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58 急成長と暴走不安

 カーメルにあるロキの屋敷に戻って数日、眠り姫だったカレンが目覚めてから既に七日が立っていた。

 二人の人間が中庭に立っている、一人はロキ、疲れた顔をしながらも体を左右に動かし体操をしている。

 もう一人はカレン。魔法使いの杖を嬉しそうに構えている。



「師匠っ! 今日こそは魔法の練習ですよねっ! って、そんな露骨に嫌な顔しなくても……」

「ああ。ごめん。嫌なわけじゃないんだ、嫌なわけじゃ。ただ、ほら。こないだも言ったけど僕はあの戦いで一度魔力を使い切ったわけで――」



 最後まで言い切る前にロキは一つ頷いた。



「いや、そうだね。僕もある程度は力も戻ってきている。それじゃカレン、魔法球を」

「はーい」

「あ、その前に、カレン」

「はい?」

「君は魔法使い本当になりたいのか」

「別にっ!」



 即答する答えに、ロキは転びそうになる。

 直ぐにカレンが体を押さえに近くによると、師匠は歳なんですからと、体を支え始める。



「君の答えに、がっくり来てるんだよ」

「えーっとですね。前にも言ったんですけど、私が魔法使いに憧れたのは剣だけじゃ倒せない魔物を倒した魔法使いに憧れてですね、ママからも普通な冒険者になるよりは貴方は魔力があるんだし魔法の力を覚えなさいといわれ、私自身も魔法の力のほうが、人の役に立てると思ってますし、そのためにちゃっちゃっと強くなって世界を面白おかしく旅したいなぁーと……、師匠の所でダメだったら別の道でも」

「そうか、そうだよね。今時の若い子はそんな簡単な理由なんだよね……」

「あれ。師匠落ち込んでません?」



 ロキは咳払いをして、カレンから離れる。

 二人の距離は十歩ほど。



「わかった、取り合えず訓練をしようか。カレンの魔法使いとしての道を無闇に閉ざすのは違うと僕は思っている」

「はぁ、何時になく真面目なんですね」

「僕は何時だって真面目だよ。そう、一つ話しをしよう。魔法使いに成れなかった魔法使い崩れ、もしくは魔法使いなのに魔法に溺れた人間はどうなると思う?」



 ロキが声色を落としカレンへと尋ねる。

 カレンの顔が少し緊張しながら口を開く。



「ど、どうなるんですか?」

「魔力の永久封印。それでもダメな場合は死だ。もちろんそれは中途半端に魔力を開花させた君にも当てはまる、さて、杖を構えて魔法球を」

「は、はいっ!」



 カレンは慌てて杖を構え始めた。

 もっとも、必ずしもそうではないし、仮にカレンが中途半端な魔法使いになればその責任はロキにも当然及ぶ。その事は知らせては居ない。

 忠告を聞いてカレンは真面目な顔で杖を正眼に構える。

 瞳を閉じたかと思うと、再び開けた。



 杖の前に黒い魔法球が現れる。

 どうです! とドヤ顔のカレンがロキを見ていた。



「はいはい。じゃぁ次はその魔法球に火を重ねて」

「師匠ー。私、火の魔法打てないんですけど」

「今なら出来ると思うよ。何時までも魔法球を集めるだけじゃ意味がない」

「あの、出来なくても文句言わないでくださいね」



 ロキの合図でカレンが気合を入れる。

 その瞬間空間に火花が散った。

 ロキとカレンの間。その間十数歩の間に黒炎の火柱が現れる。

 木々の動物達は一斉に逃げ、火柱は空高く伸びている。



「あわわわわわっ。し、師匠っ!」

「カレン、直ぐに魔法を消してっ!」

「消してっても、消し方が」



 ロキは慌てて氷柱を出す。ロキがもっとも得意な氷系魔法。

 黒炎の火柱を包み込むように下から上へと凍らせると火柱の魔力が高くロキの氷を相殺していった。

 無理やり消そうとしたため氷が蒸発し辺りは濃霧に包まれる。

 僅か数歩先の人物も特定出来ない。

 


