013・起動(3)
実際、元人間だと明らかにする場合は「サイバノイド・サイボーグ」などと区別されるが、アイリは「ガイノイド」、工業製品扱いでしかなかった。悪い表現でいえば「人間の身体をリサイクルして製造したロボット」というわけだ。だから、アイリはこのまま邪魔が入らなければ、そのまま十年間はガイノイドとして稼働するはずだった。愛莉という人間など存在しないし。
「それでは、アイリ。身体を動かして見なさい! いい?」
「はい、かしこまりました! マスター!」
そのとき、アイリは記録バンクの中で自分が愛莉という人間で製造された存在だと分かっていたが、それはデータとしか認識しなかった。今の電脳化されたアイリには自由な自我など存在しなかった。それが全身拘束刑の本質だった。人間ではないのだアイリは! 後は順調にガイノイドとして稼働すればいいわけだ。
アイリは仮マスターに登録されている柴田技師長の指示で起き上がり始めた。全身はメタリックなダークブルーをした武骨な外骨格に覆われ、関節部にはパットがありロボットそのものだった。またボディラインは女性らしい流線型を描いていたが、背中や腰にはオプションパーツを装着するユニットの凸凹があった。そして顔面は唇と鼻筋は人間らしい輪郭のフェイスガードをしていたが、目の部分はバイザーが装着され、表情などなかった。機械そのものであった。これが、人間の少女を素材にしたガイノイドなどと思う者は誰もいないはずだ。
「マスター! 稼働に問題ありません。人造生体組織に少し拒絶反応がありますが、構成物質の投与で対処できます。機体内部の平均温度は36度01です。また人造濾過装置の稼働率に若干問題があります。電脳内のジャンクデータに多少の動揺がありますが、対処可能です」
アイリがいったジャンクデータとは愛莉だったときの自我の事だ。電脳化によって多少のロスはあるが脳細胞に記憶されていた情報は電子素子内のデータに置き換えられていた。だから自我の再現は可能であるが、そんなことは実行不可能な措置を受けていた。自我を奪う事も全身拘束刑だから! アイリはただのガイノイドだから!
「それはよろしい! アイリ! 自分はどんな存在なのか言いなさい!」
柴田技師長は少しつまらなそうな表情をしていた。いつもなら殺人を犯したような女に全身拘束刑を施して、ただ指令に従ってしか稼働できない存在にして、社会正義を実現できたという満足感でいっぱいだというのにである。重罪人が機械になることで罪を償う手助けができると喜んでいるのに!