50 お金を貰いにギルドへ行こう
カーテンで仕切られた薄暗い個室にカレンと先ほど殴られた男性エルフは座っていた。
大きめのソファーに座るカレン。対するエルフと間には小さなテーブルがあり、二人の前には青色の飲み物が置いてあった。
エルフのほうは先ほどと同じく腰巻一枚の半裸であり、殴られた場所を白い布で冷やしている。
「ささ、冷たいうちに飲んで飲んでっ」
「えーっと、頼んでないんですけど……。それに本当に、『ここが』魔法ギルドなんですよね?」
「そうだよ? 自己紹介がまだっただね。ボクは魔法ギルド店主のマクイン。まーくんって呼んで、愛しい君よ。飲み物はサービス、サービス」
マクインは歯の浮く台詞を言うと、その白い歯を見せつける。
「い、愛しいってっ! 会ったばっかりなんですけどっ」
「時間は要らないさ、この店に来る人は男女とわず愛に飢えているからね」
「一応聞きますけど、会う人全員に言うんですよね?」
「もちろん、あ。食べ物は別料金になるけど思う存分頼んでいって」
断言するマクインにカレンは溜息をついて、手紙と冒険者カードをテーブルに乗せた。
「わかりました、マクインさん。これ魔法ギルド協会に出す紙と私のギルドカードです。私は別に飲食をしに来たわけじゃないですし」
「…………」
「…………」
敬語で、なおかつツンとした顔で喋るカレンに、カードを確認したマクインはハニカム笑顔で喋りだす。
「つれないなぁ、カレンちゃん。ボクと君との間じゃないか」
「さっき会ったばっかりですし、全裸で、行き成り人を抱き寄せる人と仲良くもしたくありません」
「それについては謝ったじゃないか、それに僕ら店員は全裸じゃなくて半裸で接客する店だって。ほらちゃんと隠しているだろ?」
マクインは腰巻をちらっとめくり出す。
カレンは慌てて横を向いて、腰巻で隠れている場所を見ないようにする。
赤面したカレンをみて、ハニカム笑顔でマクインは何度も腰巻をぴらぴらとさせた。
「うぐっ!」
突然テーブルの上に前のめりに倒れるマクイン。
テーブルの下ではカレンがマクインの急所目掛けて蹴りを放っていた。
「うう。靴越しの感触が、最悪……」
「ナ、ナイスキック」
カーテンが突然開けられる、カレンは思わず体をびくっとさせると、振り向く。
耳が長くエルフとわかるが、カレンが今まで見た細身のエルフと違い、筋肉で巨漢な男性エルフがトレイを持っていた、こちらは半裸ではなくエリが付いた白いポロシャツに黒いズボン。
短い黒髪で、細い目をさらに細くした顔で、一口も飲んでいない飲み物を無言で取り替えていく。
「あ、あの、まだ飲んでませんけどっ!」
「…………、サービスの一つだ。気にするな」
再びカーテンが閉められると、何時の間にか回復したマクインが、笑顔で喋る。
「驚いたかい? 弟のパックルインだ。エルフなのに精霊召還魔法が使えなくてねー、でも、パックスにはボクらにはない力があってあの体で荒事を解決してくれる、それにああ見えて店の売り上げのナンバー2位だ」
「へぇ……凄いんですね」
「だろ? 里がドラゴンに襲われた時にも、アイツは頑張った!」
「ど、どらごんですかっ!」
ドラゴンと聞いてカレンが食いついた。
太古から居る超大型の魔物。
あるドラゴンは人々を守護しその国を護った。
あるドラゴンは人々を嫌悪しその国を滅ぼした。
あるドラゴンは人々と関わりたくなくひっそりと姿を消した。
「次々に仲間がやられていく中、アイツは魔物に走った。相手は凶暴なドラゴンだ、もっとも神祖ではなく、亜種のワイバーン」
「それでも怖いですね」
ワイバーンの討伐は冒険者ギルドでも危険度がAクラスの物である、むしろギルドが動くのは緊急を要する時だけであり、殆どは国が動く。
