出逢い
鬱蒼とした森林の中に伝説の湖がある。
その伝説の湖は数多くの脅威的な魔獣が徘徊しており、その魔獣を切り抜けようとすると森林の魔力による幻惑作用と結界によりまともに進めない、そして湖に辿り着いたとしても、湖の守護者によって湖は護られ、誰もが辿り着いた事が無いと言う噂がある。
だが、その噂には最後はこうある。
曰わく湖の水を飲めば万病が治る
曰わく蘇生薬の素と言われている
曰わく不老不死の薬を作る素材になる
曰わく湖の守護者は絶世の美少女である
曰わく湖の水を直接浴びれば寿命が延びる
曰わく、曰わく、曰わく、曰わく、曰わく、曰わく、曰わく、曰わく、曰わく、曰わく、曰わく、曰わく。
とても噂が多岐にわたる、そして只一人、辿り着いた者がいた。
その者は曰わく、世界で最強、だが、『生活面』では最弱で右に出る者は居ない。
そんな者が只一人で森林を抜け、虫の吐息で辿り着いていた。
「コヒュー、コヒュー」
麻の背負い込み袋の中には大量の空瓶と皮の水筒と小型のナイフに所々削がれた干し肉と肉のこびりついた骨が入っていた。
その者は何もしなくても死にそうな風貌であった。
湖の乙女は湖の縁で足湯の様に足を浸け、ちゃぷちゃぷと足を遊ばせて、流し目で見た後、二度見をして息を呑んだ。
「‥……!」
その者は目が虚で木の杖を使いやっと歩けている程に衰弱していた、まるで光だけを頼りに歩いているかの様だった。
湖の守護者たる乙女は両手を太陽に翳すと、その両手には光が集い水瓶の形に変わり、その水瓶の中には何も入っていなかった。
その水瓶を持った乙女がその者に近づき、優しく膝をつかせ、次に寝かせてその者の口を開けると水瓶へ吐息を吐くと、水瓶にはコポコポと水が湧き出した。
乙女はその水瓶をその者の口元へ近づけ、ひっくり返した。
そう注ぎ込んだのではなく、ひっくり返し濁流の様に流れ出す水が口はおろか顔面を蹂躙した。
するとその者は痙攣した後に跳ねる様に起き上がった。
「はぁはぁはぁ! 溺死するかと思った! てか、死ぬわ!」
瀕死の魚が水を得て、打ち上げられた魚の様な元気さであった。
湖の乙女はほっと息を吐き、安堵した。
その者はゲホゲホを気管に詰まってた水を吐き出し、やっとまともに助けてくれた乙女を見た。
光の強さで色が変わるモスグリーンの髪と瞳に端正な顔立ち、膝まであるストレートの髪に豊満な胸とスラリもした手脚、薄い白のワンピースの姿はまるで神秘の権化であった。