闇市
時刻不明、ハワイ諸島、オアフ島にて
「今なら外骨格パーツ両腕分でトークン120枚だ!膝下片方で100枚!」「60分5枚、お兄さん、寄ってかない?」「それはこっちの客よ!こっちは4枚、どう?」「両目サイバネ化…トークン250枚だ」
かつては観光地として栄えていたハワイ諸島、今や見る影もなく荒廃し、取り残された住民が密かに回収した「鉄神」の部品の売買や違法サイバネ手術、違法性施設が横行している。他国では受けられない違法手術やパーツを必要とする人間が命懸けで上陸すると言われているが、他国の一般人には都市伝説レベルの知名度しかない。島ではトークン(日本円換算で1枚8000円)の通貨と両替される。
「脳内SSD増設230枚」「90分コース8枚」「外骨格全身350枚」等様々な看板が立てられ、異様な雰囲気の人間が行き交う通りを抜けていく男。腰には大型拳銃と電磁ナイフが吊され、見えるだけでも右目、両肩、両腕がサイバネ化されている。男は何の看板も無い小さな小屋に入っていった。彼を気にかける物は誰もいない。
何も無いように見える小屋の中。男は床板に手を掛け、引き上げた。そこには地下への階段。男は降りて行った。地下には広い部屋。器具こそ清潔に保たれているが、部屋はお世辞にも清潔とは言えない。奥に居るのはボロ雑巾のような服を着た小柄な初老の男である。「いらっしゃい。腕が?目か?全身か?」「全身で頼む」「高く付くぞ」
小屋のすぐ近く、
「調子ニ乗るんじャネェぞおイ!」両目をサイバネ化した男が叫ぶ。「貴様が仕掛ケテきただロうガ!」こちらの男は両脚をサイバネ化しているようだ。
2人とも違法手術を受けた人間である。彼らはハズレの闇医者を引き、粗悪なSSDと杜撰なサイバネ化により言語能力に障害を来たしているのだ。本来ならサイバネ義眼と腰駆動により正面からぶつかるなどは有り得ないのだが、杜撰な手術を受けた結果である。2人とも被害者であるが、この島に来た時点で何らかの「加害者」であるのだ。
「…騒がしいな」防犯カメラのモニターには外の様子が映し出されている。「この程度日常茶飯事よ。それに…」「用心棒だろ?」遮るように男が答える。「何だ君、見てきたのか?」「いや、適当だ」「そうか。整備はすぐに終わる。トークン100枚だ」「ぼったくりが」「その口縫い付けるぜ?」「全く、食えねぇ爺さんだ」
「何をしている?」両目サイバネの男の肩にサイバネ義手が置かれる。「何だ…ッ」「貴様…」両脚サイバネの男もその義手の主に目を向ける。義手の主は2m近い身長、四肢のサイバネ化された男だった。2人の男は後ずさる。「止めときな。周りもアンタも怪我するぜ」男は顔色一つ変えずに言い放つ。周りの人間も異様な雰囲気を感じ取り、離れて輪を作って見物する。
「ふざケるな!ブッ殺しテヤる!」「頭が高ェ!」2人の男が同時に殴りかかる!
男は臆することも無い。男の上半身が回転し背中が正面を向いた。次の瞬間…
2人の男は10m近く吹き飛び、野次馬の群れに背中から突っ込んだ。この瞬間をビデオ撮影し、スーパースロー再生したなら何が起こったか理解できるだろう。
男の上半身は200度回転した状態から超高速で正面に戻り、高速で放たれた左腕の打撃が両目サイバネの男、右腕の打撃が両脚サイバネの男をそれぞれ吹き飛ばした。
「命とサイバネは守ってやったぜ。不満があるなら来い。」
「クそッ…」2人の男はよろけながら立ち上がり、退散して言った。
「あんたすげーな、何者だ?」つい先日ここに越してきたという左腕の無い野次馬の男が尋ねる。「単なる用心棒さ。」男は巨体に見合わぬ柔軟な動きで人混みを抜けていった。
「な?あの用心棒も俺が手掛けた男だ。」「アンタ腰も弄れるのか?」「当然よ。俺はそこいらの闇医者とは格が違うぜ」「俺もあの用心棒みたくしてくれよ」「トークン倍額だぜ」「なら断る」「お前も食えねぇヤツだぜ?」「当然だろ」
4時間後…小屋から男が出てきた。全身のサイバネは新品同様に整備されている。男は客引きを躱しつつ港へ向かっていった。男がどこに向かうのかは、彼しか知らない。