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CBM-023


 注がれる視線は好奇心、興味に満ちた物。意外なことに、嫌悪といったものはほとんどないように感じる。この国、サーミッドの王子であるという男が、自分達の召喚獣よりコボルトにしか見えない俺の方が強く、さらに召喚士としてもいきなり現れた女の方が上だと宣言したにも関わらず、である。


(これは……ああ、そうか。そうだと思っていないんだな)


 瞬間、その結論に至る。要は王子が冗談を言っていると考えたのだ。まあ、無理もない。実際問題、俺自身はコボルトで、マスターはぱっと見はただの人間の小娘なのだ。精々が駆け出しの召喚士と最初の召喚獣といったところだ。


「ブレグ王子、ご用件は彼女らの紹介だけで……という訳じゃあなさそうですね」


「無論。相手をしてやってくれ」


 言葉の意味を俺が理解するより早く、室内にいた召喚士たちは立ち上がりこちらを見る。視線の質が変わったことで、半ば無意識にマスターの前にすべり込み、姿勢を少し下げていた。


(今俺は……なるほど)


「マスター、そういうことらしい。薬の出番が無いように頑張るが……」


「ええ、そうですね。初めての相手は治療にも少し気を使いますからよろしくお願いしますね」


 帰って来た返事に、一人心の中で笑う。そういえば、マスターも俺と出会うまで各地を旅して来た自然魔法の使い手だったのだ。このぐらいの荒事の1つや2つは潜り抜けてきたに違いない。


 先に外に出た俺を追うように出てくる人間たち。ついてくる召喚獣はオークが2、オーガが1、リザードマンが1、後は羽根付の……グリフォンか?が2となっていた。さすがに空を飛ばれたらどうしようもないが、その心配はなさそうだ。


「刃を潰してあるダガーかショートソードはあるか」


「これだ。こちらも訓練でよく使う」


 召喚士は召喚獣を己の武器として戦う。とはいえ、懐に飛び込まれることもあるわけでその護身用の訓練に使うのだろう。あっさりと人間的には短い刃が渡された。強度は十分、まあ、元々武器を使っての戦いだけが得意という訳じゃあない。


「それで、勝敗はどう決める。俺は見ての通り自分でまいったを言えるが、そっちはどうなんだ?」


 今回は全部任せてくれるらしいマスターの代わりに召喚士たちのほうを向くと、なぜか全員驚いた顔をしている。何か、変なのがいるのかと思い振り返るもいるのはマスターだけ。体を戻すと、視線が俺に向いていることがわかる。


「? 何か問題があったか? ああ、この服は脱げない、そこは勘弁してくれ」


「ああ、いや……随分流ちょうにしゃべるなあと思って……かなり訓練したんだな」


 最初からだ、とは言える雰囲気ではなかった。ふと召喚士たちの後ろを見れば、彼らの召喚獣たち。言われてみれば、奴らが喋るどころかじっとしているし、受け答えもどこかゆっくりなような気がする。


 1人の命令を受け、前に出てくるオーク。それでもどこか上の空とは違うが……ああ、なるほど。これが召喚士と召喚獣の今の姿なのだろう。思い返せば、町中で見かけた奴らもほとんどが馬車の馬代わりだったり、戦いのための捨て駒だったりと喋る必要もない状態だった。


(だがどういうことだ? 俺に刻まれた知識からするとみんなある程度同じような知識を渡されるはず。それとも、程度に差があるのか?)


