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78 その力、開放のち、収束

 一緒に応援していた、アリシア女王が直ぐにアルマへ命令を飛ばした。



「アルマちゃんっ! お願いっ!」



 アルマは短剣を取り出しキールへと突進していく。

 


「はっ!」



 キールはアルマの剣をカレンの胸から抜き出した剣で捌く。

 その顔は決着が付く前から勝ち誇っている。



「おいおい。いいのか? 俺は王子だぞ?」

「あくまで西国の王子です、わたくしは命令を受けています。それ以前にわたくしは貴方が嫌いです」

「あいつには昏睡の呪い入りの短剣で刺した。後ろの女ももう手遅れだろう」

「失礼ですが無駄口が多いです。呪いでしたら、大神官がっ!」

「無駄口ついでに話してやる。解呪には俺しかわからないっ」



 アルマはちらりとラッツ王子の場所を見る。服を切り裂かれ傷口をあらわにした王子が、大神官の回復魔法により治療を受けている最中だ。

 治りが遅いのか、大神官の口が早口で動いている。



「おいっ! 女王っ! 解き方のアイテムは俺の国の俺の部屋にある。この意味が判るかっ!?」



 キールはアルマの後ろにいるアリシア女王に叫ぶ。

 アリシア女王は直ぐに大神官を見るが、大神官は小さく首を振っていた。


 つまり、キールから見ればラッツ王子の要望で真剣での親善試合で相手が呪いを受けた。キールは国に戻り回復のアイテムを送る、今ならここで全て終われるのだ。カレンが死のうか何かは国と国では関係ない。

 

 一方アリシア女王の考えでは、今の状態でなら、あくまで国内で起こったこと。遺恨は残るが親善試合中にキール王子の要望で真剣の試合をしキール王子の命が散ったで済ませる事が出来る。

 その予定だった、しかし現状はカレンはもちろん、ラッツも呪いで目覚めるかもわからないまでプラスされる。息子だからとかではなく、助かる命さえも見捨てる事になる。


 アルマはキールと距離を置くと指示を待つ。

 アルマとキール。剣の腕ではキールのほうが上だった、しかし、人を殺す意志があればアルマでも勝つ事が出来る。だが、その場合ラッツは助からないだろう。


 苦虫をつぶした顔のアリシア女王は良く通る声でキールへと尋ねる。



「ラッツは助かるんでしょうね?」

「ああ。回復魔法をかけても直るのは傷ぐらいだろ、昏睡から目覚めるには俺しか知らないアイテムを削って薬を飲ませば平気だ。どうする女王、取引だ。俺を無事に国まで帰せっ」



 アリシアの足には、マチルダがおねーちゃんは? おねーちゃんは?と、しがみ付いて聞いている。



「最低ね」



 アリシアは自分自身の事か、キールの事がわからない言葉を呟く。

 しがみ付いているマチルダの頭を優しくなでると、わかったわと返事をした。



「アルマちゃん、引いて」

「…………。わかりました」



 アルマが短剣を収めると、珍しく顔に表情が出た。

 


「そんなに悔しいか、顔に出てるぜ」



 キールは、アルマを挑発しているが、アルマはキールの後ろを見ていた。

 キールが周りを見れば、アリシア女王も大神官も一点を見つめている。アリシア女王にしがみ付いているマチルダだけが、おねーちゃんだっ! と喜んでいた。



「アルマちゃん。マチルダちゃんをっ外に!」

「ふえ?」

「畏まりましたっ!」



 アルマは走るとマチルダを抱えると部屋の外へ連れ出した。

 近くに居た警備兵にマチルダを客室へと送ってもらうように頼むと直ぐに訓練室へと戻った。

 アルマが部屋に戻ると異様な空気が場を支配している。


 部屋を出て行った時と変わらず先ほどと同じ状況で、うつむいたまま立っているのだ。

 足元には血溜りと共に体内からでた魔力が黒い風のように渦巻いていた、相変わらず胸に開いた大きな傷口からは血が滴っている。

 その場に居る人間誰が見てもまともに生きてるようには見えない。

 


