53 魔法使いとしての理
カレンが隣街で仕事をしている時、眼鏡をかけたロキは屋敷で魔法書を読んでいた。
一冊の本を読み終えると、淡々と読んだ本を左に寄せる。
机の左側にはこれまで読んだ本が山積みにされていた。
部屋の扉がノックされると、ロキの返事も聞かずに扉が開かれる。
トレイに温かいミルクティー二つ用意したナナリーが部屋へと入ってきた。
「ロキ様、あまり根を詰めると体に悪いですわよ。もう朝ですし、温かいミルクティーを入れてきましたのでこの辺で休憩にしましょう」
「もうそんな時間か、ありがとう。ミナトは?」
「ミナトはギルドの仕事がありますので先ほど帰りましたわ」
「二人ともありがとう」
「別に今更ですわ。好きでやってるのでお構いなく」
カーテンの隙間から光が差し込み部屋の中が少しだけ明るくなって来ていた。
ナナリーが積まれた本のタイトルをちらりと見る。
魔法の属性に付いての本、呪われた魔法、禁術、魔法使いの絵本などもあった。
ロキがミルクティーを飲み、温かいなと呟くと、ナナリーは近くの椅子へと座っていた。
「ロキ様、カレンさんの魔法の事で、他に何かわかりました?」
「属性が黒、いや闇かな」
「残念な事にそうですわね」
「あれは人が使っていい魔法の部類ではないかな」
「本人は魔法が使えて嬉しそうでしたけど」
テーブルへとカップを置くと、カレンの嬉しそうな顔を思い出したのか小さく笑う。
ロキも同じ考えに至ったのだろう、ナナリーの顔を見て、そうだねとと返事をした。
「僕ら人間が使う魔法なんてたがか知れてる。体内の魔力が足りなければ周りから、いや世界から借りる。僕が使う魔法だって、同じ」
「私達エルフもそうですわね、精霊界から力を借りますわ」
「だが、彼女。カレンの力はちょっと違う。彼女の魔法は、周りの力を使いすぎる」
「ロキ様の魔力も吸われましたものね」
ナナリーは過去の訓練を思い出し喋る。
「周りの魔力が無くなるとどうなると思う?」
「ロキ様。それは、魔法が止まるんじゃ無いんですか? 精霊だって魔力が無くなれば帰りますわよ」
ロキは静かに首を振る。
「それで止まるのが普通の魔法使い。でも調べれば調べるほどアレは違う。本人の意思、いや意思で止まれば良い方か、止まらない場合は他から魔力を補おうとする。最悪は……」
「死ですか」
「そ。周りの者を殺すか、自身が死ぬか」
誰にいう事でもなく呟くと再び溜息を付いた。
「でも、カレンさんに限っては今まで自分の意思で魔法を止めてましたわよね?」
「今の所はね」
「今までそういう魔法使いはどうして来たんです?」
「調べた結果、自ら魔法を封印したか魔法使いを辞めているか、力に飲まれて死ぬか――」
「殺された……ですか?」
ナナリーはロキの言葉が終る前に発言した。
その言葉にロキは黙って頷く。
力が強い者ほど人から羨ましがれる。しかし、それは他人から恐れられているとも同じなのだ。
魔法使いはその典型的な職業だ。
大きな力を使う以上周りからも恐れられる。力があり、尚且つ危険と判断された人間は国によって殺される事もしばしあるのである。
ロキがなんだかんだで表舞台に出ないのはそういう事も多少はあった。
隠居してからも国やギルドに不満を持つ者が何人もロキを尋ねて来たか、ロキは一度もそれに乗った事はないし、別の国に移住する事もない。
「で、一度カレンの実家に言って見ようかと思ってる」
「えっ!」
実家に行くその言葉にナナリーが驚くと、逆に驚くロキ。
「何っ?」
「いえ、あのー。ロキ様は彼女の実家が何所にあるのか知ってますの?」
「エルダーだったような……。過去に暴走があったのか、彼女を魔法使いとさせたい意味など、その理由がわかればまた別の道もあるだろうし」
ロキは詰んである本を眺めながら言葉を選ぶ。
一冊を手に取りナナリーへと手渡した。
パラパラとページをめくると、魔法使いが以下に危険で人々を困らせてきた話が書いている。その中でもシオリが挟んでいる場所を開くと、一人の魔法使いが自らの魔法で国を滅ぼし消えて行った話が載っていた。
「場合によっては魔法使いへの道は閉ざすんですか?」
「いくら国からの依頼としても、限度がある。場合によってはそれも考えてる」
「カレンさん、悲しみますわね……」
ナナリーの言葉にロキは口を開かない。
「私はロキ様の決断を信じますわ。例え世界中から非難されようと。今私が生きているのはロキ様おかげです」
「そりゃどうも……」
ナナリーは案にロキがカレンを見捨てようと、いや。たとえカレンを守るために国に楯突いたとしても最後まで味方をすると返事を出した。
その意味を悟ってロキは再び溜息を付く。
「あら。こんな可愛い美少女エルフに慕われているのに溜息ですか」
「……悪かったよ」
「では、お詫びに」
ナナリーは、衣服を丁寧に脱いでいく。
薄い肌着一枚になるとベッドへと腰掛けて、お詫びの印。即ち体が欲しいと言って要るのだ。
「あいにくと僕は今そんな気分じゃないよ」
「では、どんな気分なんです?」
「取り合えず……」
「取りあえずなんでしょうか?」
ロキは椅子から立ち上がると、ナナリーの横を通り過ぎる。
ベッドへと近付くとそのまま布団へどダイブした。
「寝る」
「あ、ちょっとロキ様っ!」
ロキは耳元でナナリーの愚痴を聞きながらゆっくりと体を休めることにした。




