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49 教会の暮らしから魔法ギルドへ

 カレンとルナが教会で暮らし始めて既に一週間。

 何度か帰りたいと言おうとしたが、言いそびれたまま過ごしていた。

 二人とも生活に慣れていき、ルナに至っては元がメイドのせいだろう細かい所に良く気付き回りのシスター達からも評判が良かった。


 カレンは一人で一度、マキシムの見舞いに行った。

 切り落とされた腕のあった場所の傷口は、綺麗に塞がっておりベッドの上で木の棒を素振りしていた。

 ベルファランの薦めで左腕を鍛えている所だった。

 数日振りに見たマキシムは影が落ちたようになった顔つきになっており、短いながらもカレンへ礼を言う。


 昼食後、カレンは中庭で子供達が遊んでいるのを黙ってみた。

 突然背後から肩を叩かれ、カレンは驚きの余り中庭へと体を滑らせ後ろを向いた。

 清ました顔のメリーが見下ろす形で立っている。



「カレンさん、お話が」

「メリーさんっ!」

「はい、メリーです。そんなに驚かれなくても」

「すみません。気配というか、突然だったのでびっくりして、えーと、何でしょうか?」

「いえ、何時まで居るのかと思いまして」

「はい?」



 メリーの質問に、カレンの時が止まった。

 正確には止まってないが、それほど衝撃的な言葉だった。



「はい?」

「ですから、カレンさんは何時まで教会に留まるのかと思いまして」

「ええええええっ! 帰ってもいいんですかっ!」

「一応マキシムさんの峠も越えたようなので、ですが教会に残るのであれば、お布施のほうを頂たく思いまして」



 いくら国から支援されている教会といえど貧乏には変わりない。

 食べるのに困った孤児や大人を無償で食べさせるのには限界がある、よって元気な人間からはお布施を回収してるのである。



「帰ります! っと、滞在費ですよね……。わっかりましたっ! とはいっても手持ちは無いんですが数日待ってください! 仮にも冒険者ですのでっ、ギルドで仕事すれば直ぐに」

「いえ、別にそこまでして頂かなくても帰るのなら……」

「大丈夫、大丈夫、帰る前にお世話になったお礼もありますしっ」

「はぁ……。それとロキさんからお手紙が届いて居ますので」

「えっ、本当ですかっ!」



 メリーは筒状の箱をカレンに手渡すと、それではと、一言いい離れていく。

 カレンは直ぐに封を切り中の手紙を確認した。

 手紙は二通入っており。ロキとナナリーそれぞれに別れていた。

 

 ロキからの手紙は短く。生活費が落ち着いた事、ルナとマキシムが今後自由になった事だけが書かれていた。


 一方ナナリーからの手紙はびっしりと書かれており、教会に手渡すお金。

 即ち、お布施分はこの町の魔法ギルドに送ってあるので受け取る事、半分は教会に、半分はルナ達に渡して欲しいと書いてある。

 さらに今回の依頼を達成した事でえられるお金。ルナとマキシムの護衛代は、冒険者ギルドに取りに行けば貰えるとまで書いてあった。

 

 カレンが手紙を読んでいると、お見舞いの終わったルナが中庭に戻ってきた。

 ルナはカレンの顔を見ると、その手に持っている物に気がついた。



「手紙ですか?」

「うん。師匠から、二人の事も書いてあったよ、なんか良くわからないけど全て丸く治めたって……」

「はぁ、治めた……ですか」



 呟くように喋るルナ、その表情は大きな喜びは無さそうだ。

 カレンはその理由を聞いてみた。 


「えーっと……、余り嬉しそうじゃないような?」

「あ、すみません。つい先週まで人生などどうでも良かったのですが、なぜ皆さんはお節介をするのかと思いまして、あっ、もちろん今となっては嬉しいですし感謝もしてます」



 カレンは腕を組んで唸り始める。

 そして顔を上げると微笑みながらルナに答えを出した。



「うーん……。わかんないっ!」

「あの、馬鹿にしてますか?」

「いやいやいや」



 カレンは否定した後に、少し暗い顔になり真面目な声を出した。

 普段のような大きな声ではなく、ルナにだけ聞かせる声である。



「わがままかな」

「わがままですか?」

「うん。師匠達は知らないけど、私がルナさんやマキシムさんを助けたのは、私のわがまま。ただ自分のしたいようにしただけ、だから感謝しなくても大丈夫、私が何かした結果で恨まれようと、それはしょうがないかなって思ってる」

