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68 続ウイーザ子爵の悩み相談室

 目の下にクマが出来たロキが廊下に出る、手にはタオルを持っており顔を洗うつもりなのだろう。

 別な部屋からはカレンが欠伸をしながら出てくる、こちらも手にはタオルを持っていた。



「あ、師匠っ! おはようございますっ」

「ん。おはよう……」

「眠そ……。うわっ、それにちょっとお酒臭いです」

「眠そうじゃなくて眠いし。カレンは先に部屋に案内されたけど、僕は何故か子爵と飲むはめになって、さっきまで飲んでいたし殆ど寝てない」

「それは、お疲れ様です」



 カレンが慰めの言葉をかけると、ロキはもう一度大欠伸をした。

 廊下の端からウイーザ子爵が元気良く歩いてくる。

 カレンは廊下の端に立つと、お早うございますと、頭を下げる。



「うむうむ、カ……」



 ウイーザ子爵がカレンの名前を覚えてないので全部言う。



「カレンです。それにしてもウイーザ子爵……様は元気そうですね」



 敬称を付けるか迷った挙句、様をつけて丁寧に挨拶をした。

 


「ふん。ロキ男爵が酒も女もしないというのは嘘だったな、我輩の読み間違いだったわ。ワインを七本も開けるとはな。しかし、もう少しセーブして飲んだほうがいいな」

「何処かの貴族が僕を部屋に返してくれなかったからです」

「では、二人とも先にまってるぞっ!」



 恐らく覚える気のないウイーザ子爵はそのまま廊下から階段を降りていった。

 残されたのはロキとカレン。

 カレンは、訳もわからずにロキに尋ねた。



「待ってるって言ってますけど?」

「ああ。カレン、ウイーザ子爵の乗る馬車に僕らも乗るらしい。昨日の事片付いてないからって」



 カレンは小さい声でロキに尋ねる。



「師匠一人でどうぞっ! 私は荷馬車にでも乗って行くので」

「君もだよ。そもそも男二人に女の子の価値観なんてわからないし、馬車を停めたのは君だ、多少の責任をだね」

「横暴です! それに、それを言ったら私の価値観も昨日否定されてるんですけど……」

「…………。それでも居ないはマシ。君もウイーザ子爵と打ち解けて来たんじゃない?」

「でも、私達。というか師匠に剣を向けるような人と打ち解けても全然嬉しくないですけど。これでも気を使って話すようにしてますし」



 ロキは心配そうな顔のカレンの背中を軽く二回叩く。

 


「もう、そこまで心配しなくても大丈夫そうだよ。僕達を再度脅迫する機会はあったけど、特に何もなかったし。それと、カレン。心配してくれてありがとう」



 一方的に喋るとロキは階段へと歩き出す。

 滅多に言われないお礼の言葉を言われ、ボーっとする、急に背筋を伸ばしてロキの後を追いかけた。

 二人が洗面室から身だしなみを整えると既に用意は終っていた。

 前日まで来ていた、ローブは知らない間に洗濯をされており、カレンの持つ魔法の杖なども磨かれていた。

 他にも旅をするさいの消耗品が新品に変っていたりと全体的に新たしくなった品々。

 さらにホテルマンが大きめのバスケットをカレンへと手渡すと一礼して遠ざかる。



「やっと来たか……。おい出るぞっ!」


 

 玄関前には既に貴族用の馬車が止まっており、老執事が扉を開け、隣にはウイーザ子爵が怒鳴っていた。

 三人を乗せた馬車はゆっくりと動き始めた。

 若干アルコールの匂いがする馬車内で早速ウイーザ子爵が口を開く。



「カ……。貴様の案は中々の物だった」

「カレンです。所で私が何かを言いましたっけ。木剣を貰ったぐらいしか……」

「そこだ! ロキ男爵に聞いた所、貴様は平民の癖に冒険者になりたいと思ったらしいな」

「平民は関係ないと思うんですけど…」

「でだ。貴族には貴族らしい物を送ろうと思う!」



 少し間を置いてからカレンが拍手して、ロキもそれもそうですねと、賛成した。

 


「貴族のほしい物、即ち金だ! 金塊を送る事にした」

「…………」

「ふむ、カ……ン? 何が言いたそうだな、言って見ろ」

「カレンです。たぶん、たぶんですけど。小さい女の子に金塊は余り嬉しくないんじゃなかなーって私は思うんですけど……。でも、貴族様ってお金が好きとは聞くし……」



 チラチラとロキへ助け舟を求める目線を送る。

 ロキは仕方が無いといわんばかりに話し出す。



「僕もカレンと同じですかね。前も送って怒られたと昨夜聞いたんですけど」



 何故そんな事をいうのだ? という顔をしながらウイーザ子爵は力説する。



「ロキ男爵よ。貴様は昨夜宝石は駄目と言っていたじゃないか、だからこそ好きな物を買える金塊をだな」

「同じですよ」



 ウイーザ子爵はぶつくさと文句を言い始めると、大きく足を組み始めた。

 カレンは急に手を叩きロキとウイーザ子爵に話し出した。



「師匠、貴族って貴族以外には成れないんですか?」

「ん?」

「ですから、職業が貴族じゃないですよね。師匠だって、貴族の称号はあるけど基本魔法使いですし、常に貧乏ですし。ナディ君だって魔法使い目指してましたよね」

「なるほどね。僕の中傷は置いておいて、ウイーザ子爵の姪が将来なりたい者のプレゼントって事か……」

「はいっ!」



 二人で納得していると、解かっていないウイーザ子爵がロキへと聞いてくる。



「ゆくゆくは家督を継ぐのに、貴族以外になる事は無いぞ?」

「貴族でも、夢はあるでしょう。ウイーザ子爵だって小さい頃の夢は在ったんじゃないですか?」

「ふむ……、貴族以外の夢か……」



 顎ヒゲを小さく撫でると、静かに瞑想をしはじめる。

 馬車の中は急に静かになり、カレンはそわそわし始めた。

 ウイーザ子爵は目を開けるとカレンへと不安げに聞いてくる。



「姪の夢。そのなんだ……。やりたい事が判れば姪も喜ぶか?」

「た、たぶん……」

「判った。では、カレ……、カレンっ! そのようにせよ。我輩は王都に付くまで寝させてもらう」

「はい?」



 カレンは慌ててロキを見る。

 ロキのほうも、既に背もたれに体を預けていた。



「ええっと、師匠?」

「ふわああ。ようはカレンが、姪の希望の物を聞けって話しじゃないかな?」

「私が?」

「そ、さて僕も寝不足なんだ。暫く寝るよ」

「え、いやちょっと。師匠。あのですねっ!」



 カレンは馬車内で叫ぶも、どちらも起きる気配はまったくない。



「き、貴族って横暴すぎるんですけどっ!」



 もう一度小さく叫んだ後、馬車の隅で腰をかけ腕を組んだ。

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