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CBM-007


 召喚獣と主は契約によって結ばれる主従の関係だ。残念なことに、破棄の権利は召喚獣側には無いというある意味とんでもない仕組みだ。どうやってこんな仕組みが世の中に産まれたのかは刻まれた知識は教えてくれない。


 多くの召喚獣は呼び出した主のため、戦い、あるいは日常を共にし、そして……死ぬ。それも当然かもしれない。召喚獣は失われれば新しく呼び出すか、現地で相手と契約してしまえばいいのだ。だから、今のマスター、エルサのように俺を道具扱いしないのは珍しい……はずなのである。


「父親はもう見つからないと考えていそうだな」


「あるいはひょっこり戻ってくると思ってるかですねえ。なんとなく戻ってきそうな気もしますけれど」


 猫探しから戻った俺たちは、猫自体はいたが目的の猫じゃなかったことを告げ、部屋に戻った。残念そうな娘の顔がどうも気になったがこればっかりは仕方がない。人間一人追うのとはまた話が違うのだから。


 品の良いと感じる部屋で、俺は汚さないようにと床に座り込みながらエルサから受け取った妙な石……アクサームのそばにある森の中、そこにある泉近くで何かが掘られた跡に残っていた小石だ……を眺めていた。


 ただの石とは思えないし、猫がこれを目当てによってくるとなると……はて?


「爪でつついたら削れそうだな。マスター、噂に聞いたように薬になるんじゃないのか?」


「かもしれませんね。少し割ってみますか」


 薬師の作る薬、軟膏や飲むタイプとあるがどちらも主には植物、あるいは俺のようなというと問題があるが動物の一部を使ったりすることが多い。そんな中に、たまにこういった石を削った物が混じるのも知っている。どちらかというと石の方は毒になることが多いようだが……今回のそれは普通の石ではなかったようだ。


「柔らかい……これなら軟膏に練りこんでも、水薬に混ぜてもそのままわからなくなりそうですね」


 試しにと小皿に削り出されたその石の破片に……気が付けば俺はふらふらと手を伸ばしていた。エルサが俺の手を掴んでそれにようやく気が付いたほどだ。はっとなり、顔を振りぼんやりした何かを追い出す。


 改めて小皿を見ると、妙に感じる物がある。なんというか、美味しい匂いのする何か、というべきか。


「詳しい効能はわかりませんけれど、ルト君や猫さんを惹きつけるだけの何かがあり、それは人が摂取すると元気を取り戻せそう……これ、多分巨人胆ですね」


「きょじんたん……狩り尽くされたんじゃないのか?」


 昔この世界にいたという種族、巨人。名前の通りその背丈は巨木を超えるという。伝説では山1つをまたぐ奴もいたらしいが、逆にその大きさが災いして他種族から恐れられ、ついには討伐されたという。


 刻み込まれた記憶はそう言っている……とそこまで考えてこれがあった場所を思い出した。


 森の中、そこにある泉のそば……少なくとも昨日今日という話じゃあ、ない。


「私の知ってる話だと、200年前には目撃情報がありますね。倒された跡は、不思議と緑あふれる大地に変わったそうです。森が、巨人族の体の形に生い茂ったとか」


「ということは……」


 思い出すのは泉のそばにあった穴。もう穴というより堀と言った方が良いぐらいの大きさだった。馬車が数台入ってもまだあまりそうだった。あの場所はアクサームの人間にとってそれなりに出入りのある採取場所の1つだ。となるとよほどの大人数で、一気に作業しなくては見つかってしまうだろう。


「なあ、マスター。人間1人を癒すのにあれだけ掘って見つけた物全部を使うとは思えないんだが」


「奇遇ですね。私もそう思いますよ。恐らく、まだ中央の倉庫にでもあるか、どこかに献上でもされようとしているか」


 人間的な言葉でいうと、陰謀の匂いがした。ただ欲しければ、依頼として正式に掘ればいいのだ。それをしなかったのは、泉の秘密が恐らく巨人胆であることを知っている誰かが反対を恐れてこっそりと実施したからだ。


 なにせ、世界最強の種族とうたわれる巨人族の肝だ……干し肉ほどの破片でも魔法の触媒としては最上級、3日3晩走り回っても大丈夫なほどの水薬を作ったりできるとも噂があるらしい。そりゃあ、本物なら病人が飛び起きるぐらいはあるだろうな。


「積極的には関わらない、ということをお勧めする」


「ルト君はマスター想いですね。一応、猫さんは探しますが、それ以上は面倒ごとは嫌ですね」


 マスターもさすがにこうなると話が大きすぎるし、自分の領分ではないと考えているようだ。もし、もしも巨人胆が馬車数台ほどの大きさそのままの量があるとしたら、国規模の金額になる。さすがにそんなことはないと思うのだが……俺の願望でしかないのかもしれない。


 世の中、大体悪い予想は当たると、経験も、刻まれた記憶も教えてくれる。



 翌日、猫探しのついでに仕事があればと酒場をはしごした俺たちは、地下の見回りを受けた。大雨の時にため池に水を誘導する水路のような物がいくつか街の中を走っているらしいのだ。その中の1部は地下にあるらしい。途中、ゴミがたまっているようなら報告を、とのことだった。


「うう、さすがになんだか匂いますね」


「1日いたら鼻が曲がりそうだ。先に行くぞ、マスター」


 召喚獣として危険に飛び込むのは当然のこと。まずは俺が先に入り口から地下に降りる。光源は少なく、今は陽光が照らしてくれているが……なるほど、酒場にいた人間たちが松明とランタンの両方を持っていきなという訳だ。


 片手は剣の代わりに松明を持ち、前後を照らす。ついでに上も……今のところは問題ない。入口へ向け、松明をぐるぐる回す。大声を出して問題があってもということでの合図だ。


「階段が急ですねえ。どっちから行きましょうか」


「そうだな……あっちが良さそうだ」


 俺が指し示すのはそのまま行くと中央区に行きそうな方向。何も適当に決めたわけじゃあない。偶然、本当に偶然だろうが……感じるのだ。例の宿屋の猫の匂いを。


 出来れば別であってほしかった話だが、目の前に転がってきたのならばどうしようもない。マスターにもそれを伝え、何かあってもいいようにと警戒はしつつ……水の流れていない地下を歩く。





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