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63 成長した姿

 訓練所。

 ロキ達のいる世界と切り離された場所であり現在は秘密の場所として使われている。

 石畳のリングにそれを囲う観客席。当然であるが観客席には誰もいない。


 その中央のリングでは元気に手を振るカレンと、それをあしらうロキが立っていた。

 二人の距離はやや離れており、大声で会話が出来る程度。



「師匠っ! いきますよー」



 カレンは手を振るのを辞めると杖を正眼に持つ。

 以前よりも早く黒い魔法球を作り上げ、そこに火の属性を付け加え黒い火球を作り出す。

 どうだ! といわんばかりのドヤ顔である。



「ああ、うん。最初よりは良く成ったよ」

「やっぱり、そうですよね」

「魔法使いは男性よりも女性のほうが成りやすいからね。じゃぁ行くよ」



 ロキは、呆れ顔のまま右手を前に差し出した。その手の平には何時の間にか作った氷の欠片を握り締めていた。


 勝負の開始はロキが空高く放り投げた氷が地面に落ちた瞬間だ。

 ロキは高く氷の塊を空に投げた。

 カレンはその氷を見つめ、落ちた瞬間に仕掛けに入った。


 火球だった黒炎はまっすぐにロキに伸びていった。横からみると火柱が倒れた感じになっている。

 ロキは顔が引きつりながらも、直ぐに氷の障壁をだした。もちろん、その間に後ろにへ下がる。何重にも氷壁を出し、その威力を相殺していく。

 辺りには氷が蒸発して出来た霧が発生する、前回よりは多少は薄いがカレンの視界が白く染まった。

 


「む、煙幕で逃げられるっ! 師匠でも、これじゃ師匠も攻撃できまっ――っ!」



 カレンが喋ると共に、真っ直ぐに何かか飛んでくる。

 手に持っている杖を弾き飛ばした。カレンが驚いた顔をしていると、そのまま二本目の氷が飛んでくる。


 氷はカレンの手に当り直ぐに衣服の上から胴体を凍らせる。

 三本目飛んでくると、足首を凍らせてカレンを転ばせた。



「いったっ」



 尻餅をついたカレンはそのままリングへと倒れこむ。

 施設の装置なのか、リング場に風が吹き霧を散らしていった。 

 残った場所には起き上がれないでいるカレンの姿、ロキはゆっくりと歩いて近くによると勝利宣言をする。



「はい、終了っと」

「うー…………」

「いくら魔力が多くても、才能があっても負ける時は負ける」

「師匠。なんで私の位置わかったんですか」

「ああ。あれね、氷の壁何重にも作ったでしょ。そのお掛けで完璧な位置が把握できた。あとはその火柱が終った後に魔法を打ち込むだけ、こう見えてもそこそこ才能あると言われていたからね」

「…………師匠。前に私の方が才能あるって言った事根に持ってます?」

「…………いや」



 しばしの沈黙のあと否定するロキにカレンは地面に寝そべったまま叫ぶ。



「うわー。絶対根にもってますよ! それにこの氷もはずしてくれないしっ!」

「心の声が漏れてるよ。カレンは才能があるんだ、一人でほどけるだろうと思ってね。それに心配しなくても魔力を抑えてる直ぐに溶けるよ」



 ロキの言葉通り、凍らされている部分の面積が小さくなる。

 バリバリ音を立ててカレンが立ち上がる頃には完全に溶けていた。



「師匠っ! もう一回しましょう!」



 ロキは嫌な顔をする。

 疲れたからだ。しかし、カレンはやる気マンマンな顔。

 どうしたものかと考え、一つの答えをカレンへ聞かせる。



「いいかい。訓練とは言え実際の戦闘だったら、カレン、今ので君は死んでる事になる。死んだのにやり直しもなにも無い」

「でも、試合と本番は違いますっ! そもそも毎日やっている魔法球の訓練だって何度もやるから成功したんですし、消化不良」



 ロキにカレンはまくし立てる。



「そう、消化不良ですっ。こっちは火一発しか打ってないのに終りって」

「じゃぁ。どうしろと」

「えーっと、とにかく。これじゃ試合をした感動がないんです。こう体を動かしてですね、試合の後には良く頑張ったと握手して、背景には夕日がー、みたいな?」



 カレンは身振り手振りで師と弟子の寸劇訓練を劇として説明する。

 ロキはカレンの動きが終ってから喋り始める。



「それは剣士の訓練かな、僕らは魔法使いは後方から戦うのが基本。接近戦になると弱いからね。君だってさっきの一撃は剣士の動きと違う魔法だったろうに」

「あれは、師匠がかわすと思っていたんですっ。そして近寄って来て私に切りつける師匠をこう、腕でガードしながらですね、私の剣と師匠の剣でズババっと切り合いをして、最後に私が師匠の剣を弾く」

