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55 緊張感が薄い彼女

 ペチペチと何かを叩く音カレンの耳に届く。それと同時に、頬に痛みが走り目が覚めた。

 カレンが眼を開けると、パックラインが大きく手を上げていた。

 一気に脳が覚醒すると、飛んでくる平手打ちをかわそうと動く。

 カレンの両手がパックラインの腕をギリギリの所で止めた。 



「何をするんですかっ!?」

「起きたか」

「ええ、そりゃ、ばんばんばんばん叩かれていたら起きま……す……?」

 


 カレンは途中で言葉を止めて周りを見た。

 大量の土やレンガなどが無造作に散らばっており、天井を見上げると張るか高い場所に小さくなった空が見えた。

 顔を戻すと、パックラインの顔を見る。



「落ちた場所?」

「そうだ」



 パックラインは溜息交じりにカレンへと説明する。

 穴の深さはかなり深く登る事は出来ない。今居る場所は危険な場所なのかは判断がつかず、知っているのは封印されている場所という事。



「少なくとも俺はこの迷宮の出口を知らない」

「…………随分と冷静なんですね」

「嘘を言ってもしょうがない、それよりも人間、お前のほうが落ち着いているな」

「私? めちゃくちゃ慌ててますけど! どうやって帰ろうかとか、晩御飯どうしようとか」

「ふっ。やはりお前は、普通の人間とは違うのだな」

「やっぱりってのは気に触るんですけどー」



 カレンの答えに、パックラインは口元を緩ませた。

 


「さて、状況が状況だ。手持ちの物を確認したい」

「あ、はい。えーっとですね、私の持ち物は杖に――」



 カレンはカバンから持ち物を出す。

 背負っていた魔法使いの杖、昼に食べる為に作ってもらった弁当に、綺麗とは言わないが清潔感がある布などを取り出した。

 一方パックラインも似たような物で、薬草に短剣、ロープや油などである。



「ろくな物じゃないな……」



 とてもじゃないか、得体の知れない迷宮に挑むような装備ではない。

 最低限の持ち物だ。



「日帰りクエストですし。パックラインさんの魔法のムチで何とか登るとか……」

「出来るなら既にやっている」

「そ、そうですよね」

「俺の魔法で届く範囲は精々あの辺だ」



 カレンの目の前で、カレンよりちょっと先。歩数にして二十歩ほどの場所まで魔法のムチを飛ばして見せた。

 カレンは天井の穴を見上げる。あそこまで届くには今の五倍以上はないと無理なのを確認した。



「助けが来るまで待ちますか?」

「馬鹿兄と妹だな。このまま時間が過ぎれば一度は様子見に来るだろう、夜、いや数日中に救出に来る可能性は七割って所だ」

「じゃっ待ちましょうか、下手に動くよりは良いと思いますし」



 カレンが言い切ったその時、暗闇から何かの声が聞こえた。

 二人とも声のするほうを見た瞬間、ソレは襲ってきた。



「人っ!? 違う魔物っ!?」

「ちっ! ゾンビの群れだっ」



 カレンが一瞬人間に見えた魔物。

 ボロボロの衣服を着ているが、その体は腐敗しており骨が剥き出しになっている。

 顔も半分以上が崩れており、その眼球があった場所は今は闇しか映していない。 


 ゾンビ。

 スケルトンと似てはいるが、こちらは肉付きである。特徴的なのは自らの仲間を増やそうとするのか生きてる者に襲いかかる魔物。

 定説ではゾンビに食われると食われた人間もゾンビになると言われている。

 パックラインは直ぐに魔法のムチを出すと、ゾンビの手足を弾き飛ばしていく。

 カレンも魔法使いの杖を棍棒代わりにし、おぼつかないが、その体を破壊していった。

 一体二体と倒していく二人。

 倒しても数が減らず増えていく。

 自然とカレンとパックラインはお互いの背中を守るように動いていた。

 パックラインが襲ってくる数体を一度に薙ぎ払いカレンへと声を掛ける。

 


