俺の活躍
「喰らえええッッ!!『インフェルノ』ッッッッッ!!!」
俺の右手から、凄まじい威力の炎がオークに向かって放たれる。彼らは瞬く間に一部が灰と化し、ただの焼きブタになった。
その黒焦げになった肉の塊を、ここの村人たちは一斉に奪い合い、自分の家に入れる。
あの醜いブタの何がいいのか、全くもって理解不能であったが、必死に焼きブタを取り合う村人たちを、俺は無表情のまま眺めていた。
この小さな村がオークの群れによって襲われたのは、昨日の夜中のことだ。最近は知能が発達してきたのか、弓矢程度なら手に持ち、戦うようになったオークたち。元来、力の強いオークは、村を焼き討ちにしていた。
村の中心部に堂々と建っている高台から、救援魔法を空へと放ち、村の長は状況を王都へと伝えた。
しかし、王都の騎士たちのほとんどが魔王領へと出ており、これ以上王都から兵を出すことはできないと、SOSを拒否したのだ。
そのため、急いで国内の冒険者ギルドに呼びかけて、冒険者を集めようとした。
だが、夜中という時間もあり、ギルドいる冒険者は、みんな酒に酔っていた。
そこで俺が登場する。
俺が通っている国内最強の魔法学校でも、五本の指に入るほどの強力な魔術を使うことのできる俺が、冒険者を探し回っていたギルドで働く若い巨乳のお姉さんに、優しく話しかけたのだ。
「お姉さん、僕が行きましょう」
爽やかさを最大限に出すために、咄嗟に一人称を『僕』に変更する。加えてキメ顔。
そして精一杯のイケボを意識。
いつもより重低音かつ聞き取りやすい俺のイケボは、お姉さんの心に深く刺さったらしい。
若いお姉さんは目を輝かせながら、胸の前で手を合わせた。
「ほ、本当ですか!? ぜひ、お願いします!!」
涙目になりながら、喜んでいる彼女を尻目に、俺は彼に小声で話かける。
「(頼むぞ、レシュア。お前だけが頼りだ)」
僕の守護霊である、イケメンのレシュア。貴族のような派手な格好に赤髪、右手には一メートル五十センチほどもある、長いコンツェシュ。
他の人から見れば、完全にヤバいヤツで、衛兵かなんかに通報されそうなものだが、残念ながらそれは叶わない。
守護霊は、他人には見えないのである。
守護霊というのは、この世に生まれた時から、無条件にその人を守ってくれる霊だ。必ず一人につき一人の守護霊が取り憑いており、守護霊がいなければ、そもそも生まれてくることなどできない。
戦いの途中で死んでしまうというケースはよくあることだが。
それで死んでしまう人はいない。一度世界に降り立ってしまえば、後は何の問題もないのだ。
要するに、俺の守護霊を見ることが出来る人は、俺自身と、他人の守護霊である。このルールは、全世界共通である、と思う。学校ではそう習った。
俺はギルドのお姉さんと一緒に、冒険者ギルドへ向かったのだ。
しばらく走ると、お馴染みの古くさい木造の巨大な建造物が視界のほとんどを支配するようになった。冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドには、大量の箒が用意されていた。
……これで飛んで、現場まで行ってくれということか……。
せめて転移魔法で送ってくれよ! っと思ったが、そういえば今は夜中。テレポート屋はとっくに閉まっている。
「服装から見て、サヴァラン魔法学校の生徒さんですよね?」
俺をここまで連れて来たお姉さんが、振り向いて言ってきた。
そう、俺の今の服装は、サヴァラン魔法学校の制服だ。ここら辺はアリクスロムという場所で、サヴァラン魔法学校の学園都市にあたる。
俺の魔法はかなり強力なため、学園都市の治安維持という目的で、教員から巡回を命令されていた。
俺だって、こんな夜中に歩き回るとか最悪、校長死ね! とか言っていたが、格好つける場面が都合よく俺の前に転がって来たので、それに乗っかった。
「そうですよ」
「あの、お、お名前をお伺いしても、よろしいですか……?」
恐る恐るといった感じで、ギルドのお姉さんが訊いてきた。
「ふん、僕の名前はハルト・クワヤマです。魔法学校の中でもかなりの実力者で、先生たちからは【炎の流星】という、カッコいい異名まで———」
「で、では! 箒に乗って、行ってらっしゃい! あなたの話なんて、どうだっていいのです!」
「おいふざけんな。最後まで話を聞きやがれ巨乳ビッチ。何故か分からんが、校内の俺の人気にんきが中々上がらないんだよ。噂では、口が悪いとかスケベとか変態とかクソとかカスとかアホとかバカとか———」
オークのボスと対峙する。
あの巨乳ビッチにガン無視され、若干やさぐれていたものの、俺はきちんと仕事をこなす。
炎系の上級魔法で、オークを焼き尽くしたのだ。
幸い、俺の自慢話の間に死んだ人は一人としておらず、なんとかなった。しかし、俺が箒に乗って良い感じに登場した時には、既に村の大半が炎に包まれていた。木造住宅がほとんどであるため、炎が広がりやすい。
畑も使いものにならないほどに荒れ果てていた。しばらくは国の援助が必要だろう。
俺はその後、黙って現場をあとにした。現在時刻は深夜二時。いつもの俺なら当たり前のようにベッドで寝ていたであろう時間だ。
巨乳ビッチと会ってから、二時間が経過していた。アリクスロムまで、ここから一時間ほど。またあのボロ箒に乗らなければならないことを考えると、頭が痛くなった。
明日もまた学校である。俺の守護霊である炎霊レシュアにお礼を言ってから、俺は箒に跨り、学校があるアリクスロムへ向かった。