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71 ウイーザ家の晩餐会

 カレンはベッドに寝かされていた。

 目が覚めると、薄い毛布がかけられているのを認識した。

 部屋の窓から入る日差しは赤く染まっており、夕方になっている事を確認できた。



「あちゃー……。うう、会わす顔がない」



 周りが偉大な人物ばかりで失神した事にたいする思いを呟くと、肩を落とす。

 そして指を開いて数え始める。



「ええっと。女王様に王子様に、ウイーザ子爵に、その妹さんのエレノアさんに、子供のマチルダちゃん。どれも身分が違いすぎて、胃が痛くなるんですけど……。師匠に丸投げしたい。そう子供、子供だったらまだいいのよ! マチルダちゃんは可愛いし……」



 一人語尾を強くして喋る。

 足元から、マチルダかわいい?と、声がする。

 カレンが、驚いた顔をして顔を向けると、マチルダがベッドの影に隠れてカレンを見ていた。



「マ、マチルダちゃんっ!」

「なーに?」

「いつからそこに……」

「えっとね、ママがね、ごはんのしたくするからね、お姉ちゃんを見てきてねって」

「ありがとう。ああーもう可愛いっ!」



 カレンはマチルダの体を持ち上げるとそのまま抱きつく。

 苦しいのだろう、マチルダの手足がパタパタしはじめた。

 カレンはそのままベッドに仰向けに転がりマチルダと転がり始める。



「おねえちゃんっ! くるっ!」

「あはははははっ、ごめん、ごめんね。はい終了」

「もうっ! それじゃ先にいってるね、食堂は下にあるからっ!」



 カレンから離れると、パタパタと部屋から出て行く。

 一人になったカレンは、深呼吸をし気合を入れてから廊下へとでた。


 屋敷の中は静かであるが、ざわついた空気になっていた。

 廊下では何人かの使用人が行き来し、一点の場所をちらちらと見ている。

 カレンに気づくと、お辞儀しながらすれ違っていく、その中の一人を呼び止めた。



「すみませーん」

「ひゃ、ひゃいっ」

「えっと、食堂の場所を聞きたいんですけど……」

「はいっ! 一階にある――」



 先ほどからチラチラと見ている場所を丁寧に教えてくれる使用人に礼を言って、その場所へ向かった。

 大きい扉を抜けると白いテーブルがあり、テーブルの上には様々な料理が並んでいる。

 


