51 新しい依頼
カレンの目線の先には一枚の紙が置いてあった。
テーブルの上にある魔法ギルドの仕事依頼書である。
仕事内容は採取となっており、期間は二日、金額の部分は四十ゴールド。
冒険者ギルドでの薬草の採取がカゴいっぱいに入れて二ゴールドなのを比べると破格の値段である。
「初めて見ました……」
「うんうん。ウチら魔法ギルド、いやエルフは人間から頼まれる事あっても、頼む事はめったに、ないからねー」
冒険者ギルドと魔法ギルドは似ているようで違う所がただ多い。
冒険者ギルドは仕事を募集し他の冒険者へ回す所、魔法ギルドは魔道具を売りに出す所で仕事は殆ど身内で行なう。
ゆえに魔法ギルドから仕事を頼まれる事は、冒険者によっては一種のステータスみたいな事でもあった。
「えーっと……。お断りさせて頂きます」
カレンは言葉を選びながら、頭を下げる。
カレンとしては、ここで無駄な日数を使うより、一度ロキの所へ帰って修行を再開させたいからだ。
笑顔だったメルラインの顔が驚きに変わる。
「なんでっ! 魔法ギルドの仕事を断る人間なんて、三十年に一人ぐらいよ! もしかして金額が少ないとか思ってない!?」
「金額は全然多いですっ」
「だったら、即頷くのが普通でしょうにっ! あっ、わかった。ナナリーさんの知り合いだからってお高く止まってるのね、これじゃ手紙書いていた、カレンちゃんの師匠ってのも性格悪いんだろうでしょうね」
メルラインに、ロキの事を貶されてカレンの表情が変わった。
先ほどまで申し訳ない顔をしていたはずなのに、眉がつり上がりテーブルに両手を叩きつける。
「あのですねっ! わ、た、しは変に言われてもいいですけど、師匠の事はまで悪く言うのはおかしいんじゃないですかっ!」
「でも、絶好の依頼を断るのんでしょっ?」
「それは、私が悪いんですけど……、でもっもう帰ろうと思っていた所に依頼が来れば誰でも断りますっ!」
「なら、丁度いいじゃない。このお金だって送金されたお金でしょ? 自分で稼いだほうが迷惑かけなくてすむでしょ、それとも冒険者なのに、お金はただで貰うき?」
「別に迷惑をかけたとか、貰うとか……」
強気のカレンの勢いが止まる。
口元を指を当てながらメルラインは喋りだす。
「だって、手紙には教会への寄付と貴方へ受け渡すお金。どっちもそこそこの金額よね~。冒険者カードを見せてもらったけどランクE、とてもじゃないけどこんな大金を……。あっごめーん。よくよく考えればウチの魔法ギルドには関係話だったね」
メルラインはお金の入ったか革袋を二つカレンのほうに差し出すと続きを話すべく口を開いた。
「でも、ナナリーさんも甘いわねぇ。こんな何も出来ない子を溺愛しちゃって、一ゴールドの特にもならないし、えっ。カレンちゃんどうしたの? 怖い顔して、ううん。一人事だから気にしないで。……この手紙に書いてる師匠って人も怪しいわねぇ、何を教えたらこんな役に立たないような子を育てるのかしら、あっ、師匠本人が役に立たないからか。あらカレンちゃん。もう帰ってもいいのよ?」
余りにも馬鹿にされて、カレンは革袋の横にある書類に羽ペンで名前を書いた。
力強くかいたので名前が少し曲がっている。
「わかりましたっ! これで良いんですよねっ!」
テーブルの上に書類を叩きつけるとメルラインを睨む。
「やだー。カレンちゃん、何怒ってるの?」
「当たり前ですっ!」
「何で怒っているかウチにはさっぱり」
「あのですね……」
「あと、カレンちゃん」
「なんでしょうかっ!」
いまだ怒りが収まらないカレンに、メルラインは口元を押さえて小さく笑う。
「いや、あのね。安い挑発に乗ったら損よ?」
「はっ……?」
「ナナリーさんの手紙に素直な子って書いていたらちょっとからかっただけよっ。よっぽど師匠って人が好きなのね」
「えっえっえっ!」
カレンの顔が見る見る赤くなると、事務所の中をキョロキョロと見回す。
一周してやっとメルクラインの顔に視線を戻した。
「いや、その。好きとか嫌いとかじゃなくてですね、私の魔法の師匠ですし、そのあんまり日を開けると修行も出来ないですし、そう! 魔法使いになって適当に――」
「じゃ、仕事の話しよっか。別に難しい事は頼まないわよ」
「あ、そこは本気なんですね……」
「もちのろんよ」
カレンの話を遮って説明し始める。
先ほどの顔とは変り、地図を出して広げて見せた。
近隣の地図であり、街から少し離れた場所にバツ印が付いてあった。
「ここに、生えてる薬草ですか?」
「生えているというか。入り口、古い遺跡なんだけど結界が貼ってあって普通の人が入れないから。この許可書で封印を解くの。で、中に入って薬草を取ってくるだけ」
「まぁ、それぐらいなら……。でもどうして私なんです? 他の従業員さんに頼むとか自分で行くとか……」
メルラインの顔から表情が消えて真顔になる。
「面倒」
「はい?」
「だから、面倒なのよ……。普段は弟のパックに頼んでいるんだけど、魔力的には申し分ないんだけど。観賞用もあるから女性からみて綺麗なのを欲しいのよ」
メルクラインが喋り終わると、部屋の扉が開く。
パックラインが不機嫌な顔で二人を見回した。
「悪かったな。それなら自分で行けばいい、そもそも、採取の仕事はメルの仕事だ」
「あら乙女の話を聞き耳たてるなんて、マナー悪いわよ、何しに来たのよ」
「アレだけ大きな声で叫べば廊下まで聞こえる……。休憩時間だ……」
パックラインはフンと鼻を鳴らすと、そのまま部屋に入ってくる。
「じゃ、二人でお願い。私は明日はデートだからっ。これも立派な仕事よ」
入れ違いにメルラインは手をひらひらとさせて事務所から出て行った。
パックラインは溜息を吐くとカレンの顔をみる。
「俺一人で十分だ……、帰りは裏口を使うといい廊下に出て直ぐ右にある」
一方的に伝えると、近くの棚から小瓶を出して、そのまま飲み干す。
飲み終わった所でカレンが声をかけた。
「あのっ!」
「なんだ?」
「私も行きます。過程はどうあれ依頼を受けたわけですし……」
「…………」
「いい……ですよね?」
「明朝の四時に出る、店の前に居ろ。居なかったら俺一人で行く」
休憩が終ったのか、直ぐに廊下に出て行ったパックライン。
一人になった事務所でカレンはあっけにとられたまま、その扉を見つめていた。
 




