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69 アリシアさんとサモン家の人々

 王都フランベル

 初代王フランベルがこの地に眠る竜を退治してから付けられた名前である。

 その王都の城下街への門を抜けた所でカレンは馬車の中で大きな口を開いていた。



「すご……。すごいですね。師匠」

「何が」

「何がって規模ですよ! 何所もかしこも人ばっかりで、そりゃカーメルなども大きかったですけど、その十倍は広いです」

「十倍なんてものか、王都のほうが百倍は広いわっ!」



 ウイーザ子爵の根拠がない言葉にロキは、適当にそうですねと、答えた。



「で。ウイーザ子爵。僕は用事があるから、途中で下車するよ」

「むろん、聞いておる、次の角を曲がった所に死角がある、そこで降ろそう」

「珍しいですね、師匠。何所行くんです?」

「まぁいろいろ……。それよりカレン。君は旨くやるように」



 何が? と話のわかっていない顔をする。



「僕の用事に君が居たら変だろう。それにカレンにはウイーザ子爵の姪からプレゼントを聞きだすんだろ?」

「えっ! えっ?」

「夜には帰ってくるよ……。たぶん、じゃぁ、子爵あとはよろしく」

「うむ」

「あの、ちょっとっ。本気ですかっ!?」

「何が、じゃぁ。夜に」


 

 馬車が角を曲がると、影になった場所でロキは降りて言った。

 掛ける言葉も言う前にいくのでカレンはあっけに取られて見送る。



「どうした、パレ……。この世の終わりみたいな顔をして」

「カレンです。いえ、大丈夫、大丈夫ですっ!」



 自身に言い聞かせるように返事をすると、馬車の隅で小さくなる。

 ウイーザ子爵は気にしにた様子も無く、ゆっくりと瞳を閉じ両腕を組み始めた。

 馬車内は沈黙のまま過ぎていく。

 

 程なくして馬車は屋敷へと付いた。

 老執事が、ウイーザ子爵を降ろし、次にカレンも丁寧に馬車から降ろした。

 玄関前には、細身の金髪の女性が立っており、ウイーザ子爵をみるとスカートの端を掴み優雅にお辞儀をする。



「ようこそ、豚、もとい、お兄様」

「うむ。エレノア息災だったか」

「はい。豚様……じゃないですわね。お兄様、そちらの女性は、どなだでしょう」



 カレンは慌ててお辞儀をする。名前を言おうとした所でウイーザ子爵が遮り喋りはじめた。



「うむ、ロキ男爵の弟子で平民の――」



 パチンっ! と大きな音が響く。

 エレノアがウイーザ子爵の頬を大きく平手打ちした音である。



「お兄様。貴族、平民とおっしゃる前にレディです。レディを貶めるお言葉はダメですわ」

「そ、そうだったな……。ごほんっ! ロキ男爵の弟子でカ……。ええっと」



 エレノアが再びウイーザ子爵の頬を平手打ちする。



「お兄様、レディの名前はきちんと覚えるべきです」

「そ、そうだな……。済まぬが自分で自己紹介を頼む」



 ウイーザ子爵はカレンへと振り返り、言葉の先を急がせる。

 あっけに取られていたカレンは、慌てて自己紹介を始めた。



「す、すみませんっ! あのっ、カレン。カレンと申します。師匠、いえ。ええっとロキ男爵の弟子という立場でその、あの」

「大丈夫ですわ、そんなに慌てなくても。カレンさん、用こそ我が家へ、エレノア・サモン。エレノアで結構です。ささ、お兄様は脂肪があるので平気でしょうけど、長い時間待っていたエレノアは疲れましてよ。カレンさんこちらですわ」



