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CBM-010



「さあ、次は薬草配達ですよ!」


「了解した」


 あの森の出来事から、俺たちは街で仕事をいくつも受けていた。今さらと言えば今さらだが、街の名前はグンダーというらしい。なんでも創設者の名前なんだとか。


 朝起きて、仕事を探し、合間を見て採取と調合、そしてその薬を売る。そんな生活だ。もちろんただ時間を過ごしているわけじゃあない。周辺の情報を集めたり、俺自身を鍛えたり、お互いの連携を高めたりと言ったところだ。


 今から向かう先もそんな仕事先の1つ。グンダーでも有数の商店だ。取扱品目は主に食料品と雑貨。噂じゃ軍の補給にも噛んでるというが定かではない。


「やあ、エルサさん。今日もありがとう」


「昨日のうちに処理しておきましたから、すぐに使えると思いますよ」


 そう、仕事先の商店……アステールは言うなれば討伐者向けの何でも屋だ。ここに来たら大体揃う、武器もあるし、野営用の道具だってある。それに、水薬用の薬草だって。


 その分、割高に感じるが一か所で揃えられるというのは強みなのだろう。周辺の商店とはすみわけが出来ているように感じる。最初は完成品を売っていたマスターだが、こういう販売先もあるのだと知ってからは半々と言ったところだ。


「ええ、助かります。わかっている人の物は使いやすいと評判ですからね。売値にも色が付くというものです」


 慣れた様子で検品し、代金を渡してくる店員に満足そうにうなずきつつ、マスターは少しだけ踏みこんだ。


「もう少し稼ぎたいんですよねえ。良い話知りませんか?」


「そ、そうだな……君ほどの腕なら……」


 その時のマスターの内心はどうだったかはわからない。が、本心ではないだろうなとは思う。必要なことと判断したとしても、自分の胸を強調するような姿勢を取って男相手に頼みごとをするのは……な。その甲斐はあったのか、小声でだが特別な話が飛び出してきた。


 それは領地の切り取り、開拓。今いる街はサーミッドという国の北東にある。最初にマスターと出会った場所よりは南に下がったところだ。国境が近いのだが、どうもその国境の維持もなあなあというか、昔決めたきりということだ。結局、税金を得られるほど人が住めないし、開拓者も多くは住んでいない場所。


 そこに、1つの落とし穴のような話がある。それは怪物が襲撃してきた場合にはその反撃に互いの領土に踏み入っても宣戦布告とはみなさないということ。もちろん、後から弁解の手紙は出すようだ。さらにちゃんと退治できたかの確認のためにしばらくその土地にいることも責められないときたもんだ。


 平和的に考えるとそれは融通が利いた話となるわけだが、悪用されると事実上、領土を広げることができる。なにせ、まだ退治できていないと言い張ればいいからだ。


 宿に戻った俺たちはいつものように今後のことで作戦会議。足元には狩りで手に入れた毛皮を敷いて1階に音が漏れにくいように等と無駄に凝っている。


「さっきの領土問題ですが……一応、こちら側は被害者なのだそうですよ」


「胡散臭い話だ。こういう場合、どっちもどっちだと知識が教えてくれる。まあ、それはともかく……前線に売りつけるとか、戦力として参加することで儲けられると」


 そういうことですね、と頷くマスターの顔には不安はないように見える。前線に行こうという話なのだが……まあ、エルサはそういうマスターだもんな。


「私、聞いたことがあるんですよ。怪物や召喚獣は何度も戦いを経験すると上位種に変化することがあるって」


「それは……そうだが」


 エルサが言うのは格が上がるということだ。コボルトにもいくつか種類があり、最上種だとコボルトキングとか呼ばれているという。自称ではあるが俺もコボルトナイトである。と言っても俺の場合は役割を自称してるだけで種族にまではなっていないようだが。


 でも、そうか……。


「マスター、俺のためだというのなら無理して危険に飛び込むことはない」


「? そんなことないですよ。私ももっと腕が上がれば希少な薬草が生えている場所にも行けます。そうしたらもっと色んな薬が作れますからね」


 そんなことを言って、マスターは正面から俺を抱きかかえるとくるりと裏返りようにして抱きしめて来た。毎度のことだが、マスターはこうしてるのが好きらしい。本人が喜ぶのならいいのだが……。


「ルト君が強くなって、私も強くなって……そうしたらもっと色んな所に行きましょう。色んな人を助けたり、色んな新しい発見にどきどきして……」


「ああ、それは楽しそうだ」


 マスターはずっと1人だったのかもしれない。あるいは仲間を失ったのか……一人旅は寂しい、そんな寝言を言っていた夜もあった。でも起きている間はそんなそぶりを見せないのだから大したものだと思う。


 俺という存在はただ1人のコボルトでしかなく、とても小さい存在だ。でもそんなコボルトでも彼女1人ぐらいを元気づけることはできると信じたい。


 そんなことを思いながら話し合いは終わり、食事を済ませて夜を過ごす。明日から前線への仕事を探すためだ。



 翌日、いつものように先に起き、いつものように身なりを整えてマスターを起こす。俺には実感が無いが、マスターは結構無防備に寝ているように思う。毛布越しにもわかる特定の部位に視線が向くが、戦いにくそうだなという感想が先に浮かぶのであった。


「それで、どうやって前線に?」


「いきなり参戦させてくださいっていうのは無理でしょうから……食料なんかを運ぶ隊商の護衛とかにすべり込みましょうか」


 やることが決まれば話は早い。さっそく酒場を回り、希望の話が無いかを探し……そして魔法使いと召喚獣の2人組ということで都合よくすべり込んだ。


 最初はマスターが人間の男連中に変な態度を取られるんじゃないかと心配したが、幸いにも今回の人間たちはそのあたりはちゃんとしているようだ。視線が向くのは無いわけじゃないが、可愛い物だと思う。マスターは俺を抱きかかえることで防御することを覚えたらしく、今回もそうしているのが悩みだったりはする。


 出発は良く晴れた日だった。召喚獣らしい四つ脚の獣に荷台を引かせ、隊商は進む。最初の休息場所までは何事もなく進めた。問題は2日目に起きる。何事もないということはたぶん無理だろうな、という気持ちを感じ取ったように、野生の獣らしくない匂いが風に乗ってきたのだった。


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