には一輪の花も咲いていません。彼がその樹を不思議そうに眺めていると、彼の後ろから誰かがぶつかってきました。彼が振り返るとそこには彼より少し背の小さい、彼と同じようにローブをフードまでかぶって全身を覆い隠した一人の少女が立っていました、唯一顔までは彼とは違い隠していませんでしたが。彼が大丈夫ですかと声をかけようとすると、彼女は申し訳なさそうにペコリと頭を下げそそくさとその場から去ってしまいます。その後、入れ替えるようにして村を見回っていた村長さんと再び出会います。その時彼は村の中央の樹について村長さんに尋ねます。
「ああ、あの樹はずうっと前からあそこに生えてるもんでなあ。なんでも儂の祖父の代の村人たちが花の木を植えるよりも前から生えてたそうだと。あの樹にも花が咲くかもしれないと祖父の代からずうっと手入れしてきたんだが、まったく咲く気配すらなくてなあ。まあでもしめ縄が飾ってあるのを見るとどうやら神樹らしいから村の連中は枯れ花の神樹と呼んどる」
村長さんはほかに聞きたいことはあるかと彼に尋ね、彼が大丈夫ですと返すとその場を去っていきました。その夜、村の宿屋で寝ていた彼はふと目を覚まし宿屋で寝ている人たちを起こさないようにしながら宿屋から出ていきます。宿屋を出た彼が向かったのは村の中央の神樹でした。そこでは昼間彼にぶつかってきた一人の少女が何かの準備をしていました。
「やはりあなたも、人間族の方ではありませんね?」
その声にビクッとして少女は彼のほうへ振り返りました。そして彼にあなたは何者かと尋ねました。
「おっとこれは失礼。申し遅れました、私は竜人族のロンといいます。ただの旅人です。もしよろしければあなたの事も教えていただけませんか?」
「……私は精霊族、精霊族のシンといいます。私はこの村に、花を見るためではなく別の目的でやってきました。そしてこの神樹が私の目的です」
彼がその目的を尋ねると精霊族の少女は自分の目的を教える前にと、この地の歴史教えてくれました。
「遠い昔、ある二つの国が戦争をしていました。今となってはその戦争の理由などはわかりませんが、その戦争の主な戦いの場となったこの地では多くの兵士たちがその命を散らしました。その兵士たちの無念の思いがやがて怨念となり、強力な呪いとなって長きにわたりこの地に多くとどまっていました。この村はその、この地の呪いを解こうとやってきた解呪師や聖職者たちが集まってできたと言われており、その解呪の方法としてこの地の呪いを全て吸い上げ、まとめて解呪しようと植えられたのがこの樹なのです。ですがこの地にとどまった呪いはあまりに多く、一度では解呪しきれないため何年もかけて何度も解呪師をこの村に送り、解呪を繰り返してきました。ですがそれも今日まで。この地の呪いをを調べたところ、今度で完全に解く事ができそうなのです」
少女はそこまで喋ると、ローブを脱ぎます。ローブの下には美しくも神秘的な巫女装束をきていました。
「この神樹にたまった呪いを解く方法は神樹に解呪師の命と共に舞をささげる事。この度の解呪が終わればこの樹はほかの樹と同様、綺麗な花をたくさん咲かせるでしょう。そこであなたにお願いがあります。解呪が終わったら、歴代の解呪師と同様にこの樹の下に私を埋めてください」
彼は少女のお願いに少し思案して、分かりましたと伝えました。その答えに彼女はにこりと微笑むと、少女は舞を踊り始めます。するとどこからともなく白い光が沢山集まってきて、彼女の周りを囲んで踊るように回りだしたり、宙を漂ったり、樹の周りを回ったりなど、白い光たちはまるで樹の周りで遊ぶ小さな子供たちのように動き回っています。やがて彼女が舞を踊り終わるころ、白い光たちは次々と神樹に吸い込まれていき、それに伴い神樹はどんどん光を帯びていき、最後の白い光が吸い込まれると神樹はまぶしいくらいに輝いていました。そして神樹のまとっていた光は形を変えると消え去りました。そして光をまとっていた神樹は、昼間は一輪の花も咲かせていなかったその枝に満開の花をこれでもかというほど沢山咲かせ、昼間の樹の面影はもうどこにもありません。そしてこの神樹が姿を変えるのとほぼ同時に彼女はその場に倒れました。その後、起きてきた村人や花を見に来た人たちが村の中央の樹の変わりように驚きながら彼のもとに駆け寄りました。彼は夜の間に起こったことを全て説明し彼女の願いをかなえるのを手伝ってほしいと言いました。そして村人たち総出で彼女の埋葬を行い、神樹の根元に小さなお墓が出来ました。そして翌日彼はその小さなお墓に手を合わせた後、村を出ていきました。
あるところに村がありました。その村は村中にある樹に咲き誇る花が有名で遠くの町や国から花を見に来る人が種族を問わず沢山いるほどでした。その村の中でも一際きれいに花を咲かせる樹がありました。その樹は村の中央に生えていてしめ縄が飾ってあるだけでなく、その樹の花は花の咲き終わる時期を過ぎ、長い月日を経て再び花が咲く時期がめぐっても咲き続けたため村人や村を訪れた人達から永遠の花の神樹と呼ばれていました。