 エレノアはカレンの手をひっぱり屋敷へと入る。

 後ろ手で直ぐに錠を掛けると、背後からドンドンと扉を叩く音が激しくなる。



「エレノアっ! 兄を締め出すなど何たる事だ!」

「あら。豚が何かほざいてますわね」



 くすくすと笑うとカレンを見て微笑む、どうしたものかとカレンが考え居るとパタパタと走る音が聞こえる。

 中央広間の大きな階段の上に小さな女の子が走っていた。

 髪の色は金髪で、エレノアとカレンを見つけて笑顔になると、手すりに跨り、一気に一階へと滑って降りてきた。



「ママーっ! おじちゃん来たのっ!?」

「ええ。来なくてもいいですのに。豚が迷い込みましたわ」

「もう、ママったら直ぐにおじちゃんの悪口いうんだからっ!」

「それよりも、マチルダ。お客様ですよ」

「ご、ごめんなさい、マチルダ・サモンといいます」



 スカートの端を摘み、カレンへと小さくお辞儀をする。

 カレンの手がプルプルと震えており、とうとう我慢できなくなりマチルダを抱きしめる。



「可愛いっ! 可愛いっです!」

「お姉ちゃん、くる、くるしいよっ」

「ご、ごめんね。カレンお姉ちゃんって言うんだ」



 マチルダを離すと、エレノアに振り返る、大きな声で、かわいいですっと、伝えた。



「ええ。自慢の娘ですわ。さて豚も静かに鳴った事ですし、もうそろそろ家に入れましょうか。兄は貴族を重んじるばかり行動が先走る事が会ったと思いますわ、嫌な気持ちをされていたら、申し訳ありません」

「えっ。いいえっ! あの、その。そう、勉強になりましたっ!」

「お優しい事」



 エレノアが錠をガチャリと外す。

 大きな扉を内側へ開けると、ウイーザ子爵が膝を付いて顔を地面へと下げている。

 扉の前に一人の女性が立っており、エレノアもその姿を確認すると、すぐに膝を付いた。

 立っているのは、カレンとマチルダだけだ。

 そのマチルダも母親のエレノアが膝を付くので真似しはじめる。

 立っているカレンへと抱きつく女性。

 その声は嬉しそうで長身のカレンの匂いを嗅いでる。



「んんんんんんっ!」

「えっえっ!?」

「暫く見ないうちにロキってば背伸びた? それになんだか、女の子みたいな弾力あるし、ロキから女の子みたいな匂いがするわっ」

「母さんっ! よく見たほうがいい。その子は女性だよ?」



 母さんと呼ばれた女性の後ろから剣を腰に差した青年が歩いてくる。

 女性はカレンを離して顔をマジマジとみる。



「あら、ごめーん。ウイーザ、この人は?」



 顔を伏せたままのウイーザ子爵は地面を見たまま、はっと、言う。



「お忍びですから、顔を上げて話してね」

「で、では失礼します。ロキ・ヴァンヘルム男爵の弟子、へいみ……。いえ弟子のカ……。ごほん。弟子でございます」

「そっか貴方が例のカレンちゃんね。よろしくねー」



 女性はカレンの顔を下から見ると、その胸に再度顔を埋める。

 


「うひゃっ、あのっ! くすぐったいですっ!」

「この胸がっ、この胸にロキが毎晩揉んでるのねっ!」

「ちがっ。あのっ。本当にくすぐったいですっ。師匠は揉みませんし揉まないでっ!」



 青年が後ろから溜息を着くと、女性に声をかけ辞めさせる。



「母さん。いや、アリシア女王。周りの者が困ってるからそろそろ辞めてあげなさい」

「もう。すーぐ、女王とう立場を声に出すんだから……」

「えっ!? えええっ!?」



 カレンが混乱しながら周りをみる。いまだ顔を下げたままのウイーザ家の面々。自身より歳はいっていると思われるが、若い顔つきで女と呼ばれている女性。それに、その女性を母と呼ぶ青年。



「うわー、ラッツ大変、この子混乱してるー」

「そりゃそうでしょう」

「じゃ。改めて自己紹介。私はアリシア。普段は女王とか、かたっくるしい言葉で呼ばれてるけど、身分の前にロキの友として接したいから、その辺はよろしく!」



 カレンはアリシアをみて、青年を見る。



「ああ。僕は一応その息子って事になる。名はラッツ、今日はこのよく暴走する母親の監視もかねて」

「うわ。大変っ! ラッツ。カレンちゃんが倒れたっ!」



 情報量が多すぎて、カレンの意識は遠のいた。

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