「実際は僕が勝ったけどね」

「だからこそ、もう一度」

「断る。僕としては、君がいくら僕より才能があろうか足元は簡単に救われるんだぞ。というのを証明出来て満足した」

「うわ、やっぱり根にもってるし……。わかりました。ええ、わかりました」



 カレンが、わかりましたと、喋った後、納得したのかとロキは油断した。ロキの両肩を掴むと抱きつき無造作に動かす。

 ロキの顔はカレンの胸の下に辺り、頭にには胸が乗る形になっている。

 息苦しさにロキは両手で抵抗するも、カレンの力にはかなわない。



「くる、苦しいっ」

「あと、一回でいいんですっ、今度は師匠にも勝てそうなんですし、それで負けたら諦めますからっ!」



 喋りながらもカレンはロキの体を無造作に動かす。

 縦横斜めと、ロキが転ばないのが不思議なぐらい。



「わかっわかった。い、一回だけっ」

「本当ですっ!?」

「ハァハァ、窒息するかとおもった。君は子供か……」

「師匠から見たら子供なんじゃないです?」

「ああ言えば、こう言う……。もっと常識を教えればよかった」



 とはいえ、ロキもそこまで常識があるほうではないのは自覚をしている。

 二人は再び石リングの中央へと立つ。


 今度はロキが先制でしかける話にまとまった。

 試合の合図は先ほどと同じく、ロキの出した氷がリングに落ちてからだ。

 先ほどと同じようにカレンは魔法球を火球にし、黒炎を空中に出している。


 旨くなったな……、ロキは一人呟く。

 試合前に火球を出してる時点で反則であるが、それも今回は眼をつぶる事にした。

 ロキは再度、氷の欠片を空に投げた。


 コロン……。


 地面に落ちたと同時に、ロキの周りの空気が変わった。

 先ほどの両肩を掴まされなすがままの情けない顔はなく、眼は真剣そのもの。



「少し時間が掛かるからまってくれ」

「はーい」



 ロキは立ったまま詠唱を行なう。

 カレンは無詠唱が出来るロキを見ていただけに、驚きを隠せない。

 距離が離れている分、詠唱内容までは聞こえないがカレンの体はピリピリした物を感じ取れた。

 ロキを守るように、氷のが作られていく、瞬く間にロキ身長の十倍はありそうな魔法で出来た氷白蛇がそこに現れた。



「す、すごい……」

「さて。何時でもっ」



 ロキはカレンに聞こえるように大声で合図を送る。

 カレンは見とれた後に首を振る。

 小さく、それじゃ、いきますよと、呟いた後に走り出した。


 当ると火傷じゃ済まされないような火球を走りながら、ロキの作った氷白蛇に当てていく。避けないのか避けれないのか、氷白蛇はカレンの魔法をその体にあてて行く。

 黒炎でえぐられた場所は直ぐに修復されていった。

 


「カレン、それぐらいじゃ僕の氷白蛇は敗れないよ」

「すごいですねっ!」



 笑顔のカレンをみてロキは苦笑する。 

 火球を作り出す事を諦め、ぐるりとロキの周りを一周する。

 死角になる部分で持ち替えたのか手にはショートソードが握られていた。


 魔法使いは接近に弱い。そういったのはロキである。

 そこを狙った攻撃だ。

 ロキは一人事を呟く。



「途中で落とし穴で落としてもいいんだけどなぁ。それじゃまた怒るだろうな」



 ロキは一人言をいうと氷白蛇の魔法を発動させる。

 氷白蛇が口を開くと、何十本も氷の矢がカレン目掛けて発射された。

 一本一本が女性の腕ぐらい太い。

 カレンは、その攻撃をギリギリで回避する。なお、カレンは知らないがロキも本気で狙っていない。



「さすが、師匠っ! すごい。でも私にも秘策はあるんですっ!」

「だろうね。それを叩き潰すから」



 ロキの物騒な発言にカレンはますます笑みを浮かべる。

 昔から全力で挑むのが好きだった。

 それでいて勝つのも嬉しいが、負けるのも嬉しかった。上には上がいる、そう思うとカレンはますます練習をした。


 この訓練開始から手応えはあった。魔法のイメージトレーニング。

 以前は出来なかった火球の固定。

 さらに火柱をイメージするとカレンの思い通りに発動した。


 では、自分の手に持っている剣に乗せる事はできるんじゃないかと。


 ロキはカレンへ氷白蛇を突撃させた。

 ロキの考えなら、白蛇はカレンを飲み込み、その場で氷付けにする。そう予定だった。

 カレンは急ブレーキをかけると迫ってきた白蛇に向けて剣を構える。



「はあああああああああああああああ」



 掛け声と共に、カレンの右手から黒い魔力があふれ出る。

 気合の声と共に祈った。



「お願いっ!」



 刀身に黒い炎がまとわり魔法剣となった剣を振り回す。

 リングに黒炎が飛び散り、不気味に燃えていた。

 そのまま走る、ロキがカレンへぶつけた氷白蛇と正面衝突の形だ。

 カレンは一刀両断する。氷白蛇がバターのように切れていった。


 その勢いのままロキへと走る。

 ロキの手には氷で出来た剣が握られている。カレンが氷白蛇を切っている時にロキが魔法で作り上げた物だ。


 カレンは驚きながらも、その剣ごとロキに攻撃しようとした。

 ロキもカレンが剣を受けとめると信じていた。


 次の瞬間、カレンの手から魔法剣が消えた。

 元のショートソードが魔法に耐えられなく消失。それによって黒炎は固定するものがなく、刀身部分が全部消えた。


 ロキの魔法剣がカレンの胸を捕らえる。訓練でなければ致命傷な一撃である。

 斬り付ける寸前カレンの体から黒い魔力があふれ出た。

 ロキの氷の剣が届く瞬間、黒い魔力はロキの氷の剣をにまとわり付いた。



「くっ!」



 ロキが短い悲鳴をあげる。

 ロキはカレンの間に小さな氷の障壁を作り、無理やり蹴る事でカレンから離れた。

 黒い魔力はあたりの魔力を吸い出している、ロキ出した障壁も今はカレンの中へと取り込まれた。


 膝を立てて立っているカレン、その眼は虚ろで既に意識があるように見えない。

 周りに吸う魔力が無くなったのか、カレンはその場に倒れた。 

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