「か、カレンちゃーん……。返事できるー?」



 当然というか、アリシア女王の呼びかけにも無反応である。



「おいっ女王。これはなんだっ!」

「何だといわれても、わたしわかんないー……」

「ちっ。このゾンビにでも成ったのか、心臓がダメなら首を切り落としてやるっ」

「ま、まちなさいっ!」



 キールはアリシアの言葉を無視して首を狙って剣を横になぎ払おうとする。

 その瞬時の動きをカレンは手のひらで受け止めた。



「くっ。は、な、せっ!」



 カレンの足元にある黒い魔力が体全体を包み込み手のひら、そして握られている剣に移っていく。

 剣に黒い魔力が行き渡ると先端から砂のように崩れていった。


 その瞬間カレンの顔が突然にキールを見た。

 大きな目が見開いており、眼からも鼻からも血を垂れ流している、それなのに口元は半開きで笑っているようだ。



「ひっ!」



 キールが短く悲鳴を上げると剣だった物の柄を離し、その場に尻餅を付く。股間の部分濡れ始め失禁しはじめた。

 


「アルマっ! アリシア様をこっちにっ!」



 アルマが声のほうへ振り向くと、大神官が自身を中心に結界を張っている。その足元にはラッツ王子が寝かされたままであった。

 直ぐに走り出しアリシアの手をつかむと結界の中へ押し込んだ。

 アルマも入るには結界が小さいのでアルマは結界の外にいる。



「ちょ。あの、アルマちゃんも早くっ!」

「私は大丈夫です」

「大丈夫って、ちょっと、ジル爺結界をもっと大きくっ!」

「かーっ! 年寄りに無理いうなっ。でも、爺ちゃんがんばるぞ」



 結界の白い光が二段階大きくなる。横に立っているアルマまで光の円が増えた。

 腰を抜かしたキールが結界へと腕だけで近寄ろうとする。



「しょ、しょうがないわね。早く、早く来なさいっ!」

「だれ、誰でもいい。俺を引っ張れっ!」

「やに決まってるでしょっ!」



 断られたキールはそれでも結界内へはいずる。

 あと少しで結界内に入れる。その時アリシアが短い言葉を発した。



「あっ」



 キールがその言葉に振り返る。カレンを中心に爆発的に黒い魔力があふれ出した。

 床や壁を一気に黒く染めていき数秒で城全体を包み込んだ。

 そして一気に集束する。この瞬間わずかに瞬き数回程度の時間であった。


 城地下部分にある特別訓練所は闇に包まれたままだ。

 魔法具の光が無くなり隣に人間すらわからない。



「俺は死んだのか……」

「生きてるわよ。やーよ。死んでまで地獄行き確定の人間と一緒にいるのわ」



 キールの呟きに声で答えるアリシア女王。続けて状況確認に入る。



「アルマ、光だせる?」

「すみません。手持ちの魔道具に反応がありません」

「んじゃ、ジル爺、悪いけど光の魔法でも出してよ」

「はっはっはっ」

「何笑っているのよっ」



 ジル爺と呼ばれた大神官が笑い終わると真面目な顔で喋り始める。もっとも、周りに判るのは声だけである。



「でませんな。先ほどから色々試してますのが、魔法の魔の字も無理ですじゃっ」

「はー……使えないわね」

「はっはっは。アリシア女王、でしたら女王自ら火でも光でも出してくだされ」

「出来たらやってるわよ」



 アリシアが文句を言い出すと、別の男性の声が闇に響く。



「ごめん。状況が理解できない。この暗闇はなんだ、試合は? 彼女は平気なのか?」

「そ、その声お前かっ!? ラッツか」

「ああ、君に刺されたラッツだ。大神官長が助けてくれたのか? 傷は無いみたいだ。それより試合は?」

「馬鹿なっ。解呪すら出来て無いのにアレは眠りから覚める事は無いはずだ……」



 さらっと爆弾発言をするキール。キールだけが解呪出来るアイテムを持つというのは嘘であるのが露見されたのだ。

 一同のラッツの声を聞いてさらに無言になった。



「ん。ごほん。キール王子殿、私達はどうやら本当に死んでしまったのかもしれませんね」



 女王の職務中の話し方に戻し、アリシアは全員に聞こえるように喋りだした。 

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