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73 本日の予定 休憩のち登城

 カレンは目が覚めて暫くは放心状態だった。

 原因は昨夜の晩餐会なのは明白だ。進められるままにワインボトルを三本ほど開けたのは覚えている。


 ウイーザ子爵が、アリシア女王に国の未来を語り、先に酔いつぶれた。 ロキと朝まで飲んでいて平気な顔をしていた、あの、ウイーザ子爵がだ。


 次にマチルダが寝落ちしており、エレノアが一時退出。

 ラッツ王子の周りにはメイドが沢山おしかけ、アリシア女王は男性諸君にかこまれ、いや。逆に男性諸君を放さないアリシア女王。

 

 カレンも他の使用人やメイドと共に故郷の事などを話した気がする。

 いつもより長くぼーっとしたあとに体を動かしはじめた。日課である軽い運動に魔法玉の練習。最後はため息だ。



「師匠も来ればよかったのに……。あっ今出ますっ!」



 着替えをしているカレンの客室にノックの音が聞こえたからだ。

 扉を開けると昨日カレンと一緒に騒いだメイドの顔がある、顔全体が疲れた顔をしているが笑顔である。

 お互いに何故かにやけると、メイドは顔をキリっとかえて、朝食の準備ができましたと、カレンへ伝えた。


 お礼を言ってすぐに前日の夜と同様に食堂へ向かった。

 カレンの晩餐会もおわり、今日は上座にはアリシア女王と、すぐ横の席にはラッツ王子。

 側面にはウイーザ子爵、エレノアにマチルダがいた、マチルダは大きめの椅子に座ろうと頑張っている所だ。



「お、おはようございますっ!」



 緊張しつつも挨拶をする、すぐにアリシア女王が笑顔で返事をしてきた。



「おっはよー。やっぱ若い子は凄いわね、元気そうでいいわ」



 隣のラッツ王子が、白い目で母であるアリシア女王を見ている。

 言葉は言わないが、それはカレンにもわかった。半分以上がぐったりしてるなら、一番元気なのはアリシア女王であるからだ。


 前夜と違い、エレノア達が作った料理ではなく使用人が作った栄養の取れた朝食を静かに頂く。

 見た目によらず、アリシア女王も優雅にナイフとフォークを使っている。



「で。ふぁえんふぁん。ふぁんふぁふぁふぁほうふぁ?」



 全員がアリシア女王に視線を飛ばす。

 口いっぱいにパンを積めて喋るから誰に何を言っているかわからない。

 隣に座っているラッツ王子が代弁をする。



「『カレンさん、今日はどうするの?』と母は言ってます」

「ええっと、とりあえず師匠の帰りを待たないと、あっいえっ! ご迷惑かけるわけには、ギルドへ言って――」

「いっふぇほうほうほ?」

「『言ってどうするの?』と母は言っています」

「仕事でもしますっ! エレノアさん、師匠がここに来たらギルドに向かったといってもらえればっ」



 保護者であるロキが居ないのにどうするもこうするもない。最善はここで待つしかない、しかし貴族であるエレノアや子爵に甘えっぱなしも悪い気がするし、平民であるカレンは胃が痛くなりそうだ。

 あくまで、自分はロキのお供なのだと、カレンは考えなおしたのだ。



「ひふえがふぁふぁんはんに?」

「……、母さん。いや、アリシア女王。いい加減口の中を綺麗にして自分の口で言うべきです」



 アリシア女王は、水で口の中の食べ物を流し込むと、息子のラッツへ不満顔をする。



「別にいいじゃない……。城じゃないんだし」

「当たり前だ」

「で、そうそう、力が半分もないのにギルドの仕事も何もないでしょう」

「そうなんですよ。魔力が無くで――。ふええっ! なんでっ……その事……」



 カレンは驚いた後に語尾が小さくなる。

 カレンの力が魔力依存、しかも特殊体質で魔力が枯渇し、吸収しなければ本来の力も出ないなど、ロキとカレンすら先日わかった事である。

 それを、この王女は当たり前のように知って言っているのだ。



「そ、それはっ女王の能力よっ!」



 食堂の空気が凍りつく、一人拍手をしているのはマチルダだ。

 小さいマチルダは、よくわかってないが女王という人物になれば、能力が使えるんだろうと思っている。


 カレンは言葉を選ぶ、いや選びたいけど咄嗟には出てこない。

 口をパクパク開いているとアリシア女王が畳み掛けてくる。



「よし。じゃ、二人ともお城ね」

「はい?」

「はい、じゃなくて。カレンちゃんにマチルダちゃんは、お城へ行くのよ?」

「マチルダもっ!?」



 カレンの横に座っていたマチルダが立ち上がる。椅子の上に立つので落ちそうになるのをカレンが支えた。

 目が開いており、若干興奮しているのがわかる。



「そうそう、誕生日近いんでしょ? 叔父さんとママとパパ。そして私、女王からのプレゼントって事、普段出来ない事をさせて……。あれ、ラッツ怒ってる?」



 アリシア女王は横にいる不機嫌な顔のラッツの顔を覗き込む。

 


