002・偽りばかりの法廷
少女の名は山村愛莉という19歳になる直前の少女だった。彼女は逮捕される前は大学生であったが、ある日直前逮捕され、いつのまにか重罪犯罪者扱いされた。しかし、その容疑に心当たりはなく、大学のゼミの指導教官と先輩にいわれるがまま電脳を操っていただけなのに、連行されてしまった。しかも、周囲の者は誰一人逮捕されていないというのにである。
「被告人・山村愛莉、これから判決を言い渡します!」
粗末な囚人服を着せられた愛莉は虚ろな目をしていた。逮捕されてからというもの自分は頼まれただけで国防省の国家機密情報を漏洩することを首謀していないと、一貫して主張してきたが、誰もかれも聞いてくれなかった。本当は自分がしたことは何か分からないままに!
自分の言い分を法廷で代弁してくれるはずの弁護人は、事実関係を調べた形跡もなく、ただ罪を認め情状酌量を求めましょうと説得するだけだった。そして検事は起訴内容の事実関係の大半は国家機密に指定されたから被告人にも教えられないというし、そんないい加減な法廷なのに判事はただ検事の言い分をきくだけであった。まさに法匪! 正義というものは自分の法廷に存在しないと打ちのめされていた。
今日は最高裁の上告審のはずだが、なぜかここはどこかの拘留施設内にある会議室、なぜここなのかはどうでもよかった。結果などわかっていたからだ。有罪だ! 初公判から今日の上告審判決言い渡しまで一ヶ月もかかっていなかった。全ては茶番だった。この国の裁判は起訴されれば九割九分有罪だといってもひどいものであった。全てはタダの儀式、形式的なものだった。結果は決定していて、愛莉が何を言ったとしても覆ることはなかった。
「山村愛莉、被告人の上告を棄却する。首都第参地方裁判所の判決を支持する。以上、閉廷します!」
そういって裁判官、いやもしかするとどこかの誰なのか分からなかった。着ている衣装が裁判官らしくないラフないでたちだったから。その男は少しニヤニヤしながらこう言った。
「じゃあ、いよいよサヨナラね、人間の愛莉ちゃんね! せいぜいロボットして罪を償ってね! 御達者で!」
そういうと、両側にいたロボット刑務官は愛莉の両手両足に手錠をして、頭にマスクを被せてしまい、本当は法廷じゃないかもしれないところを後にした。そのとき以降彼女は行方不明になった。そして生身の彼女は永遠に消失してしまった・・・しばらくして山村愛莉という少女は存在しない事になった!