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75 西の国の王子様

 突然の騎士に殴られたマチルダは、いまは床に倒れている。

 打たれた頬をさわり、涙目になって小さくなき始めた。

 カレンは直ぐに駆け寄ると、騎士に背中をみせマチルダを看病する。

 赤くはなっているが口の中は斬っておらず一先ず安心した。

 


「おねえちゃん。痛い、痛いよ……」

「あーよしよし、大丈夫、大丈夫だからねっ。ちょっとっ! いきなり何するんですかっ!」



 カレンの叫び声に騎士の男は、冷たい目のまま悪態を付く。



「ちっ。うるせえな。関係ないメイドはさっさと部屋からでろっ!」



 男の言葉と共に、扉が開く、フリルが付いたメイド服をきた女性が部屋の中を確認して、立ち止まる。

 長い黒髪をまとめた女性でその顔はとても暗く、泣きそうである。



「あの……。着きました……」

「おいっ! 今日はこの部屋は開いてるんじゃないのかっ!?」

「ひっ! そ、その通りでございます」

「こいつらは何だっ! それに貴様。使用人の癖にそんな遠くから俺に意見するのかっ?」

「も、申し訳……」



 駆け寄ってきたメイドに騎士は尋ね、次にカレンとマチルダへと向き直る。



「お客様ですか? 申し訳ありませんか。どなたでしょう?」

「ええっと、私は――」



 カレンがメイドに説明しようとした所で部屋にノックの音が響く。

 失礼しますと、入ってきたのは。カレンに負けず高長身で青い髪をしたメイド姿の女性。

 丸眼鏡をかけており四人の姿を確認し、動きが止まる。



「ちっ。また面倒な奴……。おい、アルマっ! 仕事サボっている使用人を俺が躾けたら反論してきたぞ。新人の教育はどうなってるっ!」



 アルマと呼ばれたメイドは深くお辞儀をし、その場で話し始める。



「緊急に誤解を解きたいと思い、扉前から失礼します。そのお二人は、女王陛下の御友人でおられます。本日は城の見学という予定でございます。キール殿下、エイミはなぜここにいるのでしょうか?」



 泣きそうな顔のメイド、エイミの体が震える。

 さも当然のような顔をして騎士の格好をしたキール殿下が代わりに話す。

 その顔はいやらしさが増している。



「忙しいお前に代わって、俺が新人教育をしてやろうと思ったわけだ」

「お手をおかけしまして申し訳ありません。しかし、教育は王と女王より、わたくしが一任されています。キール殿下様のお気持ちだけで十分でございます。エイミ、仕事に戻って大丈夫ですわ」

「は、はいっ。メイド長すみませんっ」



 泣きそうなメイドのエイミは小走りで部屋から出て行く。

 残ったメイド長アルマはふかぶかと腰を曲げキール殿下へと謝罪をした。



「ふーん、そうか。だったら、城内を案内する前に俺が見つけたって事はお前が仕事をサボったせいで俺は不愉快な気分になったわけだ」



 とんでもない理論である。

 そもそも、キール殿下がこの場所にいるのは、新人メイドを教育として強引に部屋に連れ込んだ事であり、その腹いせを回りにぶつけているだけである。

 それを察知したのはアルマだけであり、だからこそ新人メイドのエイミを逃がした。

 


「お客様、お怪我はないでしょうか?」

「え、はい。それよりもマチルダちゃんが」

「いたいよ。でも、もう大丈夫……」



 カレンはしゃがんだままで、マチルダを介抱し、マチルダはカレンの服へと顔をうずめる。

 怒りの収まらないキール殿下はさらに悪態をつき始める。



「だから、女子供は馬鹿なんだ。剣もまともに使えない女王陛下もさっさと引退すればいいのな」



 カレンは思わず、小さい呟きを言う。



「剣の強さが強いからって、威張っていいとは思いませんけど……」

「あん?」

「あっ。いえ、なんでもないです。ええっと、間違わせてすいませんでした。アルマさん、マチルダちゃんの手当てを一応見てほしいので医務室などあれば」



 カレンは早口で喋った。まさか聞かれてると思わなく、急いであやまった。

 もちろん、アルマも聞こえていたので、あわてて口車に乗る。

 


