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48 教会の日常

 大きな厨房の中で、カレンとルナは芋の皮をむいている。

 どうしてこうなったかと言うと、仕事をして貰いますと、いったメリーに圧倒され、連れられた場所が厨房であったからである。


 既に厨房の中には女性ばかりが十人ほどエプロンをして料理を作っており、メリーは大きな声でカレンとルナを旅の者だと紹介し、さっさと厨房から出て行ってしまった。

 厨房を仕切っている恰幅のよい中年女性は二人を笑顔で受け入れ、仕事を振り分けた。



「どうだい、剥けたかい?」

「ええっと……」

「ああ。自己紹介がまだったね。あたしゃミント、厨房担当が多いかねぇ」

「あ、どうも私はカレン、こっちはルナさんです」

「ああ、さっき名前は聞いたよ。どれどれ、ふむ。アンタはそこそこ出きるが、ルナのほうは、もう少し皮を薄くやってくれると助かるねぇ。どれあたしも一緒にやろう」



 ミントという可愛らしい名前を教えてくれた恰幅のいい中年女性は、二人の三倍ほどの速さで、皮を向いていく。



「早いですね……」

「そうかい、カレンちゃんだっけ、褒めてくれて嬉しいよ。さて終わったら籠にいれてあっちに持っていく。皮は肥料にするからそのままでいいよ」



 言われるままに動く二人、食堂においしそうな匂いが充満し始めた頃にやっと作業が終わった。



「疲れた」

「私もです」

「あはは。さて二人とも食堂にいきな。給仕が食事配るから列に並んでおいで、助かったよ」



 カレン達は厨房からだされた、食堂には先ほど作ったスープを取り分けている女性達と、その朝食を受け取る人の列が出来ていた。

 カレンとルナも言われたとおり並ぶと、直ぐに背後に違う人間が並ぶ。

 パンとスープを貰うと二人は食堂を出て、中庭の見える場所へと腰掛けた。

 比較的大きな中庭で草木がしっかりと手入れされている、ベルファランの仕事が以下に丁寧なのかわかる、性格はともかく……。


 食べ終わったルナがスプーンをお椀の置く、直ぐにカレンの方へ顔を向ける。



「あの。私達何をしてるんでしょうか……?」

「えーっと。ご飯作って食べてる所」

「そんなのは知っていますっ!」

「ご、ごめん」

「私が言いたいのは、なんで暢気に朝食を取っている事ですっ!」



 それはカレンだって同じ気持ちだ。

 本来なら一泊した後にロキの所に帰っているつもりだった。何故か朝食を作り、今はそれを食べている。



「いやでも、マキシムさんも治療中だし。ねっ」

「でも、いくらあの人が凄い魔法使いだったとしても、とても、レイン伯爵を説得出きるとは思いません。いえ説得に成功されても、こんな近くの町だったら直ぐに居場所がばれて、捕まり連れ戻され殺されます、最初から逃げ切れないと思っていたのです。それならと……。でもカレンさんは死にたいと思った私を助けてました」

「うん、私はやっぱり生きていた方が良いと思う」


 

 二人の間に何も言えない沈黙が訪れる。

 どちらも何も喋らないと、背後に人影が止まった。

 カレンとルナが振り返ると、羊皮紙の束を持ったメリーが見下ろすように立っている。


 

