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CBM-006


「召喚獣のコボルトが1匹か。中央区には立ち入らせないように。討伐されても文句は言えんぞ」


 新しい土地、新しい街はやや召喚獣に……正しくは人間以外には厳しそうな雰囲気だった。中に入れないということは無かったが、門番からは長たちのいる区画には立ち入れないことを宣言される。


(と言っても当然だろうな。召喚獣は、召喚主の命令を断れないことが多い)


 これも召喚された時に得てしまった知識だが、自殺しろといったような命令でない限りは基本的に断ることはない。そういった忠誠心が目覚めるということなのだろうか? ただ、ここで問題が生じる。そんなこと、知らない方が召喚主には都合がいいはずなのだ。なのに、俺は知っている。この知識は本当に召喚によって得られた物なのだろうか?


「ルト君、仕事を探しに行きますよ」


「お、おう」


 どうやら結構な間、考え込むことでぼんやりしていたらしい。気が付けば俺はエルサに抱きかかえられ、彼女曰くもふもふの頭や尻尾をいじられていた。疑問があると言えばマスター……エルサのこともそうだ。俺という存在に直につなぐ召喚契約を行ったのはまあ、性格と言えるかもしれないが……それ以外の魔法の腕に関しては謎が残る。


(実は人間の王族とか、ちょっといい感じの家系だったり? うーん、わからん)


 本当ならば召喚獣は主を守るためにいるわけで、こうして抱きかかえられてるなんてのはもってのほかなのだが、足の長さの差もあったりするので大変ではある。マスターが良いと思うのならしばらくはこのままとしよう。ついでに周囲の警戒もしたならばちょうどいい。


 見渡す限りでは驚くほどに、大きな街だ。召喚獣らしき相手を見かけるとこもそんなに稀ではないように見える。ただその多くは、労働力として使われているのだと感じる。人の背丈の倍ほどもありそうな巨大な獣、確か……馬、だったか。それの怪物化したものが荷台を引っ張っている。あるいは主人の買い物に連れ出されているのか、多くの荷物を持つ物もいる。


 だが、そのぐらいならまだ幸せと言えるのかもしれない。己の得意なことなどをそのままやっていればいいのだから。問題は、戦う者だ。召喚獣自体は替えが効く。もし死んでしまったなら、その契約を破棄して次の契約を行えばいい。そう、人間側の理屈はそうなのだ。


「私は破棄するつもりはありませんよ」


「……ああ」


 どうしてわかったのか、とは問わない。その代わりにと言ってはなんだが、腕の中から飛び出して共に歩くことを選んだ。マスターはややゆっくりと、俺はやや速足のちょっと不思議な2人旅だ。向かう先は最初の町のように酒場。


 高そうな場所ではなく、程よく荒くれ者が集まりそうな場所の酒場……となれば騒ぎも大体どの土地も同じような物だ。前と違うのは、酒場の中に既に偶然にか、召喚獣らしき相手もいたことだった。


 慣れた様子で一言二言、適当な注文と的確な情報収集。こうしてると旅の薬師といいながら実はどこかの国の情報集めの人員じゃないかなんてことまで浮かんでくるから知識が刻まれるのも良し悪しである。マスターから分けてもらった干し肉を噛みながら他の連中の様子をうかがう。


 なんとなく、見た目が物騒な奴が多いように見える。人間の街が大きいということは近くに獣や怪物は少ないということであり、大事は減るはずなのだが……さて?


「ルト君、宿と最初の仕事が決まりましたよ」


「了解した……仕事も?」


 マスターを見上げると、何の含みもないように見える笑顔が帰ってきた。なんとなくだが、こういう時の笑顔は信用したらいけない、そんなどうでもいいような知識が浮かんでくるのを感じた。




「そりゃあ、コボルトはそういうものだけれども」


 結局、俺の嫌な予感とでもいうべき物は当たってしまう。宿は普通以上、いい宿だった。そして仕事も確かにあった……その内容に武器は必要ないのが気になるところだ。


「ほら、コボルトって鼻と耳が良いんですよね?」


「ああ、任せろ。俺の鼻と耳はとびきりだ」


 決まったことにあれこれ言ってもあまり意味はない。仕事は仕事、そう考えなおしてソレ……行方不明になった飼い猫がいつも寝ているという布のベッドから匂いを嗅ぐ。俺もこんな匂いなんだろうか? 出来れば聞きたくはない。


 そう、仕事は宿屋の娘が飼っていた猫がいなくなったので出来れば探してほしいというものだった。見つかれば3日タダになるとなればダメもとでみんなやるわけである。念のために武器自体は背中にくくり、後ろにマスターが付いてくるというある意味召喚獣と主として正しい姿で町を歩き始める。


 もうすぐ夕方、となれば段々と道を行く人間も減ってくる。そんな街の中を、俺は迷わずに歩き続けた。


「もしかして、追えてるんですか?」


「当然だろう?」


 エルサは見つかればいいな、ぐらいの気持ちだったようだ。確かに見つからなくても普通に泊まれるわけだからな。だが、俺にとってはやや不本意ながら仕事を頼まれたのだから手を抜く道理はない。


(これは男の匂い、こっちは別の猫、これがそうか……だがここまでは普通だな)


 見上げた先には猫が好みそうな日当たりの良い木箱が積まれた一角。念のためによじ登り確認するが匂い以外は痕跡はない。逆に言えば、匂いが残ってるということだ。普段はこのあたりが縄張りなのではないだろうか?


 雨が降っていないことに感謝しつつ、匂いを追う。と、とある場所でその足跡というか、匂いの感覚がとびとびになる。何かを追いかけている……飛びついている?


 食べ物の屋台でも通ったのだろうか……そんな風に思った時だ。近くで猫の鳴き声がした。匂いは違うから探し猫ではない。


「わわっ、猫さんが寄ってきますよ……食べ物はあるけどないですよ」


「何をしてるんだまったく……ん?」


 数匹の猫が路地裏から出てきたと思うと、マスターにすり寄っている。マスターもあげる物は無いと抵抗するが猫たちはあきらめないとばかりにマスターに近づき……何かに迫っている。


 最初はマスターが猫が好きそうなものを仕舞い込んでるのかと思ったが、どうも違うようだ。


「マスター、何か匂いが出る物がそこにあるんじゃないか?」


「え? 特に何も……これぐらいですよ?」


 そういって取り出したのは、布にくるまれた何か。その中身は、あの泉のそばで見つけたよくわからない小石……猫たちが見つけたとばかりにマスターによじ登ろうとする。


「可能性が出て来たな。マスター、一度戻ってその石の詳細を確認しよう。ただの石じゃなさそうだ」


 果たして、俺の鼻と耳は……真実を嗅ぎ分け、聞きつけることができるだろうか?




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