「だろ? そこでアイツは……っと、そうだそうだ手紙だったね。えーっと、ああ。やっぱりあのカレンちゃんで合ってるのか」
露骨に話題を切り替えるマクイン。名前を呼ばれてカレンも変な顔をしてマクインを見つめるが、お金の事もあるので黙っている。
一通り手紙と書類を見た後に、ちょっとまっててねと席を外した。
直ぐに別の女性エルフを連れて戻ってきた。
姉御というのが似合う顔つきで、髪の色はマクインと同じ金髪だった。
驚く事にカレンと同じぐらいの背であるのだが、カレンは別の事に驚いた。
ブラを付けていないシャツにホットパンツという長身の女性エルフ、そうブラを付けてない事が直ぐにわかるような薄い服なのだ。
「はいはーい、あらあら、お客さん、もしかして男性より女性が好きだったりする? マクインとチェンジよね」
「違う違う、普通の客、あのナナリーの知り合い。金庫から金を出してほしい、愛しいカレンちゃん、こっちは妹のメルライン」
「あら、この子だったの。紹介あったけどコレの妹のメルラインよっ。うん。貴方だったらこっちの客でもいいかも、興味があったらよろしくっ。じゃ兄貴、手紙見せて」
「ほれ。こっちはギルドカード」
「はいはい、ふむふむ……。うん、間違いない見たいね」
メルラインは手紙を読み終えた後、カレンを見つめて手招きをする。
「じゃ、兄貴。アタシ連れていくけど」
「了解ー、じゃボクは部屋を掃除して次の子猫ちゃんを呼んで来ようかな」
廊下にでるカレンとメルライン。他のカーテンで仕切られた個室からは一切の物音がせずカレンが小さく聞いてみる。
「静かですね」
「そりゃね。防音の魔法かけてるし」
「ええっ! えーっと……、中で何か危険な事があったら危なくないですか?」
カレンは言葉を選んで喋った。
本当は中で何か変な事するんですか? と、聞きたい所であるが、それを抑えた。
メルラインはニヤニヤとカレンの耳に息を吹きかける。
「ひゃっ!」
「あははは、ごめんごめん。中にいる店員が外に合図出きる仕組みがあるのさ、危険はもちろん、本当に入って欲しくない時はカーテン空かないからね」
「へぇ……」
深くは聞かない事に決めたカレンは、メルクラインの後について行く。
メルクラインは幾つかの扉を抜けると、カレンを部屋へと招きいれた。
先ほどの所と違い、明るい部屋になっている。木製の棚には食器が綺麗に並べられ、ガラスのテーブルに、大型のソファーが置かれていた。
壁にはジャケットや帽子などがあり、メルクラインは薄手のベストを服の上から軽く着こなした。
カレンのほうに振り返ると、にこやかに笑う。
「はい、これでいいでしょ。さっきから胸見すぎだって。適当に座ってー」
「別に、見てませんしっ! そんなことナイデスヨ」
「そっ? じゃぁ暑いしぬごっかなー」
「いえ! 着て下さいっ!」
「あははは、はいはい。でも凄いわねー、あのナナリーさんが、仕事の謝礼を手続きをするのに手紙を寄越すってよっぽとの事よ」
「そうなんですか?」
「そうよ、自由奔放で、人間の男を追っかけて全部放り投げて里を抜けるような人よ」
メルクラインは喋りながらも棚から皮袋を二つ取り出した。
二つともカレンの前に差し出すとギルドカードをカレンへと返した。
「数日前に、こっちにも手紙来ててねー、カレンという冒険者が来たらコレを渡しておいてくれって」
カレンがありがとうございますと、礼を言ってから皮袋を受け取ろうとしたら二つとも手前に引くメルクライン。
困惑した顔でメルクラインを視るカレン。
「でね。どうせだったら、うちの魔法ギルドでもちょーっと仕事しない?]
「はい?」