「ああ、お二人とも、ここに居ましたか。ルナさんはフォルゲンが呼んでいます、カレンさんは手が空いたのであれば子供が来ると思うので見張って貰えますか?」

「え、あの。私は……」



 カレンの視線は若干泳いでいる。

 ルナを残して一度カーメルの町に帰り、これからの事ロキに相談したかったからだ、しかしメリーの鋭い眼光が座っているカレンを真っ直ぐに捕らえている。



「なんでしょうか?」

「いえ、なんでもないです。子供達を見張ってます……」

「はぁ、ならお願いします」



 つい帰りたいという言葉が出ないカレン。

 メリーは大きく体を曲げてお辞儀をすると、ルナを連れて廊下を歩き離れていった。


 一人残されたカレンは中庭に残る、子供達と遊べといわれても、まだ子供達が見当たらないからだ。メリーの話では直ぐに来ると言っていた。

 食堂があった場所から小さい子供達が駆け出してくる。

 人数は七人ほどで男の子が五人に二人の女の子が混ざっていた。



「なるほど、あの子達の事ね。はーい。こっちだよー」



 カレンが叫び、手を大きく振る、子供達がカレンの周りに集まってくる。

 軽い自己紹介で自身の名前と中庭で遊ぶ事を見守る係りと伝えると、露骨に嫌そうな顔をする男の子。

 


「巨人だ女の巨人だー」

「こーら、お姉ちゃんの名前はカレンだって言ってるでしょうかっ!」



 近くにいる小さい子を捕まえると、その腋をくすぐる。直ぐに笑い出しカレンの腕の中で笑い暴れた。

 子供達の中で一番背の大きい男の子がカレンの前に出る。



「ってもなー……。俺達は別に子供じゃないっての、毎回監視されるほど危険な事はしてないっての」

「そうなの? えーっと名前は……」

「ジャン、その捕まえているのがマルコ、んでこっちが――」



 ジャンは自己紹介した後に全員の名前を順番にカレンへと伝えた。

 カレンから見ると子供であるのか間違いないが、子供じゃないと言い張って思わず微笑んでしまう。

 馬鹿にされたかと思ってジャンは余計にむくれてしまった。



「ごめん、ごめん。普段何して遊んでるの?」

「お前、返事は一回って教わらなかったのか? まぁいいや。鬼ごっごや、剣の練習とかかな……」

「もう剣の練習するんだぁ、すごい」

「ま、まあなっ! ゆくゆくは教会の役に立ちたいし、俺たちは親なしだから……」



 ジャンの言葉にカレンが少し沈黙する。

 そう孤児なのだ。解かっていたつもりでったが、本人から聞かされると返答に困る。知ってか知らずかジャンは明るい声を出した。



「だからって、一つ行っておくが変な同情とかするなよっ! 立派な兵士になって馬鹿にする奴を見返すんだ」

「べ、別にしないわよ」



 大人になった教会の子供達は、多くは国の兵士や冒険者になる事が多い。

 理由は教会が国やギルドから援助を受けているからなり易いってのもある。

 気を取り直したカレンは少ししゃがむとジャンの顔の部分の自分の顔を持っていく。



「で、何して遊ぶ? 剣の練習ぐらいなら私でも出きるけど」

「女に教わるのはなぁ……。それに、巨人のねーちゃん動きとろそうで弱そうだし、そうだっ」



 カレンの言葉にジャンの顔がニヤリと笑った。



「お医者さんゴッゴ」



 もちろん、ジャンは本心からしたいとは思っていない。

 全てはカレンを困らせるための発言だ。

 お医者さんごっごとは、名前の通りお医者さんと患者になり、医者側が患者の服を脱がし診察する。普通の女性なら困ったり赤面したりする、それをからかって遊ぶつもりだった。



「いいわよ」

「えっ!?」



 カレンの返答に、周りに居た子供もざわめきだす。



「お前あれだぞ、医者が患者の服を脱がして……」

「ええ。知ってるわよ?」



 カレンが素早くジャンのシャツを掴むと、勢いをつけて脱がせた。

 万歳をするような形で上半身裸にされる。

 


「ふっふっふ。別に私が患者とは決まってないのよねぇ。医者は私、患者一号はジャン君ね」

「ま、まて。おまえっ!」

「まーちーまーせーんっ! 人の事を巨人っていった罰よっ!」



 カレンの手がズボンに伸びると、ジャンは振りほどき逃げまわる。

 周りの子供も蜘蛛の子を散らすように逃げて廻り、結局かけっこが始まった。

 結局夕方まで遊び、打ち解けた後、ジャンと率いる子供達は手を振って別れた。


 遊びの途中でカレンがジャンに聞くと、男性と子供達が住む場所はまた別にあるそうだ。

 

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