黙示録は予言足りうるか(前)
「今日は面白い場所に連れてってやろう、少し前から出てきたクソみてぇな奴らの集まりにな。…と言っても覗きに行くだけだ。」
「どこへ行くんだ?」フリックショットが聞き返す。
「"黒鉄新教"の施設だよ。」レネゲイドは懐から鍵を取り出しながら答える。
「上のヤツらから話聞いてるぜ。過激派がいるんじゃねぇのか?」
「末端の連中だ。それに俺の車なら逃げれるしな。ヤツらもここまで追う程じゃねぇだろ。」
「にしても何故行くんだ?」
「アイツら俺達の妨害を考えてるっぽいんだよ。最も妨害だけで済めばいいんだがな。冷やかしと視察を兼ねて見に行くんだ。取り敢えず乗りに行くか。」
階段を昇り小屋から離れ、古びたコンクリートの建造物に入る。中には黒く塗装された疾風。二人は共に乗り込む。
「Hello World."Old OIRAN"」
キーを挿し込むとシステム音声が答え、車内のライト、空調が触れることなく作動する。
「俺の愛車、"古花魁"だ。防弾処理、ランフラットタイヤ、エンジン、サスペンション、ありとあらゆる場所が普通の疾風とは比べ物にならねぇ。ホイールには1回きりの武装も仕込んであるしな。」
フリックショットが息を飲む傍ら、システム音声と共にオーディオが起動する。
「適当に流してくれ」
レネゲイドの声に反応し、オーディオは70年近く前の音楽を流し始めた。
「俺はどうにも最近の曲は肌に合わねぇんだ。人間の感性なんて正直70年前から僅かしか進化してねぇしな。俺はこの曲がいい。」
「お前古い頭してんだな。」
「俺がいねぇと入れねぇヤツに言われたくねぇよ!」
レネゲイドは笑いながら返しつつ、ハンドルを握る。
「行くぜ!」
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「…驚いた…雷霆を使える物がいるとはな。」
椅子に座る小柄な男が僅かに怒気を孕んだ声で話し、眉間にシワを寄せる。
「我々にとっても予想外です、しかし沿岸部に現れた時の人間の反応は次回にも生かせるでしょう。」
対面に座る半身サイバネの男が答えた。
「…成程…」
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獣の咆哮のようなエンジン音を轟かせながら、古花魁のヘッドライトは朝焼けに照らされる廃墟群を切り裂く。
「150kmも出すんじゃねぇよ!ぶつかれば一発で終わりだぞ!」
「大丈夫大丈夫、お前もしかして俺の運転テクニック信用しないのか?」
慌てるフリックショットに対し、レネゲイドは飄々とした態度で答える。
「当然だろ、お前の運転は初めてだしな。」
「そんな事言われちゃ俺悲しいぜ?」
「いいから安全運転しろ安全運転!」
「あと10分で間に合わせてぇから180km出すぜ!ガハハ!」
フリックショットの注意など聞こえていないかのように古花魁は一気に加速、メーターが180を指す。
「殺すぞテメェ!」
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廃墟群を通り抜けた古花魁は、周囲に不釣り合いなほど整備の行き届いた建造物の前にタイヤ跡を付け停止する。
「さてと、到着だ。」
「何だ?この場所。気持ち悪ぃな。」
「ヤツらの集会所さ。潜入して密告するぞ。」
「報酬とかねぇのか?」
「お前は船の貢献と今からのを合わせてこの国での自由権が与えられる。俺は日頃の化け物退治とシステムメンテナンスで権利は頂いた。今回はメンテナンス名義で来てるんだよ。金もあるぜ?」
「…面白そうだな」