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61 貴族という生き物

 老人はサモン家に使える執事だった。

 ロキがこの街に逗留していると聞いて、どうしても主人が会いたいと使いを寄越してきたのだ。

 


「と、いう訳ですので、ロキ・ヴァンヘルム様、お屋敷のほうへ。こんな小さな宿に泊まる事はありません」

「あんっ?」



 宿屋の主人が不機嫌に声を漏らすが、それ以上は何も言わなかった。

 既にカレンと離れてベッドに腰掛けるロキは、少し考えた後、執事へと尋ねる。



「断ったら?」

「別にお断りされても、ロキ・ヴァンヘルム様のご自由です。あっそうそう、宿屋のご主人、たしか先々月の場代がまだお納めになっておりませんでしたよね? 私が帰るまでに支払って貰わないと」

「おい、来月にまとめて払うとっ!」

「はて、最近は物忘れが多くてすみませんね。わたくしが無賃で宿を出ると私兵が宿を取り壊す取り決めになっておりますので、直ぐに持って来てください。何か他の事があればそれも忘れる事が出来るかもしれませんなぁ、歳は取りたく無い者です」



 全員の沈黙に部屋の空気が張り詰める。

 簡単にいうと脅しだ。

 ロキは別に断ってもいい、その代わり断るとこの宿がどうなってもいいのか? と。

 カレンが心配そうな顔でロキを見つめる。



「僕がサモン家にいけば、忘れられそうかい?」

「ええ、ロキ・ヴァンヘルム様が御同行されれば嬉しさの余り、こんな小さな宿の事など忘れそうですね。なんだったら未払い金も受け取ったと勘違いするかもしれませんな」

「師匠……」



 ロキにとってはまったくの義理ない。それ所がこの宿屋がどうなっても別に旅には問題ないのだ。

 しかし、周りの視線を集めると溜息を付いて口を開く。



「わかったよ。カレンは?」

「たしか御弟子さんでしたな、ロキ・ヴァンヘルム様がご希望ならご一緒にどうぞ、執事が言える立場ではございません」

「一人にしても危険か……」

「あの、師匠。こう見えても一応冒険者ランクEなんですけど、留守番なら一人で出来ますけど」



 カレンの言葉を無視してロキは話し出す。



「わかった。会うだけで収まるなら会おう。今後この宿を脅すような事はしないと約束するなら」

「流石はロキ・ヴァンヘルム様。ええ、それはもちろん。綺麗さっぱり忘れますので、ごらんの通り証文もこちらに、この証文をうっかり落としてしまえばこの先ほどの話は綺麗さっぱり忘れる仕組みです」



 ロキとカレンは宿を出る。

 背後から、またこいよ! と宿屋の店主に見送られ個室タイプの豪華な馬車に乗った。

 執事は一緒には乗らず、御者と一緒の場所へと座る。

 

 狭い馬車内でロキとカレンはむかえ合う形になっている。

 