「無事か、カレンっ!」

「は、はい……なんとか」

「ふぅ……。体は? 疲れた感じや、喪失感。他に異常があれば伝えて欲しい」



 急激な魔力の消耗、普通なら体の変調がある。

 濃霧の先からカレンの声だけが聞こえてくる。



「大丈夫……です。えーっと、ご、ごめんなさい」

「ん?」

「こんなに大きな火柱を作るつもりじゃ……」

「ああ。それはこっちが謝る、最初に小さな火をイメージして貰えばよかった」

「で、でもっ! 今の火柱って私の魔法ですよねっ! 私一人で魔法を使ったんですよねっ!」



 少し興奮気味のカレンの声。

 ロキはそうだよ、と答えると、姿は見えないが魔法を打て喜んでいる声が聞こえる。



「あれですか。師匠と一緒の物を食べていたとか、私の才能が開花したとかっ! あっ、どうしよう……」



 余りに心配そうな声を出すのでロキは声をかける。



「何?」

「いえ、師匠を追いこしたらと思いまして」

「君ねぇ」



 実際、既にロキじゃ抑えきれないほどの魔力を持ったカレン。

 それでも師匠として、大魔法使いといわれたプライドがロキの言葉を強くさせる。



「魔法をコントロールするのも出来ないのに大きな事を言わない」

「はーい……」



 濃霧が晴れないまま、ロキは手探りで歩き出す。

 霧の向こうから大きな光が見えたと思うとナナリーの叫び声が聞こえる。



「ロキ様ー。カレンさーんー」

「あ、ナナリーさんの声」



 ロキは手の平に小さな火の玉を出すと、光と声で位置を教える。

 直ぐにナナリーが中庭へと入ってきた。



「ああ、よかったですわ。街に突然の濃霧が出まして。冒険者ギルド、警備隊。魔法ギルドとお祭り騒ぎですわ」

「へ、へえ」

「まったくロキ様は他人事なんですから、泥棒や火事、あと大きな犯罪にならないように回っている最中ですわ。所でこの場所のほうが霧濃くありません?」

「気のせいだよ。遠い所確認わるかったね、この霧じゃ練習もできないし中で一息ついていくかい?」

「あら、ロキ様からお誘いなんて珍しいですわね、では一杯だけ」

「カレン。カレンもそれでいいかな?」

「あっ、そ、そうですね」



 三人で濃霧の中屋敷へと入った。

 直ぐに濡れた衣服を取り替え食堂へと集まった。

 テーブルの上には温かいお茶が二つとロキ専用の飲み物が置いてある。



「はー。生き返りますわね」

「年寄りみたいだな」

「はいはいはい、どうせわたくしは、歳くったエルフですわよっ。だからロキ様見向きもしなんですねっ」

「別にそんな事は一つも」

「では、早速ベッドで証明を……」

「えーっと、私っ! 買出し行って来ますっ!」



 カレンが慌てて部屋から出ようとするのをロキは呼び止める。



「何時もの冗談だから、それに、この霧の中外に出るのは危ない」

「で、でも。じゃぁ自室で休憩で――」

「そうですわ。カレンさんも入れて三人で楽しめば」

「怒るよ?」



 ロキの溜息を見てはナナリーは嬉しそうな顔をする。



「あら、ロキ様そう不機嫌な顔をしなくても、男の夢なんじゃありません?」

「僕はそうでもない」

「やっぱり、過去に振られた事が――」

「ええっ! 師匠振られた事あるんですかっ! だから独身なんですっ!?」



 この話に食いついたのはカレンである。

 先ほどまで部屋を出ようとしていたのにテーブルに戻ってきた。



「ナナリーも変な事言わないでほしい」

「でもー」

「でもじゃない。あっ、それとナナリーっ! やっぱり旅に出ようと思う」

「えっ、師匠またナナリーさんとどこかいくんですか? じゃぁ私は留守番っていう事です?」

「いいや。今回は僕とカレン。二人になるだろう。行き先は君の故郷エルダー」

「はいいいっ?」 

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