「あっ。カレンちゃんっ!」

「カレンさん」

「カ……。おお小娘っ!」

「おねーちゃーん」



 三人の大人と子供がカレンを見ていっせいに振り返る。

 その光景に思わず身構える。

 テーブル中央に豚の丸焼きを運ぶ途中のウイーザ子爵と、その妹であるエレノア。

 その隣で寸胴鍋を運ぶアリシア女王、小さいマチルダまでもか、食器をもってパタパタと動いている。



「す、すみません。すぐに手伝いますっ!」



 カレンが叫ぶと、エレノアは大きな声を出した。



「カレンさん。お待ちになってくださいっ! お客様に手伝わせるわけにはっ!」

「あの、でも。アリシア女王様も……」



 カレンはエレノアが止めるので、アリシア女王のほうへ顔を向ける。

 すぐにお茶目な答えが帰ってきた。



「私はいいのよっ。手伝う事が出来ないなら財没収っ! って言ったんだしっ」

「そういうわけなのです。カレンさんの歓迎を行おうと思いましたら、その」

「なんだっ! 小娘の歓迎だったのかっ! 我輩の好物が多いからてっきりっ」

「兄さんは、ついでです。そもそもロキさん、カレンさんの好物かかれていないのでこちらの勝手になりますけど」



 無茶苦茶な命令をだされて、エレノアは困惑顔でカレンへ話す。



「な、なので。カレンさんは是非椅子にでお待ちに……。マチルダ、カレンさんの話相手になってあげなさい」

「はーい」



 とことこと歩くと、食器をテーブルに載せたマチルダはカレンの手をひっぱり椅子へと誘導する。

 あまりの可愛さにカレンはその手を振りほどけない。

 子供用の椅子によじ登ろうとするが、なかなか上がれないのでカレンが手伝いにまわる。

 マチルダは椅子に座ると、にっこりと笑う。



「お姉ちゃん。ありがとうっ!」



 エレノアはその姿を見て一緒に微笑むとカレンへ向き直る。



「はい、マチルダよく出来ました。それじゃカレンさんお願いしますっ。ああっ! 女王様っ! カマドは危ないですっ衣服が汚れますっ!」

「料理なんて汚れるにきまってるじゃないー。それに極秘なんだから、敬称なんて入らないわってさっきから」

「で、ですがっ」



 カレンは乾いた笑いを浮かべると、マチルダに向き直り話し相手になる。

 本来の依頼である、マチルダのほしい物を聞き出すためでもあり、カレン自身の現実逃避もかねてあった。



「マチルダちゃんは、ほしい物とかないのー?」

「もう。お姉ちゃんもそういう事聞くの?」

「あ、ごめんごめん、何か怒っちゃったかな?」

「ううん。叔父さんもママも、ほしい物を言えっていうんけど、マチルダはみんなが一緒ならほしい物なんてないのに……」

「ごめんね。それはマチルダちゃんが素直で可愛いからだよっ」



 カレンはマチルダの脇へ手を伸ばすと小刻みに指先を動かす。



「ひゃ。くずった一! おねーちゃんっ! まってっ」



 椅子から落ちない程度にくすぐると、少し怒った顔をしていたマチルダの顔が明るくなった。

 料理を運ぶウイーザ子爵が羨ましそうな顔でみながら、妹のエレノアに叩かれている。 


「でも、ママもおじさんも本当に何もいいのに……。おじさんと遊ぶのは楽しいけど、何かほしいっていうとお店事買おうとするんだよ? お店の品物ぜんぶかったら他の子が困るのに」

「そうだよねぇー。そうだ、マチルダちゃんは将来は何になりたいの?」



 将来なりたい物に関係するプレゼントを絞るための質問だ。

 返事はすぐに返ってきた。



「おひめさま!」



 なんとも子供らしい答えである。

 寸胴鍋をテーブルに載せたアリシア女王が二人の会話に紛れ込む。



「あら、これはクーデターかしらっ」



 その言葉に、遠くにいたウイーザ子爵の顔色が土気色になる。

 手に持っていた銀製の皿を落とすとあわてて駆け寄ってくる。



「アリシア女王様っ! マチルダはまだ子供ですっ。けして、けっしてそのような――」

「ちょっと、顔近いっ。やだ、もうっ。わかってるわよっ。マチルダちゃんも怯えてるじゃないの……。ねー。おじさんは冗談が通じなくて困ったわよねー。ほら、こっちはいいからエレノアの手伝いしてきなさいよっ」

「は、では、失礼します」



 トコトコと戻りながらもこちらを世話しなく見ているウイーザ子爵。

 カレンはその光景に思わずクスっと笑う。

 可愛いわねーと言いながら、アリシア女王もマチルダを抱きしめる、視線はカレンへと向き優しい声色で話してくる。



「どう? 少しは落ち着いた?」

「えーっと? アリシア女王様」

「ううん。貴方さっきまで自分はこんな場所にいる人間じゃないーって顔で倒れたから、それとロキと間違えてごめんねー。それと、女王様は余計。呼び捨てがだめなら、妥協ラインは『さん』ね」

「いっ。いえ! 大丈夫です、はいっ! アリシアじょう、アリシアさん」

「あちゃー、また緊張させちゃったかな」



 食堂の扉がノックされた。

 エレノアが不思議な顔で、開いてますよと、いうと長剣を腰につけた男性、女王の息子、すなわち皇太子であるラッツが入ってくる。

 その顔にウイーザ子爵をはじめ、エレノア、カレンの顔が少し引きつる。



「母さん。ロキ男爵はまだ来ないようだし。ここは帰るべきだろう」

「やーだー」

「やだって、周りの顔色も見ろ、女王がいると楽しい食卓も緊張するだろう……」

「やーだー。そうだ。マチルダちゃんっ!」

「はいっ」

「お姉ちゃんと一緒でもいい?」

「うんっ!」

「ほら見なさい、賛同は取ったわっ!」

「母さん……。その子は子供だ。それに自身をお姉さんというには――」

「黙りなさい」



 笑顔であるが、はっきりとした言葉で、ラッツが押し黙る。

 しかし、それでも王子たる威厳で踏ん張った。



「母さんはロキ男爵に甘すぎる。それでは陛下がかわいそうとは思わないのかっ」

「陛下って他人行儀な呼び方してー」

「陛下は陛下だ。父である前に国の王だ。そこらのいきずりの男性に熱心すぎるっ」

「ラッツッ!」



 アリシア女王が大声を上げ当りが静かになる。



「な、なに」

「黙っていたけど、ロキは貴方の父親なのよ……」



 アリシア女王の突然の独白に膝から崩れ落ちるラッツ。

 その光景を見ていないアリシア女王は続きを喋りだす。



「なーんて冗談なんだけどね、ラッツはランと毎晩がんばったから出来た結果よって……ラッツ? ええっと、冗談よ、冗談ー聞こえてるー?」

「アリシアさん。あのラッツ殿下の耳には聞こえてないと思います」



 カレンが静かに突っ込みを入れた。

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