「なるほど、では、私も自分のしたいようにカレンさんに勝手に感謝します」

「あのね……」



 ルナが喋ると、カレンは飽きれた声をだす。

 ルナの顔は微笑んでおり、最初に出会った頃と違い表情も優しくなっていた。

 思わずカレンも笑うと、二人で笑いあった。


 昼を告げる鐘がなると、カレンは一人教会を出る。

 指定された魔法ギルドと冒険者ギルド寄り、お金を貰う為だ。

 道はメリーに聞いてあるので迷いはしなかったが、カレンは立ち止まり驚く。



「えーっと、魔法ギルドは、この道よねって、何これっ!」



 魔法ギルドへの道に長蛇の列が出来ていた。

 殆どが女性で、年齢層は少女から老婆が殆どである。

 カレンは一番後ろにいる数少ない筋肉質の男性に声をかけた。



「すみません、この列って魔法ギルドですよね?」

「ん? そうだよ?」

「えっと、特売ですか?」



 ギルドで扱っているのは基本的に高い、特売ならこれだけ並ぶのも納得する。



「いいや?」

「じゃぁ、並んでいる意味が良くわからないんですけど……」

「なるほど、君はこの町は始めてかい?」

「はぁ。隣町のカーメルから来たんですけど……」

「じゃぁカードも持ってないね」



 筋肉質の男性はポケットからカードをカレンに見せた。

 番号が書かれており、偽造防止のために魔法ギルドの刻印が押されている。



「えええっ! 入るのにカードいるんですかっ!」

「当然。このカードだって三日も抽選してやっと……」



 興奮した男性を見て、カレンは一歩引き下がる。

 気付いた男性は、短く咳払いをしてカレンへ話を持ちかけた。



「どうだい、折角なら僕のカードを使えたまえ」

「いや、いらないです」



 新手のナンパかと思ったカレンは即座に断る。

 


「何も即答しなくても……」

「あ、ごめんなさいっ。でも、そんなに苦労して手に入れたカードを使ったらって意味で、私が貰ったらおじさんが入れないよね」

「そう思うだろ? このカードには秘密があって、カードを手に入れた人が他の人を誘うと優先的にランクアップして、僕の称号レベルが貰えるんだっ!」

「はぁ……。称号レベルってのが良くわからないけど。私が一緒に入るとおじさんにも特があるって事でいいのかな?」

「そう! だから、君の分は僕が出す、いやー楽しみだなー」



 カレンの返事を待たずに決定された事になる。

 おじさんはカードのランクの事を大きな声で説明しようとして、周りに五月蝿いと注意される。

 少ししょんぼりしたおじさんと、並ぶ事数十分。

 魔法ギルドが近付くと、やっと建物が見えてくる、高揚した顔で入るお客。

 出口と書かれた場所からも、ふらふらになった女性達、一部男性が満面の笑みで帰っていく。


 あやしい、そう呟くカレン。

 直ぐに前に並ぶ男性とカレンの番になった。

 入り口にはエルフの女性が立っており、男性のカードを確認する。



「やぁ、また来たよ。今日は後ろの新人さんと一緒なんだけど良いかな」



 おじさんが喋ると、エルフの女性は微笑みカレンへと挨拶する。



「いらっしゃいませ。体験入店ですね、ごゆっくりお楽しみください」

「あの、私は体験も何も、手紙を持ってきてですね」

「大丈夫ですよ、大事なファンレターも店内で渡せる仕組みになっております、ごゆっくり」

「ちょっと、あの……。そんなに押さないで欲しいんですけどっ」



 優しい笑みを浮かべた後、魔法ギルトの扉を開け中へ二人を案内した。

 二重扉になっており、背後の扉が先ほどのエルフによって閉じられる。

 先に入った男性が奥にある扉を開けると……。

 室内は昼間だというのに全体的に暗い。

 あちらこちらにに黒い布、暗幕が張られており灯りと言えば天井から放たれている魔法照明のみ。

 そして、上半身、いや。下半身を腰布で隠した男性エルフが四人ほど二人を招きいれた。

 歩くたびに何かか見えそうでカレンは思わず固まった。

 いくら冒険者をしていたからといって見慣れているわけじゃないし、今までの冒険では大人のはマジマジと見た事がない。



「いらっしゃーい。子猫ちゃんっ。今日はどうしたんだい?」

「やだー。君に会いにきたんじゃないー」



 先にはいったおじさんが甘い声をだし始めた。

 声色が変り、最後にハートマークが付きそうな声で男性エルフへと媚る。

 男性エルフの一人が白い歯を見せておじさんを個室に見せたカーテンの向こうへ連れて行った。


 残ったカレンが置いてけぼりになると、別の半裸のエルフがカレンを引っ張る。



「え、あっ。ちょ、ちょっ!」

「子猫ちゃん。何も怖くない、さぁ初めては僕に任せて」



 カレンの腰に手を回す男性エルフ。

 そのままカレンの胸を掴んだ所で、条件反射の攻撃が炸裂する、カレンの右フックが半裸のエルフの頬を直撃していた。


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