 わからないことが増えたが、今はその話をする時ではない。こちらはいつでもいいぞと伝え、深呼吸1つ、気持ちを切り替えた。


「うむ、では私から見てもう限界だと感じたところで止めよう」


「了解した」


「わかりました」


 俺はともかく、相手の召喚獣は召喚士ではない人間の声で止まるのか?とも思ったがどうやらそういう仕組みを召喚魔法に組み込んであるらしい。人間の研究の成果ということなのだろうが、なんだか面白くはない話である。


「はじめっ!」


 そうして始まった戦いは予想外の展開を迎える。どこかぼんやりした様子だったオークも、召喚士の指示が入ると急に動きが機敏になった。恐らく、外で出会った時と同じような動きだ。俺は今のところ知識以上にはオークを知らないが、体格的にはまともにぶつかってはいけないだろう。


 しっかり観察していけば、次にどう動くかなんとなく見えてくる。体の動き、体重のかけかた、そういった物だ。だからこそ、砂煙を立てる勢いで叩きつけられるオークのこん棒を余裕をもって回避する。


(っていうか手加減してるのかもしれないがアレが当たったらやばいだろうが!)


 結局、誰一人俺のことを心配していないのではないか?なんてことが浮かんでくる。マスターは俺の強さを信じているからだし、ブレグはこのぐらい出来なくてはと思っていそうだ。そして、召喚士たちは気にもしてないのだろう。嘘であればすぐ終わるし、そうでなければ大丈夫なのだと。


 そのことが少し悲しくなりながらも、オークの足元に回り込み膝裏に刃を叩きつける。今回は切れないが鈍器のように使うことは出来る。鍛えることができないところへの一撃にたまらず悲鳴のようなものを上げるオーク。怒りの表情が顔に浮かび、後ろ手に振り回してきた。


「よっと」


「あんな身軽に!?」


 その動きを読んでいた俺は軽く飛び上がると、手のひらを添えるようにしてこん棒の表面に自分の体を合わせ、そのまま上に飛びあがる。さすがオークだ、良い力である。すくい上げるようになっていたこん棒の勢いで大きく俺は飛び上がる結果となり……そのことにオークが気が付き、召喚士が指示を出すよりも早くその首元に軽く剣を叩きつけた。


「そこまで!」


 訓練でなければ、今の動きで首を斬られて終わり。それが王子にも召喚士にも分かったのだろう。オーク自身は最初の命令をこなそうと俺にまだ襲い掛かりそうだったが新たな指示でそれも止まる。


 俺はゆっくりとマスターの元に戻り、どうだとばかりにわざとらしく相手側に笑みを向けて見せた。と、誰かが俺の頭を撫でてくるって一人しかいない。顔を上げればニコニコと笑顔のマスターがやはり、撫でていた。俺が子供のようではないか。


「見事、さあ、続けるとしよう」


 わずかな休憩の後、訓練は続いた。結果は俺の快勝。さすがにリザードマンがマナを使ったブレスもどきを吐いてきた時は驚いたが回避に成功した。気のせいか、気合を入れるための叫びがブレスに干渉したような……まあ、偶然だろう。グリフォンたちとやることはなかった。


 気が付けば召喚士たちの俺への視線、マスターへの態度は最初と大きく違っていた。俺とマスターの契約が今主流の魔法を介した物ではないということも作用したらしい。


「手も足も出ないとはこのことだな。どうだ、直にというのは困難かもしれんが、鍛え方次第でコボルトでもこのようになる。素の能力だけに注力せず、可能性を探ることだ」


 話を聞くと、どうも最近は召喚士の戦力が偏ってきていると感じていたらしい。要はオークなどのわかりやすい力自慢の召喚獣ばかりが増え、力押しの戦いが増えているのだと。それ自体は悪くないが、隣国との戦争となれば応用の効かない戦力は対処もされやすいという欠点も含むわけだ。


「俺みたいなのが何匹もいたら偵察や夜襲も出来るかもな」


「おお、それはいい考えだ」


 何気なく言った提案もいつの間にか決定事項のように扱われる始末だった。数日、泊まって話をしてほしいと頼まれてしまう。マスターは薬師として調べたいこともあるからと承諾、俺もそうなれば一人どこかへ行くという訳にもいかずに付き合うことになった。


 そんな生活は、王子から仕事を頼まれるまで続いたのだった。


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