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60 告白

 ロキとカレンはホロの着いてない簡素な荷馬車に乗っている。

 冒険者ギルドで荷を受け取り、フォーゲンに別れを告げた、そこで丁度北の町まで荷物を運ぶ運送馬車屋が来たので一緒に乗せて貰う事にしたのだ。


 現在ロキは様々な荷に紛れて体を横にしている。顔には腕で日差しを隠し静かに吐息を立てていた。

 カレンは荷物に背を預けぼーっと景色を見ていた。

 荷馬車を操る御者は軽い鼻歌を歌いなら馬を操作している。


 カレンは溜息をつくと、ロキ鼻を摘む。

 ロキは息が出来なく、苦しそうになると、手を離した。

 カレンの顔がパァと笑顔になり、もう一度鼻を摘み、苦しい顔になると手を離す。

 悪いと思いつつ三度目をしようと鼻を摘んだ所でロキがその手を跳ね除けた。



「君は、僕を殺すつもりかっ!」



 物騒な言葉を聞いた、御者は慌てて振り返る、直ぐにカレンが何でもないですっと、慌てると再び前を向き手綱を操作し始めた。

 荷馬車の中でロキはふて腐れる。



「そんなつもりは無かったですけど……。暇でして」

「君は暇を解消するのに、僕の鼻を摘んで窒息させると……」

「そんな言い方しなくても。わかりましたっ! 師匠ごゆっくり寝ていてくださいっ!」

「生憎と目は覚めたよ」



 二人のやり取りを聞いて、荷馬車を操縦している御者が思わず笑いだす。

 後ろを振り返り声をかけた。



「いやー。カレンちゃんは面白いなぁ」

「あれ? おじさん会った事か話した事ありましたっけ?」

「いいや、話すのは初めてかな。こう見えても、ギルドの荷を運ぶ仕事をしてるとね噂がはいるんだ。元気な冒険者が、この街にいるらしい大魔法使いに弟子入りしたってね。でおじさん冒険者に会う機会が多くてね長身で元気がいい女の子が乗っていてピンときたわけよ」

