012・起動(2)
アイリがガイノイドとして目覚めたのは、全身拘束刑の執行から一週間後だった。意識がない間にボディは徹底的にチェックされ、一般的なAI搭載型ガイノイドと同じようにリースに出しても問題がない事が確認された。あとは、実際に稼働させる最終チェックだった。
この時代、アンドロイドやガイノイドなどの機械生命体は政府機関がほぼすべてを所有しリースする形態だった。それは人間並みもしくはそれ以上の能力がある機体を民間所有にしておく危険性を防ぐもので、厳しく管理されていた。そういった機械生命体の中に刑罰によって改造された者もいたわけだ。だからリース先の中には「元人間」が「素材」になっているとは知らない場合すらあった。
「それでは、起動チャック! 読み上げて!」柴田技師長の表情はどこか暗かった。その顔には何か苦汁に満ちていた。普段だったら、自分の手でロボットに改造した罪人を喜々として対応しているというのにである。
「おはようございます。私はガイノイド・アイリ。製造番号102-66-0075です。製造方法は機密です。タイプは特殊合成樹脂および人造生体組織と超複合材によるメタリック・ガイノイドです。用途は多目的、現在は未設定です」
初期設定のデータがアイリの人工音声によって開示された。表向きは人間を材料にしたガイノイドと分からないようになっていった。それはアイリも同じだった。この時のアイリの電脳に刻まれていた愛莉のパーソナルデータはインストールされた「記録」と自分で認知していた。最初から「ガイノイド」として製造されたと思い込まされた状態だった。それは統括するソフトによるものだった。人間の性格をベースにした方が。より人間らしい反応が出来るという設計思考とされていた。