真の力、異形の物
5月28日 午前4:23分
KABOOM!
「クソ!奴ら前より多いぞ!」
「関係ねぇ!ブッ殺せ!一人残らず皆殺しだ!」
「土蜘蛛」の車載機銃、「柊」の機関砲の砲撃音が夜明けの港に轟く。その先には無数の黒金新教の信者達。何人もの信者は弾幕に突っ込み哀れにも肉塊と化す。次の瞬間!物陰から飛び出した信者が土蜘蛛に飛びつき、機銃を撃つ兵士に掴みかかった。
「ッ?薄汚ねぇゴミ虫が!」
不意打ちとは言え信者は一般人であり、戦闘訓練など受けてはいない。故に正規兵との差は歴然。瞬く間に組み伏せられ、マウントポジションからの激しい殴打を受ける。
「何の騒ぎだ?」
フリックショットはBSから降り、桟橋で臨戦態勢の警備兵に話しかける。
「カルト教団の連中だ。ヤツらの狙いはアンタだ。危ねぇから中に戻れ。」
「そうかい、悪ぃな」
「…にしても…ヤツらが俺を狙う理由?」
フリックショットは階段を上がりながら考え、やがて船内に戻った。
「彼らにとって私達は邪魔者ですよ。BSの身分で鉄神に楯突いているのです。」
「おうおう、怖いねぇ。ここは奴らを信じ…」
SMAAAASH!言い終わらない内に轟音が響き、異形の多脚兵器の残骸が桟橋に吹き飛んで来た。
「クソ!奴ら戦車を持ってやがる!」警備兵の怒号が聞こえる。
「おい、俺達もヤバいんじゃねぇか?」
「そうですね。しかし…私の機能で解決可能です」
「乗っ取るのか?奴ら人間だぞ?」
「そのぐらい理解してま01000110100」
「?答えろ。おい、おい!」
ノイズが混じり始め、応答は消えた。
「カルト教団の癖に高ぇモン持ちやがって!」
土蜘蛛は回避機動を取りつつ、信者の動かす戦車「22式」に対戦車無反動砲の照準を定める。現在には既に骨董品レベルの代物…とは言えない。当時の最新技術を惜しみなくつぎ込み作られたこの車両。155mm砲は柊どころか轟天の装甲すら容易く破壊し、正面どころか側面の走行でも轟天の主砲に耐える。機動性も平地なら土蜘蛛に追いすがるレベルの恐ろしい性能を備えた凶悪な兵器である。しかし所詮は一般人の操縦。柊一両を破壊するは良いものの、無反動砲数発の直撃を受け、さらに交差点内で履帯を吹き飛ばされ擱座している。破壊されるのは時間の問題と言えよう。
KABOOM!KABOOM!
土蜘蛛から、低層ビルの屋上から、柊の影から、路地裏から放たれる無数の砲弾が直撃した。
KABOOOOOM!
爆炎を吹き上げ砲塔を吹き飛ばし、鋼の怪物は沈黙した。その周りでは逃げ惑う信者。しかし、機銃掃射とライフルの弾幕の前では逃げ損ない、単なる肉塊になるだけだった。
「カルトのクソ共、皆殺しにしたぞ!」
「フフフ…良いぞ…良いぞ…」
トランス状態に入り、携帯式の複合端末を操作する男。外から聞こえる轟音、場所は港からそう遠く無いようだ。画面にはBSのデータが映し出されている。
「01101100001000111」
「何があった!応答しろ!」
BSは応答しない。
「答えてみろ!何が起こってる?」
「011ハ00100111ン00」
「00111ハッ001111011」
「ハッキング…と言いたいのか?」
「01100」
「…探してやる!」
フリックショットはBSから降り、警備兵に話しかけた。
「BSがハッキングされている!ハッカーを探してくれ!」
「…了解した。警備部隊にネズミ捕りをさせる。」
程なくして発信箇所は船に乗り込んだ警備兵により逆探知され、兵士数人が乗り込んだとの報告が成された。
「01011ま帰りました」
「戻ったか!心配したぞ!」
「申し訳ございません、私の不注意で…」
「お前が無事ならそれでいいんだよ。俺はお前が必須なんだ。」
「対策を怠った私の責任です。」
「…堅物だな、お前」
同時刻 黒金新教本拠地にて
「なんと…哀れな…」小柄な男、伊佐美は壁のディスプレイを見ながら、何の感情も感じられない抑揚の消えた声で呟いた。
「ハッキングをさせようと電子戦担当も送り込みましたが…彼らの能力は想像以上で」「いいや」伊佐美が遮る。
「我等には幾らでも手段はある。まずは1つ目の手だ…」
伊佐美の顔が、不気味に歪んだ。