014・起動(4)
「はい、私はヤマムラ・アイリ。製造番号102-66-0075です。罪を償う為に素材になった罪人から誕生したガイノイドです。大多数の人類の社会福祉の為に奉仕する忠実な機械です。はやく用途を決定してください!」
「罪を償う、というのは今後一切第三者にしゃべらないことね。あなたは機械なんだから。その記憶は人格形成用のものなんだからね。変な事は言わないでね」
「はい! かしこまりました!」
そのとき、アイリは本当にただの機械でしかなかった。電脳化された愛莉の大脳皮質は高性能AIと同様な動きしか出来なかった。また身体はロボットでしかなかった。万が一、解体されることがあれば、機密保持の為に人間だったと分かる内臓は一瞬にして溶解する一種の自爆装置まで備えられていた。
しかし、そのときだった。柴田技師長の元にメールが入って来た。その内容に彼女は驚いて、急いでスタッフに録画を止めるように指示した。そして起動試験を終了したと宣言した後で、別の作業をはじめた。一時的にアイリを起動停止状態にした後で、頭部になにやら器具を取り付けた。それは、アイリの電脳とリンクしているデータ送信システムの機能を麻痺させる措置だった。そして、アイリを再稼働させた。
「マスター、稼働試験は中断しております。続きをお願いします。リース先が決定しておりますから、クライアントにクレームが入りますよ」
アイリの人工音声は少し抑揚があり、人間らしい雰囲気はあったが、それも電子音でしかなかった。携帯電話の音声みたいな感じであった。でも、本当は感情などなかった。プログラムがそう言わせているだけだから。そんなアイリに柴田は思わぬことを言い始めた。
「はい! そうですね! でもね、ここにいる男がね、あんたに用があるっていうのよね! だから、ちょっとした作業をするそうよ! よかったわね、あんたは完全なガイノイドじゃなくなるのよ! わたしには不満でしかないけどさ!」
不機嫌な柴田技師長の後ろに、一人の中年の男が近寄って来た。この場にいるのが似つかわしくないふざけた姿をしていた。その男が機械だったアイリに用があるという。