「おいっ!」

「はいっ!?」

「先ほどから魔法を打たないが何故だ」

「あれ? 言ってませんでしたっけ? 私っ!」



 襲ってくるグールの頭を杖で吹き飛ばすと続きを喋る。



「黒の魔法球しか作れないんですっ!」

「なんだと……。ちっ使えない奴め」

「うわっ。ひっどい、言い方っ」

「事実を言ったまでだ」

「だから、私もパックさんの魔法のコツをっ教えてっ! 欲しいんですけどっ! 所でっ!」



 カレンの息が少し上がり始めている。パックラインの顔も疲労が浮かんできた。

 再び背中合わせになるとグールをけん制する二人。



「わかってる。きりが無いな」

「ですよね」

「仕方が無い、俺が道を切り開く、この場所を移動するぞ」

「わかりましたっ!」



 パックラインは大きく息を吸い込むと両手を振るう。

 先ほどより太い魔法のムチが群れを一斉に弾いた、直ぐに走るとカレンもその後ろに付いて荷物を持って走り出す。

 二人の背後ではゾンビ達が再び立ち上がり回りに獲物が居ないかを確かめ始めていた。


 暫く走る二人。

 迷宮内は細い通路と、少しだけ開けた部屋が交互になった作りになっていた。

 いくつかの分岐を抜け比較的安全そうな場所まで走るとパックラインは立ち止まる。

 その背後にカレンがぶつかりそうになり、慌てて足を止めた。

 天井からは魔法の照明で部屋全体が青白く光、壁には小さな噴水が流れている。

 


 

「止まるなら一言言ってからですね。――。あれ。空気が違う?」

「結界か?」

「結界って、魔物が入ってこないようにですよね」

「ああ。恐らく何かの休憩所だったのだろう、端に道具も散乱してる」



 パックラインは部屋の隅に置かれている古道具を物色しはじめる。

 使い込まれた砂時計など冒険の道具に手製の食器や、乾し肉などが残っていた。

 カレンは手頃な場所に座ると近くにあった材料で火を起す。

 二人とも出入り口付近を気にしながらも腰を下ろした。

 焚火の音だけが室内に響き二人とも黙っている。



「…………」

「…………」

「ああああああっ!」

「な、なんだっ!」



 カレンが突然大声を上げたので、驚くパックライン。

 カレンは申し訳無さそうに小さく呟いた。



「私があの時、パックさんの側に行かないで上に残っていたらと思いまして……、そしたら上からロープなど」

「なるほどな。気にするな、助けに来てくれた事に感謝する、非難する気は無い。あの時点で底がどうなっているか解からないんだ」

「ど、どうも……」

「それよりもだ」

「はい。今後ですよね」

「ああ」



 地下に落とされてからいくつかの分岐を曲がり来た場所だ。

 室内は安全とは言え、助けを待ってもこの部屋まで来る保障は限りなく低い。

 いくら水があるといっても、残されている食料なども考えても長いは出来ない。

 余禄があるうちに、地上を目指すか、最後の最後までこの場所にいるかの選択になる。

 カレンは焚火で作った温かいお茶を飲むとパックラインに確認する。



「と、いう事はこのダンジョンを攻略するしかないですよね」

「そうなるな。砂時計をセットする。何かあったら起こせ」

「あっ、ちょっと」



 パックラインは直ぐに体を丸め横を向く、カレンからはその表情は死角となっている。

 カレンは溜息を付くと、砂時計をセットして火の番をし始めた。

 

 カレン達が特殊な薬草を採りに行ってから日が暮れた。

 魔法ギルド内では二人の帰りを心配するエルフが二人。

 筋肉とは程遠い細身のエルフのマクインのと、スレンダーで銀髪の美しいエルフのメルライン。

 二人が予定時刻よりも帰って来ない事に顔を曇らせる。

 何時もの営業を負え事務所で帰りを待ちながら話始めた。



「お泊りかしら?」

「メルじゃないんだから、それはないだろうに」

「ちょっと、マクだって泊まり多いじゃないの」

「僕のは仕事、君のは趣味だろ」

「こっちも仕事よ! でも、草の採取にしては遅くない?」

「ああ、遅い。もうすぐ門が閉まる時間だ、パックだって子供じゃないんだ――外泊の一回や二回、と言いたい所だけど、場所が場所だ一応見に行こう」

「そうね、私もいくわ」



 二人は近くに掛けてあるローブを掴むと素早く腕を通した。

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