「当たり前だ。城は観光地じゃない」

「そ、そうですぞ! 城は許された人間が入る場所! 姪のマチルダはともかく、平民を入れるなどっ!」


 

 反対側のウイーザ子爵も反対意見を投げかけてくる。

 突然アリシア女王は大声を上げた。 



「このばかちんがーっ!」

「…………」

「…………」



 沈黙が支配する。


 

「あれ? うけない? 宰相の真似なんだんけど」

「母さん……わかる人は僕意外いないんじゃ」

「あら、そうだった? それじゃ言い直すわね」



 アリシア女王は先ほどまでの喋りをやめ咳払いを一つする。



「ロキ・ヴァンヘルム男爵の弟子であるカレン。彼女は我が国で活躍した元宮廷魔法使いであるロキ・ヴァンヘルム男爵の下へ、かの者の後継者をと国が正式に弟子として育成候補として送り込んだ人物です。ゆくゆくは、かの者の後を次宮廷魔法使いになりえる人物かもしれません。城の見学は早いほうがいいでしょう」

「えっえっ?」



 カレンが小さく驚いていると、アリシア女王は続きを話す。



「一方マチルダ・サモン。小さいながらもサモン家の彼女は、現在当主であるウイーザ・サモン子爵。そのほうが子を作らない以上。第四継承権を持つ娘。マチルダから見て叔父であるウイーザ子爵、そなたはフラメルの町で貴族会をまとめ、父である、アレグリア・サモンは既に城で職務に励んでいる。ゆくゆくはその娘である、マチルダ・サモンも何かの役職に付く可能性もある。その見聞として城内へ招き入れる事にしましょう」



 カレンが聞いた、この二日間の喋りとは違う口調で話しおわったアリシア女王。

 先ほどより場の空気がピンと張り付いたようになった。

 蛇と蛙が退治しているような空間。小さいマチルダも場の空気に押されて無言でいた。



「ラッツ。それにウイーザちゃん。これでいい?」

「ええっと、はい。そうですね……」

「ぎょ、御意に」



 沈黙に包まれた間を壊すように、アリシア女王は手を二回ほど叩く。



「もうやだー。皆怖いかおするー。ねーカレンちゃん」

「えっ! 私、いえあの、はい……」



 もはや何にたいして返事なのかカレンもわかっていない。

 カレンが恐縮してると、使用人がエレノアへと近づいていく、小さく耳打ちした後に一礼して下がるとエレノアが大きな声をあげた。



「カレンさん。ロキさんから荷物が届いていますよ」

「えっ!ロキからっ! みたいみたいみたいみたいみたいっ!」

「師匠からっ!?」



 カレンより先に、アリシア女王が食いつく。



「母さん。先に食事を、いえ。カレンさん個人に届いた物に興味を示さない事です」

「えー、でもー」

「あの、よかったら食事終わったら一緒――」

「本当、やー。ほらみなさいラッツ! カレンちゃんはなんて優しいのー。ほら、いい子になるためにこれも食べなさい」



 明らかに残したであろう、緑の野菜をラッツの皿へと移す。

 その光景に思わず小さく笑うとアリシア女王は口を尖らせた。



「公務なら食べるわよ? でも、オフの日は嫌いな物は食べなくてもいいじゃないね。ねー。マチルダちゃんだってそうだよねー」

「ううん。マチルダ嫌いな物ないもん」



 その言葉に、ラッツが笑うと他の者も顔を隠して笑う。



「母さん、マチルダを見習ったほうがいいな。これは返すよ」



 緑の野菜をアリシア女王の皿へもどすラッツ王子。



「えー……。鬼っ! 悪魔っ! お前の母ちゃん……は、私になるからそれはだめね。いいわよ。食べれはするのよ、食べればいいのよねっ! ほら食べたっ! カレンちゃん早く行くわよっ!」



 途中から切れ気味のアリシア女王にせかされて、カレンもあわてて食べ終える。

 他の住民はまだ食べていはいるが、アリシア女王はカレンの手を引いて食堂を跡にした。


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