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CBM-025


 路地裏に現れた謎の光る何か。煙のような塊は怪しい光を放っている。赤かと思えば青になり、混ざり合った色となる。それはまるで生きているかのようだった。


「おい、アイツに心当たりは?」


「あると言えばあるにゃ! 昔、森にいたころに仲間が飲まれたにゃ! そしたらどっかにいってしまったのにゃ……」


「食べられた? いいえ、どこかに連れていかれたと見るべきですね。風よ!……動かない!?」


 光はゆっくりとした動きだった。それこそのろのろという表現が近いほど。これでは走るどころか歩いているだけでも逃げられるだろう。そのおかげか、まだまだ距離がある。


 恐らく武器は効かない、その上マスターの魔法による風でも揺らがなかった。光や煙のように見えて……違うのだろうか? なんとなく、どこかで見たような気もするのだが。


「騒がしい場所に行くと消えるのにゃ。だけどまた近くに出てくるから……」


「それでご主人様の元から離れてどっかに連れて行こうとしたわけだ」


 もしも、アレが一度狙った相手をずっと狙うのならばケットシーのそれは自己犠牲と呼ぶにも難しい。だが、気持ちはわかる。突然何かが現れるより、いつかきっとそいつが現れるとわかってるほうが心に来るのだ。


 無駄だとは思いつつ、武器を構えて戦う姿勢を取る。牙をむき出しにして、唸り声をあげて威嚇した。目も耳もなさそうな相手だ……効くはずもと思ったところで変化を感じた。


(ひるんだ? いや、これは……そうか!)


 ようやく思い出したそれは、幽霊。召喚される前にも確か住処の近くで見たことがある。この世に未練を残して死んでしまった生き物がたまになるという魂だけの姿。そして刻まれた知識はその多くが嘆きや恨みに支配され、どうしようもない相手になると教えてくれる。


 抵抗する手段は少ないが無いわけじゃあない。


「マスター、浄化の光だ!」


「! なるほどっ、ルト君は咆哮を。きっちり吹き飛ばしてあげましょう!」


 すぐさまマスターの体でマナが巡るのを感じる。その力は先ほど風を産んだように、突然路地裏に日差しのような光を注がせた。俺たち自身には日向で味わえるような陽光だが、相手にとってはそうではないらしい。途端にその形が元より揺らぎ始める。


「かけらも残さず消し飛べっ!」


 大きく息を吸い、力を込めて咆哮。遠吠えのように強く、遠くまで響く声となって間もなく口から飛び出すことだろう。それだけでは足りないと思い、胸元の結晶に意識を向けた……力を借りるぞと。瞬間遠吠えに俺だけじゃない力が混じっていくのを感じた。それはドラゴン。咆哮1つで魂を刈り取るとも言われる強者の力がわずかでも混じった咆哮は謎の存在へと迫り、煙が風に負けるかのようにあっという間に消え去った。


「すごいのにゃ……しっぽぴーんってなったにゃ」


「かっこいいー……」


 背中に聞こえるケットシーと少女の声に我に返った。なんとか、自分が思うように力を引っ張りだせたように思う。頼り切りは良くないが、使える物は使うべきだし、武器がそうであるようにこれも俺の力、そう思うことにしよう。


「さて、他にもいないか見回りを……」


 そこまで言って、先ほどまで相手がいた場所に何か落ちているのが見えた。ゆっくりと近づくと、落ちていたのは石ころ。血のように赤い、石ころだ。手のひらよりは随分と小さいそれには何かが刻まれていた。


 恐らくは文様……だがこれは……。


「召喚術……しかも呼び出されるほうに現れる法陣と同じ気配を感じますね」


「となるとこれに捕まった奴らは召喚されたのか?」


 だが俺自身が召喚された時にこんな良くない光に包まれた覚えはない。もっとも、あまり覚えていないのだが。何の根拠もないが、これは普通の召喚とは違う、そう感じる。だが詳しく調べている時間はなさそうだった。


「にゃにゃ! 人が集まる気配にゃ!」


「よし、ひとまずお嬢ちゃんを送りに行こう。マスター、向こう側で合流だ」


「そうですね。さあ、行きましょうか」


 女の子はマスターに任せ、俺はケットシーと一緒に屋根に駆け上がる。ちなみに怪しい石はマスターの持つそういう物用の布にひとまず包まれている。


 ざわめきを遠くに感じる位置まで移動し、マスターと合流する。


「今回は助かったのにゃ! 何かあったら協力するにゃ!」


「ありがとー!」


 天然の召喚士というわけでは無く、たまたま街にやってきた時に拾われ、良い飼い主だから一緒にいるというケットシーと人間の少女。召喚が関係しない関係もあるんだなと思いながら、マスターと二人、城へと向かっていた。


 ブレグ王子へと報告であり、さらには厄介事を投げるためでもある。


(さすがに全部は追い切れない。俺たちには俺たちの出来ることにしないとな)


 城への道すがら、今後のことを少し考えていた。さすがにこの怪しい召喚を行った相手を突き止めてこいとは言わないと思う。状況的には国を狙ったとも言えるわけだから、俺たちみたいな部外者が全部解決したのではまずいだろうからだ。


 予想通り、報告を受けたブレグ王子は何とも言えない悔しそうな表情となった。


「まさか路地裏とはいえ、王都でそんなことが……ああいや、話は疑っていない。召喚士にも確認させた。弄られてはいるが、確実に召喚が絡んでいる。問題はどこの誰がこんなことをしたかだ。こんな街中では呼び出す怪物は当然、皆無だからな」


「ケットシーは森で襲われたとも言っていたが、町中に出ているという話だったな」


「その通り。1つ、気になる噂がある。こうなってくると信ぴょう性があるように思うのだ」


 そうして王子が話したのは噂の域を出ず、それもよくある妄想の類に近かった。曰く、隣国の戦力を落とすために他国から直接召喚して戦力を大きく変化させるのだという噂。でも、その話にはおかしい部分がある。


「あの、それだと他国の怪物を召喚するわけですからむしろその国にとってはいいことでは?」


 そうなのだ。仮にとある国にいる強力な怪物が召喚されたとしたら、被害を受けていた国にとっては一時的には得である。が、ブレグ王子はマスターの指摘に首を振る。


「噂にはまだあるのだ。そうだな……召喚魔法における限界、禁忌で思いつくことと言えばなんだと思う? なぜ人間だけが召喚魔法を使える?」


「限界……禁忌……まさかっ!」


 この状況ではマナの消費が、とか失敗した時の問題が、といった当たり前の話ではないのだろう。そして、なぜか召喚魔法の使い手、召喚士は人間しかいないという不思議だけれども常識……それがつながれた先は……。


「不可能な同族召喚……つまり、召喚という名の誘拐……?」


 ぽつりとつぶやかれたマスターの声が、妙に響いた気がした。




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