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女神じゃない

「わ、私と、つ、付き合ってください!!」


「あ゛」


 校内の中止に位置する大広間、の外。集会の途中で連れ出された俺は、同じクラスの女の子に、何故か告白されていた。

 正直言って、名前は知らん。

 そもそも俺は、この世界の人間ではなく、転生してここへやってきたのだ。

 すぐに元の世界に戻れると思って、周りの人との関わりを出来る限り避けていたので、クラスメートの名前すら分からない人も多い。


 俺がここに来たのは、約三年前のことだ。


 * * *


 俺は素晴らしい死に方をしたのだ。

 あれは、俺が中学校の部活の帰りだ。「部活に入っていた方が、高校受験に有利だから」とかなんとか言われ、仕方なく入った水泳部。


 毎日5キロも泳がなければならないことを、入部してから知り、絶望したのを、今でも鮮明に覚えている。プール内には、多量の藻がふよふよと浮いており、とてつもなく汚かった。

 プールの水の濁りに比例するように、投入する塩素も多くなる。塩素は、白く小さい円盤型のもの。それを水泳部がガッツリ素手で掴み、プールに思い切り投げ込む。


 いかにも楽しそうに投げ込む部員たちの姿を見て、俺は練習開始五日目にして、退部をほとんど決意していた。


 俺はいつもと同じように、5キロを汚いプールで泳ぎ、夜の七時に解散となった七月のある日(退部を決意したにも関わらず、結局続けている)。俺以外の人たちからすれば、何か特別なことがあるわけでもない、限りなく続く日常の中の、単なる一日でしかなかったその日は、俺にとって忘れられない日となった。


 夏とあって、夜の七時にも関わらず、まだ辺りは薄暗い程度。人の顔の判別が、辛うじて可能だった。


 そこで見つけてしまったのだ。金色の天使を。


 目を全開にして———かなり気持ち悪いが———彼女の美しい顔面を凝視した。


 学校の近くのスーパーの前。仕事帰りのおばちゃんたちが食材などをカゴに放り込んでいく中に、一人だけ明らかに年齢が小さい女の子がいた。

 俺と同じくらいの年齢の女子。もしくは、俺より歳上。推定身長は150センチメートル。クラスの背の順で一番後ろを張る俺からしたら、身長の差はかなりあるが、庇護欲を沸かせる、とても可愛らしい娘だったのだ。

 

 ズッッッッッキューン!!!!


 ……俺、どうかしてたわ。かなり頭がおかしかった。その時多分、部活が辛すぎて欲求不満だったんだろう。でないと、そんなアホなことを思うはずがない。

 スーパーにいた女の子を好きになった? ソイツは誰やねん。自分でツッコミたくなった。


 周りのオタッキーな男子どもは、二次元にハマり始めているこの頃。少子高齢化を食い止めるためにも、俺の感覚は正常であるといえるのかも分からないが、自分は疲れているんだと言い聞かせるしかなかった。


 ———人を好きになるなんて、今までなかったから。


 俺は叫んだ。


「———ウホォォォォォーッッッッ!!!」


 道のド真ん中で。きっとホントに頭がおかしくなったんだろう。

 そして、その後すぐに、体の側面に鋭い痛みが走った———




「———オレは女神、桑山晴人、お前は死んだ」


 なんでやねーん!!!


 俺はいつの間にか、神聖な雰囲気をガンガン醸し出している、いくつも光が点在する、見たこともないような不思議な空間に立っていたのだ。

 そして俺の前には、ムキムキのマッチョで、肩幅がクソ広い、サバゲーに出てきそうな人がいた。格好はなんと、女神のように綺麗。だけど体格! 体格が……!


「オレは女神だ」


 は?


「いやいや、何シレッとウソ吐いてんだよ。というか、自分で女神っていうんなら、その隠す気ゼロの、完全な男の声をなんとかしてくれよ」


 この不思議な空間に、自称女神のハスキーボイスが轟き渡る。


「あ? 文句言うなや。日サロ我慢して、この白い肌を保ってんだからな?」


「お前の体格でもう手遅れなんだから、今更日サロに行ったところで何も変わりはしねぇよ。堂々と日サロに行ってくれ」


 女神と言う割には、余りにも俺の理想とかけ離れている。この人は誰でしょう? と訊かれたら、間違いなく女神ですと答える人はいないだろう。なんなら、マフィアとか、別荘のボスとか、その辺の人と答える人の方が多いと思われる。


「んなことより、テメェは死んだんだ。今からオレの話をよく聞いていないと、オレが今ここでお前を絞め殺す。いいな?」


「俺は死んだんじゃないのか。ここで絞められたらもう一度死ねるの? あと、テメェって言うのやめてくれるか?」


 俺は既に自分の死を受け入れていた。だってこんなところ、俺でも地球ではないな、と思ってしまうくらい、神秘的な場所だったのだ。

 なんかここに来る前に、ちょっとだけ痛かったし。

 多分警察の流れ弾が当たったんだ、そう当たったんだ。俺のドジで死んだわけではない。流れ弾、そう……な、流れ弾な———


「お前は叫び過ぎて、喉が裂けた」


「死因は言わなくていい。どうせそんなことだろうとは思っていたからな」


 正直言って、聞きたくなかった情報だ。


「あとさ、自称女神。なんで男なの?」


「オレは女神つっただろうがクソどもが!」


「どもじゃないです。一人です」


「……神に頼まれたんだよッ! お前が女神をやってくれないか、とな。本物の女神は、人間になっちまったからよ」


「は?」


「金髪の、やけに顔の整った女だ。……ちょうどお前くらいの年齢としだったな……」


 なんか……こころあたりがある、気がする。


「なんか、何年か前に、地球人に一目惚れしたらしいぞ。詳しいことは知らないけどな」


 いや、なんか違う気がしてきた。あの子ではない気がする。だって、スーパーに行きますかね? 行かねぇだろ、普通。


「とりあえず、お前は転生……というか、身体はそのままで、転移してもらう。もちろんここではない世界に、だ。剣と魔法の世界とでも言おうか」


 ニヤニヤしながら言う自称女神を見て、俺のテンションは爆上がりだ。


「マ、マジか!? テンション上がるぅ!!」


「あっちでは、お前は孤児として扱われる。学校にも行かなきゃならねぇ」


「なんでだよ! なんで孤児なんだよ。やっぱ行きたくない! 俺、お父さんは死んじゃったけど、お母さんは一応生きてるんだよ。俺が死んだら一人になっちゃう」


「しょうがねぇだろ、死んじまったもんは。しかし、お前も残念なヤツだな。死んだら女神じゃなくて女装した男が出てくるし」


「自覚してたんだな」


 自覚してんなら、今すぐにやめたまえ。


「女神は地球に行っちまった。だが、オレは強いんだぞ。今から守護霊を授けてやる。気の毒なお前のことだ。特別にいいヤツをあげるぜ」


 なんだ、守護霊って。なんだか異世界っぽいワードだが。


「転移する前に、守護霊の説明をしようか」


 ニタニタと気色の悪い笑みが、俺の目の前にあった。

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