「元気すぎますけどね」



 ロキが突っ込みを入れると御者はさらに笑顔になる。



「こういう仕事してると深い所は聞かないようにしてるんだけど、緊急事態かい? おじさんとしては街にいる大魔法使いさんが居なくなると少し治安的に不安なんだけど」

「ああ。この子の修行のようなものです。何所かで戦争とか、カーメルが魔物に襲われるなどは無いので」

「それは良かった。もしそうなら妻と子を連れて逃げなくてはいけないからね」

「おじさん、おじさん。私、戻ってくる時には大魔法使いになってますからね!」

「そりゃ楽しみだ」

「僕もそう願ってるよ」

「さて。フルメルまでもう少しだ。二人とも、なるべく早く行くようにするからもう少し暇を満喫してくれ」

「はーい」



 御者は馬に鞭をいれて速度を上げた。

 失われた遺跡封印場所を素通りし、例の事件があった町、フラメルの町を守る石門が見えて来た。

 警備兵に身分証を見せ、中へと入る。

 荷馬車を操る御者と手を振り別れ、ロキとカレンは今日の宿を取りに歩く事にした。


 教会に止まる事も出来るが、そうそう厄介にはなれない。

 一泊ぐらいなら宿に泊まる事にしたのだ。

 二人は元魔法ギルドの前を通り宿へと行く。

 休業中と書かれた看板をみてカレンは寂しそうな顔をしている。



「本当にやってないんですね」

「ああ。なに、落ち着いたら再開すると思うよ」

「そうですよね。私まだパックさんに黒い魔法の事、色々教えてもらいたいのに」

「一応僕が師匠なんで、そういうのは僕にしてくれると助かるんだけどなぁ」

「だって、師匠全然教えてくれないんですもん。何か隠しているというか……」

「さ、宿に行こうか。僕は何か軽食を買ってくる、カレン宿を取っていてくれるかい?」

「ほらー。そうやって話を……」

「わかったよ。黙っていてもしょうがないし君の魔法の事を宿に言ったら教えていく」

「本当ですかっ! じゃぁ、直ぐに宿とって置きますのでっ、早く来てくださいねっ、今晩たっぷり教えてくださいねっ!」



 勘違いされそうな言葉を大きな声で喋り、ロキに別れを告げた。

 ロキは深い息を吐くと軽食を買うのに横道へと曲がった。


 辺りが夕暮れになる。家がある人間は家へ行き、そうでない人間も酒場などにいく時間、ロキは不機嫌な眼でカレンを見つめていた。

 場所はカレンが先に取ってくれた宿屋の一室である、ロキはベッドに座り、カレンは近くの椅子に座っている。

 体の大きなカレンであるが今は小さくみえた。



「君ね、少しは自分の立場というのを」

「でも、冒険者では普通ですし」

「それも、わかる。けど。僕と君とは親子ほどの歳の差もあってね、君だってわかるだろ。その…………あっちの経験はないんだろ?」

「あっちって、その子供作る行為の事ですよね」



 ロキが怒っているのは理由がある。

 宿に来たら、強面の店主がゴホン、と大きな咳払いをする。訳がわからずにいると部屋からでたカレンが走ってくる、ロキの手を引いて部屋へと続く廊下へ引っ張ろうとした時に店主が睨みながら注意してきたのだ。



『おっさん、ここは連れ込み宿じゃねえ、冒険者の宿だ』


 

 と。

 そこからあれやこれやと、長く説明する事、さらにはロキが冒険者ギルドの身分証さらに貴族の印でもあるもう一つの身分所まで見せてやっと半信半疑になっとくしてくれた店主。

 ロキもそこでもう一部屋取ろうとしたが、既に部屋は満室でどうしようもなかった。

 そして始まったロキの説教タイムであった。



「大きな声で言わない事」

「そりゃ、ないですけど……。もしかして師匠っ。私を襲うんですかっ!?」

「襲わないっ!」



 隣の部屋から壁を殴りつける音が聞こえた。

 二人は音のほうを見て、ロキは声を静かに喋るように努力し始める。

 カレンのほうは気にした様子も無く床に毛布を引き始めた。



「だったら別に、部屋は一つでもいいじゃないですか。安く済みますし」

「安いに越した事はないけど、それとこれとは別だ。そもそも、君はみたか? 娘ほどの女性と一緒に部屋ってわかった時の店主のあの顔」

「ねー。冒険者だし、師と弟子だっていっても中々信用してくれませんでしたよね」

「ああ。お掛けで僕は身分証明まで出す羽目になった……。とにかく、今後は僕の名誉の為にも宿が無い時はしょうがないが、宿がある時は別部屋にする、それと僕が床に寝るからカレンはベッドで」

「流石に悪いなーと、少しは思ってますし師匠がベッドでどうぞ」

「この状態で弟子を床にもないだろう」



 二人でベッドの譲り合いをしていると、再び壁ドンをされる。



「落ち着こう」

「そ、そうですね。それは私が床に寝ますので、じゃっ、師匠っ! 私の魔法の事を教えてくださいっ!」



 元気に喋るカレンにロキはうな垂れる。

 


「ここまで仕打ちを受けて、僕にまだ喋れと?」

「約束……」

「ああ、もうわかった。軽いおさらいをして今日は休む。魔法の属性を唱えよ」

「ええっと、火、風、水、土、光に闇ですかね」

「大体はそうだね。細かい使い手もいるけど今回は省く。で、その中でも光と闇。これは魔法の中でも上位魔法、光は神官や神父が使うのが多い。問題は闇、僕が教えなかったのは……」



 ごくりと唾を飲むカレン。



「これは、正直な所解明されてない」

「ん? 勿体つけてません? ええっと……?」

「これでも調べたんだ。調べた結果、歴史的にも悪い結果しか出てない」

「悪い結果とは……」

「想像にまかせる。だからこそ、今回の旅で君の魔法使いとしての腕を上げたい」

「あはは、じゃぁ私は悪い魔法使いって事になりますね」



 カレンは笑って見せているが、ロキはカレンの手をそっとみる。

 悪い魔法と聞いてから手をぎゅっと握り締めていた。

 カレン自身でも、自分の魔法が良い魔法とは感じられなかった、前回の黒炎でさえ普通の炎とは違い、燃え尽きた灰は体が冷えるぐらいに冷たかった。



「だからといって僕はカレンの魔法を行き成り封印しようとも思っていないから」

「し、師匠っ!」

「ば、抱きつこうとしないっ!」



 裏を返せば、最悪な場合は封印以上の事をするとも言っている。

 カレンは嬉しさの余りベッドに座っているロキに抱きつこうとしている。

 部屋の扉が突然開かれる。


 見慣れない老人と宿屋の店主が立っている。

 見慣れない老人は黙って部屋の扉を閉めるとノックをし始めた。



『大変申し訳ありません、ロキ・ヴァンヘルムさんに御用があって』

『馬鹿野郎、俺の宿屋は連れ込み宿じゃねーぞっ!』



 廊下で二人の声が同時に聞こえてきた。

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