59 出発日
カーメルの町にある魔法ギルド。
普段はミナトが店番をしナナリーは外出している事が多いお店。その中に何時もの四人が集まっている。
例によって、ロキ、カレン、ナナリーにミナト。
店内でロキは商品棚を眺め時間を潰している、カレンは店の中央に立たされていた。
「あのー。めちゃくちゃに重たいんですけど」
文句を言うのは理由はその両手、両足に嵌められていく複数のリング。
重量は一本二キロほどのリング、ナナリーはカレンの文句など聞き流して次々にリングを足していっている。
最終的に十二本のリングに二十四キロの重さになった。
「はい、で来ましたわっ! さっカレンさん魔法玉を」
「では行きますね」
カレンが杖を持ち魔法球を作り始める、付けられているリングが一斉に光り輝く。そして直ぐに黒く染まりひび割れ、床に落ちた。
「六回目も失敗っと」
「ちょっとロキ様。感想はいいですから黙ってみてないで手伝ってくれてもいいんじゃありません事ですの」
「あのーナナリーさん。私はもう疲れたんですけど……」
何をしているのかと問えば、現在カレンの魔力を簡易封印するための実験であった。
三人を横目で見つつロキは一人考えていた事を思い返す。
ロキは、カレンが闇属性の魔法により暴走しないようするには、どうしたら良いか考えていた。
一度暴走したらどうなるか解からない、かといって前回はその暴走のお掛けで助かった。
パックラインは死んでしまったが、カレンの中の記憶では生きている事になっている。
何故そうなったのかは謎であるが、それで記憶が安定してるならと黙っておく事にした。
普通の魔法使いが使えない闇属性の魔法を使うのかを調べる為にカレンの故郷に行く事にしたのだ。
一方カレンには、そこまで詳しく話しておらず、環境が変わっても魔法を打てるように、そして旅をして魔法使いがどういう物かを教えるとしか今の所伝えていない。
カレンはロキに何かを言いたそうな顔をしていたが、直ぐに何時もの何も考えて無いような顔に戻った。
旅に出る前に立ち寄った魔法ギルドで、先日のカーメルの街を覆う巨大な濃霧、その原因を作ったのがロキとカレンと言うのをナナリーとミナトにばれたのだ。
カレンが現在どれ程の魔力があるのかと気になるナナリーに、ロキは簡単に試してみたら? とけしかけたのだ。
ナナリーとしても、ここでカレンの魔力を抑える事が出来るのなら別にロキとカレンが旅する事も無いし、仮に旅をするのにも保険にもなると思い実験し始めたのだ。
「カレンさんっ! 次は術印をしましょうっ」
「こらこらこら。永久に封じようとしない。カレンの魔力が封じられないのは、前もいったけどそうだろうなって思っていたし、術印でも難しいと思うよ。まっ、その辺も含めてコントロールするように訓練させるよ」
「そうは言いますけど」
「師匠……。流石に脱力感があります、所で師匠もこのリング効かないんですか?」
「ロキ様には効きませんわ」
「さすが師匠っ!」
カレンは小さく拍手すると、ロキは手を左右に振る。
「持ち上げるのは程々に、効かないといっても魔力は吸われるし、十個も二十個も耐えれるわけじゃない。それに僕が効かないのは裏技があってね解除用の魔法を知っている」
「はい?」
「だって、そのリングを付けたら一生取れなかったら困るだろ? 緊急用の解除魔法ってのが何個かあるんだ」
「何かずるいですっ! 師匠っ! 私にもそれを」
「見習いに教えられるわけ無いだろうに、君が本当の魔法使いになったらね、さて所で、ナナリー」
カレンとの会話を打ち切って、ナナリーに向き直る。
はいはいと、言うとナナリーはミナトに合図した。
「ミナト、あれを」
「はい。ロキ様。こちらになります」
ミナトは、小さな革袋を二つロキに手渡した。
金属同士がぶつかる音がするので中身は路銀とわかる。ロキはその革袋を左右別々の場所に付ける。
カレンが、哀れむような眼でロキを見ている。
「…………師匠、良かったら来ないだのギルドの給金。私まだ残って居るので使ってくださいっ」
カレンは腰につけている財布を外そうとしている。
「…………勘違いしてるようだけど、別に路銀をせびりに来たわけじゃない。たしかに貧乏だけど、これはれっきとした仕事だ」
「そうですわ、カレンさんも大丈夫ですのよ。これは仕事の前払いです」
「仕事?」
「ええ。少し遠回りなると思いますけど、王都リンドにある魔法ギルドに品物を運んで貰いたくて、ミナト」
「はい。そちらも用意は出来ています」
ミナトはカウンターの上に小振りの木箱を出した。
ずっしりとしているのが、カウンターに鈍い音を響かせる。
カレンがその木箱を眺める。木箱には木こりが背負うような両肩で背負える革布が付いていた。
ナナリーは、そのまま続けて喋りだす。
「中身は先日完全封印された遺跡の欠片が入っておりますわ」
「遺跡って、あの遺跡ですか……?」
「ええ。とても珍しい材質な鉱石なので王都のほうで使ってもらおうかと、中には手紙も入っております」
「重そうですね」
「鉱石だからね。カレン、君が背負うんだけど」
「えええええっ!」
驚くカレンに、ナナリーが理由を説明する。
「カレンさん。ロキ様を見てください、こんな重い木箱を背負える男性に見えますか?」
「たしかに」
二人で納得する空気に、ミナトが珍しく小さく吹きだす。
ロキは少し不機嫌になるも、カレンへ話す。
「納得されると腹も立つけど、実際僕じゃ背負えないしカレンなら背負えるぐらいの重さと思う。本来は専用の輸送業者を使うんだけど、こっちに仕事を回してもらったんだ」
「へえ。いわゆる裏取引って奴ですね」
カレンは実際に背負うと、屈伸運動などをし始める。
「若干違う気もするけど、そんな所」
「よいしょっと。ちょっと重いですけど背負え無い事は……。うん、無いと思いますっ」
「これと同じのが冒険者ギルドにもあるから、よろしく」
「えええ。ちょーっと、それ酷くありませんか……」
「あいにくと、僕には重すぎて背負えないからね」
本当は冒険者ギルドのはロキが背負う事になっている。
「もしかして、さっきの師匠には持てないって所で拗ねてます?」
「僕が、何時、拗ねたかな? さて、次は冒険者ギルドだ、カレン行くよ」
「あ、ちょっとっ! 師匠っ」
ロキはさっさと魔法ギルドを後にする。
カレンは振り返りナナリーを見た。ナナリーは小さく笑っており、お気をつけてと、話している。
ミナトも行ってらっしゃいと、喋るとカレンは慌てて魔法ギルドの扉に手を掛けた。
「カレンさんっ!」
「っ! ……はい?」
カレンは慌てて立ち止まる。
「楽しい事も、辛い事もあると思います。でも、全部まとめて最後には少し良かった、それがわたくしの幸せですわ。呼び止めてごめんなさいね、また笑顔で会いましょう」
「はあ……、あっ、お土産買って来ますっ! じゃ、行ってきますーっ」
カレン達が居なくなり静かになる魔法ギルド内。
ミナトが何か言いたげな顔をしていた。
「はいはい。娘に心配されるほど弱っては居ませんわ。わたくしの幸せもそうですけど、ミナト、貴方の幸せはどうなんですの? 噂、聞きましてよ。最近魔法ギルドの看板娘が気に言った冒険者が街に来たと」
ニヤニヤと笑うナナリーに、珍しく慌てるミナトの顔がそこにはあった。




