46.レンジャーへの道・応急処置編
おれは森の中を逃げ回る。
身体は毒に侵され、一刻の猶予もない。
必死に目的のものを探す。
「あ、あった……!」
覚えたばかりの薬草学の知識を照らし合わせる。『デジャブ』で効能を確かめる。
よし、これで合ってる。
薬草を素早く口に入れ、飲み込みつつ、傷口に塗り込んだ。その後、傷を縫い、包帯で固定。
「はぁはぁ、助かった……」
「サーチ&デストロイ――サーチ&デストロイ」
いけない。
奴に見つかる!
おれは身を潜め、毒に侵され荒くなっている息を無理やり止める。
死神が通り過ぎるのを待つ。
「サーチ&デストロイ――サーチ&デストロイ」
ふぅ……行ったか。
「みーつけた」
光るメガネ。
叫ぶおれ。
森に木霊する悲鳴。
逃げ出そうとするも捕まり、取り押さえられた。
「人体を正しく理解し、動きを封じる。この理解の力はステータスの差を凌駕するのです」
「いたいいたいいたい!」
「身をもって覚えるのです。人体には過度に痛みを感じる箇所がこことここと――」
「ぎゃあああ」
「それをさらにこうすると――」
「ぎゃあああ」
「さぁ、答えなさい。あなたの口座の暗証番号と貯金額を」
「ぎゃあああ――8195……」
こんな感じで実戦的に様々なことを教わる。
解毒の方法、応急処置、捕縛や尋問の方法まで。
死神メガネ神官は異邦人で、珍しい技、独自の薬草知識を持っている。
神官だから聖属性魔法を使えるのに、使わなくても強い。
というより、上手い。
効率がいいというか、今まで見たことないタイプの強さ。
たぶん、おれが理想とするべき強さだ。
スキルではなく、知識と技術による効率的な戦い方。
「いいですか。スキル、腕力、そんなものに頼らなくとも人には等しく与えられた素晴らしい力があるのです。それが思考力――つまり理です」
「はい」
「理、それを技術として身に着ける。そのために必要なのは?」
「知識です」
「そう、この世で真に価値のあるもの、それは金でも愛でも命でもない。知識なのです」
「いや、それは言い過ぎ」
「知識なのです! 知識こそ至高! 知識があれば何でもできる! 知識を得る、それすなわち見聞を広め、知恵と成し、技に転化す。一般に技はスキルへと至るがあなたには限られたスキルしかない。ですが、スキルに相当する理の力すなわち叡智の力があれば問題ない。つまり、頭が良い者が真の強者、真の支配者なのだ!! うはははは!!!」
ちなみになんか怪しい薬をやっている。
やってそうではなくやっている。
だが実際この人の知識と技術は役に立つ。
ハードだが、短期間で多くを学んだし、『デジャブ』と逃走、『デジャブ』と罠、『デジャブ』と解毒、『デジャブ』と反撃等など、スキルの活かし方も上達した。
「あなたは数ある選択肢の中から、より有効なものを選ぶ力を持っている。知識と技術を学べば、後は経験などいらない。『デジャブ』で最適な活用を選べば良いのです」
「はい」
「さぁ休んだら最初からだ」
「ぎゃああ」
おれは毒ナイフで刺された。
背中を!
「さぁ、症状、怪我の具合から適切な対処をしなさい。必要な解毒薬を探し、調合し、傷を繕って、敵の追撃を躱しながら、生き延び、反撃に転じる!!」
「ひぃ~!!」
死ぬ。
本当に死ぬ。
おれは強壮丸を飲もうとして取り上げられる。
「こんなものに頼るな! 身体に良くないですよ!!」
「どの口が!!?」
「薬の効能や副作用が身体に及ぼす影響を学び、強壮丸の成分が何からできていてどう影響するのを知るのです。あなたに真に必要なもの、それを選択できるようになるのです!」
「はい! でも今は解毒が先!!」
こうして死の寸前まで追い込まれる訓練を受け、心身ともにズタボロにされる。
「迷宮に潜るならば、相手はモンスター。より複雑、弱点も様々、攻撃手段もスキルも多種多様。それに対応できるようになる、これは基礎の基礎です」
「はいぃ~」
「生き残りたくば考え続けなさい。強みを活かす方法を」
「は、ぁいぃ~」
「さぁ、もう一度だ!」
「ぎゃああー」
死ぬ寸前まで追い込まれた後、謎の薬を毎回飲まされる。クソマズい。だがなぜか飲みたくなるのだ。
「疲労回復、強壮作用があり、素早く消化できるようになっている。身体の抵抗力を上げ、強い身体を造れます。あと気持ちよくなります。いいですか、素材は――」
疲労困憊している頭で小難しいことを聞かされる。
ん? 途中気になることを言っていた気がする。
だが朦朧としてそれどころじゃない。なんだが身体が軽くなって飛べそうな……うへへ
演習用の謎の森林からは奇跡の技『転移』で礼拝堂に戻される。
礼拝堂で働く聖職者たちがおれを見て祈りを捧げる。
大丈夫です。今日も生きてます。
おれは礼拝堂の一室を間借りしてそこに寝泊まりしており、戻ってすぐ部屋に行く。
部屋に戻るころには夜になっている。
一応『ヒール』で傷は治してもらえるし、毒も残っていない。だが疲労が半端じゃない。
腹は減っているが喰う気力もなく泥のように眠る。
そうして二回目の朝を迎える。
「今――」
「うっ!?」
目覚めると院長がおれをのぞき込んでいる。
否。
顔だけが院長と同じ。
つまり院長ではない。
院長はこんなぼさぼさの髪ではないし、よれよれの服も着ない。
こんな淀んだ眼もしていない。カサカサの肌もしていない。それにもっとスマートだ。
「『精神次元超越理論』によれば、人のアストラル体は同一次元上の異なる時間軸への転移を可能とするとあのでございますぅ。今あなた様のステータスが更新された瞬間を確認したのでございますぅ」
院長はこんな脈略無く勝手に話さない。
変な語尾も無い。
ただ同じハイエルフなだけだ。顔がそっくりなだけだ。
三人目の教官。
彼女もまた変わり者だった。