「わかりました。キール様、大変申し訳ありませんが失礼させて――」

「おいまて」

「はっ」

「アルマ。お前じゃない。そこの女、腕が強い人間こそ、人間が出来てるだろ?」

「そういう人もいますけど、そうでない人も見た事あるので……、あれですよっ。肉体的強さと心はまた違うというか。アハ……」



 ごまかそうと必死で、言葉を探す。

 アルマが小さく、カレン様。直ぐに部屋をでましょうと、提案してくる。


 キールはいつの間にか剣を抜くと、カレンへ切りかかろうと動く。

 カレンはその起動を読み避け、アルマはスカート中へ隠していた短剣を取り出しキールとカレンの間へ割って入る。



「なにするんですっ!」

「キール殿下様、お戯れお、この方達は女王の御友人ですっ」

「なら、おれはフランベルの友人となるな」



 フランベルとは首都の名前、もう一つ言い方があるとすれば現在カレンが住んでいる国の名前である。

 カレンはよくわからないので小さな声でアルマへ、どういうことですか? と、囁いた。



「伝えてやれ」

「カレン様、この方はキール殿下様と言って隣国ミットルズの第二王子に在られます」



 あくまで、カレンとエレノアはアリシア女王個人の友人である。一方隣国に王族となるとまた、重要度が違う、外交問題なる場合もありうる。



「と、言う事だ。女王の友人と、国の友人どっちか上かわかるよな、なに。命まではとらん。そうだな……。服を脱いで土下座しろっ。そしたら今回の事は水に流してやる」

「お客様にそのような事をさせるわけにはっ。わたくしがしますのでお許しになりませんでしょうか?」



 アルマはメイド服を丁寧に脱いでいく。

 白いフリルを外し、上着のボタンを素早く開けていく。無地の下着が見えそうな時に部屋の扉が大きく開いた。

 ドレスを着たアリシア女王が真剣な顔で部屋を見渡す。



「待ちなさいっ!」

「女王様っ!」

「アシリアさ……っと、アリシア女王様っ」

「じょうおうさま?」



 先ほどまで素の女王を見ていたので、呼び方に若干不安が残る二人を除いて、一同が突然部屋に入ってきたアリシア女王を見つめる。



「これはこれは、女王陛下。噂の男遊びから帰ってきたのですか? 残念ながら俺は遊ぶにしても、人を選びますので、もう少し御友人関係も考えたほうがいいですな」



 キールは嫌味百パーセントの言葉を丁寧に言う。



「ご忠告感謝します。しかし、噂話などを信じるとはミッドルズの第二王子であろうかたは随分と下種な人種と思われますゆえ、控えたほうがよろしいと思いますわ。それに、メイド長のアルマ、それにそこのお二人は、私のかげないの内友人ですの。友人に身分も何もありません。キール殿下にもわかりますと思いますわ。もっとも御友人が居ればですけれど」



 嫌味には嫌味で返す、アリシア女王。

 一気に畳み込もうとする。



「ですが、先ほどの話が外まで聞こえました。ミットルズは力を重んじる国と聞いています。そう怒るのも分からない話でありません。どうでしょう? 私の友人は力も持っています。午後から始まる訓練。そこでお互いに汗を流し遺恨も流すというのは?」

「ほう……。いいんだな。なるほど、訓練か……。その言葉忘れるなっ! 気分を変えてくるっ!」



 キール殿下が、部屋から出て行くと、カレンはよく分からなく首を振る。

 アルマが直ぐにアリシア女王へと異を唱えた。



「女王っ! 何を言うんですかっ!」

「ごめーん。だって、ああでも言わないと……。これでもエイミとそこで会って急いで走ってきたのよ……。彼女も自分だけ我慢すればいいと思ってたみたいだし、後であっても怒らないであげてね」

「エイミには怒る事はしませんっ! 怒っているのは女王、貴方にですっ! わたしが脱げ丸く収まったのに、客人を巻き込むとは何事ですかっ!」

「え。えっ。やっぱし、私が、さっきの人と戦うのよね?」



 カレンが事態を確認し始める。

 アルマが頷き。アリシア女王もうんうんと、頷き喋る。



「いやー。だって、ねー……。それにほらカレンちゃん強いって聞いてるし。大丈夫! 負けても一級神官もいるから回復は任せてっ!」

「ぜんっぜん、嬉しくないんですけどっ」

「ほら、よく考えてっ。あの憎たらしい奴をボコボコにも出来るって事よ!」

「おねえちゃんがんばってー」



 マチルダも応援しはじめて、カレンもキール殿下をボコボコに出来るならいいかもと、呟き始めた。

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