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77 死合

 審判の手が挙がったときカレンは後方へ飛ぶ。

 先ほどまでカレンが居た場所をキールが右手に構えた銅剣を真っ直ぐに振り下ろしていく。

 そして、すぐさまカレンの死角から左手で抜いた剣を横になぎ払った。



「ほう。避けるか」

「あっぶなっ!」

「少しは楽しめそうだな」



 双剣を自由自在に動かしカレンをリングの端まで追い詰めていく。

 マチルダがリングの外から声援を送る。



「おねーちゃん。がんばれえ」

「ああ見えて剣の腕は確かなのよね」

「ふえ?」

「あの西の馬鹿王子の事ね」



 急に混ざる声にマチルダが横を向いた。

 そこには、何時の間にかアリシア女王が普段着のまま立っていた。



「やっぱ、心配だからねー。大丈夫いざとなったらラッツが止めるから。今は応援しましょうねー」



 声援を聞いてもカレンはそちらに見向きはしない。

 訓練であれ手を抜くな。それが剣を教えてくれた母の言葉でもある。

 もっとも、手を抜きたくても抜けないのが現状である。



「これならどうだっ!」



 カレンの構える暇もなく。連撃で押してくる。

 しかし、双剣の欠点と言うべきが早さと正確差はあれど一撃一撃が軽かった。

 一方カレンは剣を両手でもち正眼の構えを崩さないようにしている。

 段々と目が慣れていき、相手の隙も見えてきた。

 こういう相手には力の差を見せ付けたほうがいい、そうおもったカレンはチャンスを伺う。



「だあっ!」



 気合の掛け声と共にカレンはキールの剣を根元部分を狙った。

 カレンの全力の一撃にキールの剣は弾けとび、剣先はリングの上へと落ちた。

 そこからの一撃を避けるために後ろに下がったキールは信じられない者をみるような目でカレンと、飛んだ剣を見比べる。

 まさか剣の根元から破壊するとはラッツ王子も驚いたのか声を出さない。



「ちっ。おい、審判。剣の交換だっ!」

「ああ……ああっ。そうだねっ一時中断っ!」

「えっ。あの、まだするの?」



 カレンの呟きを聞いていなかったラッツ王子が試合を一時中断する。

 観戦していたアリシア女王が直ぐに小さく文句を言った。



「馬鹿ね。剣が弾かれたんだからカレンちゃんの勝ちじゃないの。試合を続行させてどうするのよっ!」

「おねーちゃんかったの?」

「ううん。まだね、でも勝つと思うから大人しく応援しようねー」

「うんっ」


 審判は絶対である、その審判が試合を止めないのであれば続けるしかない。

 次の練習用の剣を取りに小部屋へ入るキール。腰には新しい双剣と手には黒い皮手袋を嵌めていた。

 相変わらず不満顔のキールがリングへと戻ってくる。

戻ってきたキールを見て、ラッツが剣が飛ばされた事で試合を止めなかったのを思い出したのが決着付いた事を提案しはじめる。



「キール王子、試合は……」

「なんだ。この国は訓練とは言え。参ったもしてないのに負けになるのか? 軟弱な国だな、そういうえばラッツ王子。お前もこの国では強いらしいが、さぞ審判が優秀なんだろうな」



 簡単に言えばお前は審判に甘い採点をしてもらって不正をして強いんだろ? と、言っている。

 この言葉にはラッツ王子の顔も不機嫌になっていった。

 カレンは慌てて会話へ混ざる。



「あのっ! 私は大丈夫です。続き、そう続きをしましょう」

「ふん。女のほうが物分りいいな。で、どうする腰抜け。おっと、腰抜けじゃ失礼だったなチキン王子」



 挑発に負けてラッツ王子が、キールを睨み、カレンへ向き直る。



「カレンさんっ!」

「は、はいっ!」

「非公式とはいえ神聖な試合な一つだ、我慢して試合を続行させてもらっていいかな?」

「はい」

「では、再試合を行う。でも、今度は武器が無くなったらそれで終わりにするっ」

「わかったよ。耳元でうるせーな。俺の国では参った言わない限り続行なんだよっ」



 ニヤニヤとしたキールは、ラッツ王子に試合を急がせる。



「じゃぁ、何があっても恨みっこなしだ」

「うるせーやつだ」

「わかりましたっ!」



 先ほど同様カレンが数歩後ろに下がる。

 次の瞬間、キールは双剣を抜き右手に持つ剣をカレンへ向け振り下ろす。

 先ほどと同じ動きなのでカレンも直ぐに避けた。


 カレンは何か違和感を感じた。

 その正体に気づき声を出そうとした。キールの持っている双剣、先ほどの練習用とは違い刃が付いていたからだ。

 審判であるラッツ王子も、剣に違和感を感じ、もう少し見るために近くへとよった。


 キールの口元が少し動いた。

 先ほどと違う動き。

 左手で抜いた刃の付いた短剣を死角から、まっすぐにラッツ王子の胸へ突き刺した。


 一瞬の事でキール以外の全員の体が固まる。

 ラッツ王子は自分の胸に刺さっている短剣が信じられないように見つめ、カレンはその様子をみて体が止まった。



「ラッツさんっ!」



 カレンが、真っ直ぐに駆け寄ろうとした時、キールは腰に隠しつけていた手のひらサイズの物をカレンへと投げつける。

 カレンは慌ててその物体を、体に当たる前に瞬時によけた。

 キールは今度は明確に口元を動かすと、カレンが避けた物に剣を突き刺す。

 一般的に空中に浮いている物を突き刺すにはかなりの速さがいる、それをいとも容易く突き刺すのは剣の腕がいいからだろう。



「えっ? なっ!」



 小さな箱から極小の雷が発生する、直ぐそばのカレンの体を包み込み、体全体が崩れ落ちた。

 膝を付き倒れる寸前、キールは勝ち誇った顔をして、素早く長剣を構えていた。

 先端には既に四角い物は抜かれておりカレンの胸から背中へと剣を一気に突き刺した。

 勝ち誇ったキールが忌々しげに呟く。



「俺をコケにした奴は死ね」



 口の中に血の味が広がり、カレンの耳には心臓の音が大きく聞こえた。キールが次に何を言っているか既にわからない。

 突き刺された長剣により、運よく重心が後ろへ行って倒れないでいる。

 剣を刺され倒れたラッツに駆け寄ろうとする大神官と敵でも討つつもりなのかアルマもリングの上に登る姿が見えた。


 いくら大神官が回復魔法を使えるからと言っても、死人は生き返らせらない。

 カレンとラッツ王子じゃ、どちらが重要が考えるまでもなくわかる。

 先ほどと同じ動きも作戦の内、キールはラッツ王子を囮にしてカレンを確実に殺すように動いたのだ。

 



 アルマが叫びながら突進してくる、キールはカレンの体に突き刺さっている剣を半回転させ抜くとアルマへ血を飛ばした。

 二人の剣が絡み合う。カレンとラッツ王子から場所を取ろうとしているのかチラチラと周りを確認し、キールに手玉に取られている。



「アルマ……さ……ダメ……」



 カレンの動きが鈍くなっていく。

 体に穴の間カレンは喉から血が出てその場に倒れた。

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