「あのー。やっぱり何所かで待ってましょうか? あの人も私の事は無視してましたし」

「あそこに残って、君が人質に取られると心配だ。宿を簡単に取り壊す私兵をもった人間が、僕を連れて行き、君を人質に取ると面倒事が増す」

「なるほどっ」



 短くいうカレン。その頬がちょっと赤い。



「と、所でこれ、これ走ったほうが速いですよね」

「貴族が乗る馬車だからしょうがない。さて……、カレン。少し話しておきたい事がある」



 古から栄えているフラメル、馬車の周りは貴族街のエリアに入っていった。

 広大な敷地をもつ建物が増えてき。何所までも長い塀の横を馬車はゆっくりと走る。


 屋敷と屋敷の感覚が長くなっていた所に、ロキ達を乗せた馬車は一つの門を潜った。

 正面には噴水があり、噴水を回りこむように玄関へと付く。


 執事は馬車の扉を開けて、二人をエスコートする。

 執事が先頭で歩き二人を屋敷へと招きいれた。

 大きなシャンデリアが灯っており、それとは別に魔道具の光が輝いている。

 夜だというのに屋敷の中は昼のように明るかった。



「すごい……」

「申し訳ありません。ここは安全ですので御召し物をこちらに」



 カレンは黙ってロープを手渡すと、困った顔の執事がロキを見る。

 ロキは小さく笑うと、カレンへと耳打ちした。



「この場合は武具だね、杖と剣を手渡してあげて」

「そ、そうだったんですかっ!」

「別に突っぱねても良いんだけど、ここは従っておこう」

「あの。さっきから空気が寒いというか……」



 ロキは護身用の短剣、カレンは魔法使いの杖にショートソードを手渡す。

 カレンの心配する言葉に黙っていた執事が喜ぶ。



「流石は御弟子さんですな。この屋敷には魔封じの結界が張られております。伝説の氷白蛇ですら、この結界ではただの蛇になりましょう」

「そう……。さて、僕らは招かれたわけだ主人に会わせて貰いたい」

「もどったかっ!」

「は。ロキ・ヴァンヘルム様をお連れいたしました」



 階段から降りてくるのオーク。

 もとい、オークに似た人間だった。

 脂ぎった顔に、小太りの体系、腹は出ており身長もロキよりは低い。

 頭もはげており、鼻下に黒い髭が生えている。



「ようこそ、ロキ男爵。狭い所であるがゆっくりしてくれ。我輩はウイーザ・サモン子爵である。直ぐに食事を」

「は、既に出来ております」



 執事につれられて入る食堂。

 長いテーブルが置いてあり上座にウイーザが座る。

 その反対側にロキは座らせられる。

 カレンの席はなく、何ともいえない空気が二人の間に漂っていた。



「ロキ男爵、我輩は子爵といえとこれぐらいの持て成しは出来る」



 男爵と子爵。

 貴族の中でも位があり。王を中心にいくつかの位がある。

 男爵は一番下の地位であり、子爵はその上に属する位だ。


 ウイーザ子爵の横ではメイドが料理を切り分け男爵の皿へと移す。

 ロキの横でもメイドが料理を運んできた。



「ウイーザ子爵。彼女の分は?」

「おや……? 彼女とは横にいる平民の事ですか? もしや彼女は何処かの貴族出身とか?」

「そうですね。特に家が貴族とは聞いてないです」

「これは面白い冗談だ。ロキ男爵。貴方は平民と一緒に食事を取るのですか? いくら弟子だからといって人間とそれ以外の区別は付けるべきですな」



 カレンが切れないのは理由がある。

 事前にロキから身勝手な貴族と言うのを説明を受けているからだ。

 冒険者ギルドに立ち寄るような、平民も貴族も関係ないような貴族もいる、しかし、未だに古い考えの貴族も同様にいるのだ。



「生憎と、僕は普通の貴族と違うらしいからね」

「そうであれば、食事は後にしますかな。おいっ」



 ウイーザが手を叩くと、食べていない食事が下げられていく。

 意地でも平民と同じ場で食事をしたくないらしい。



「では商談と行きましょう。ロキ男爵の持っているギルドの権利を売って頂こう」

「僕は商談するつもりは無いし、権利と言われても何か勘違いしてませんか?」

「これだから、成り上がりは……っと、では言い直しましょう、貴様がエルフに命令し魔法ギルドの権利を我輩に譲渡するのだ」



 大きな声で命令してきた。既に貴族呼びではなくロキの事を貴様と呼び捨てである。

 カレンは小さな声でロキに話す。



「師匠がギルドの権利持ってるんですか……?」



 ロキは小さく首を振る。そして真っ直ぐにウイーザに言い返す。



「勘違いしてるかもしれませんが、魔法ギルドはエルフが独自に作ったギルドです。そのギルドの管轄は僕ではありませんし、最終的に決定権を出すのは王であり僕ではありません」

「惚けるか、貴様がエルフや王妃と体の付き合いがあるのは調べ済みだ」

「ありもしない事を言わないで欲しい、アリシア王妃は、ラン王と国を作っているし、ナナリーは昔からの仲間だ」

「これだから平民はっ!」



 ウイーザが手を叩くと、甲冑を来た人間が大量に入ってくる。

 全員が剣を既に抜いておりロキとカレンの周りを囲んでいた。



「こうみえても手荒な事は嫌いでね。ロキ男爵、この紙に君の手と血を少し別けてくれるだけでいいのだよ」

「素直に押すと?」

「ふむ、指の一本でも王妃やエルフに差し出せば、私の地位も上に行くと思うんだがな」



 部屋の空気が冷たくなる。

 カレンは最初は緊張のせいかと思っていたが、命令を待っている甲冑の兵士達もざわついて来ている。



「子爵。悪いけど帰らせて貰う。今日の事はお互いに無かった事に、別に僕も誰かに何かを言うつもりはない」

「か、帰れると思うのかっ!」



 既にロキの魔法は発動していた。

 ロキとカレンをを除き二人を中心に床が凍っている。

 甲冑を着た兵士はその足は氷で固められうこけず、甲冑に霜が付いており今ではカタカタとどうする事も無く震えていた。

 それでも悲鳴を上げないのは訓練されているからだろう。たとえその場から剣を振りかざしても二人には届かない。


 ウイーザは直ぐに執事のほうをみる、それまで扉近くで待機していた執事はウイーザで何度も頷く。



「魔封じの装置は完璧に作動しておりますっ!」

「と、いう事。建物全体の魔封じの結界は凄いと思うけど、僕は一応王宮をすんなり辞めれた魔法使いと認識して欲しい。さて、僕らの武器を返してもらおうか」

「だ……黙って帰すと」



 ロキはカレンへ耳打ちする。

 カレンは嬉しそうな顔で頷くと、先ほどまであったテーブルの皿を掴むとウイーザ目掛けてブン投げる。


 皿はウイーザの頭一つ分横を通り、壁へと激突する。

 ロキは次にカレンへ別の皿を手渡す。

 カレンは得意げに頭一つ分避けるようにさらに投げる。

 


「わ。わかったっ! 男爵、いや、ロキ男爵殿っ! 今までのは軽い冗談。そう冗談だ。ロキ男爵殿が周りの貴族からどう思われているのかを知って貰いたくて……」

「そりゃどうも、では、その忠告をしかと胸に刻みましたので僕らは帰ります。武器と馬車をっ!」



 ロキの大声で、ウイーザが何度も頷く。

 執事が走り出して、直ぐに武具を返してくれた。それと同時に大きな革袋を手渡してくる。口止め料だ。ロキは黙ってその袋を受け取ると馬車に乗り込んだ。


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