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47 一夜明けての朝

 カレン達と別れて暫くたった後、ロキは何度目かの溜息を吐いた。

 手には、マキシムの腕だった物を凍らせて持っている。

 既に山を抜け、もう少しで住んでいるカーメルの町にある北門が見えてくるという場所であった。

 


「あの、ロキ様。申し上げにくいのですか、そう何度も溜息を出されましても……」

「ああ、ごめん」

「それに、カレンさんならロキ様の事をわかってらっしゃいますよ」

「いや、僕は別にカレンの事で溜息を付いているわけじゃなくて……、いや、君に嘘を付いてもしょうがないな。カレンはきっと僕が彼の腕を切り落としたのは冷酷と思っているはずだ」

「そうでしょうか?」



 ロキは先ほどの事を、思い出す。

 自らの人生に絶望していたルナ、生きていても未来は暗い。

 誰かか生きていれば必ず良い事がある、そういう教えを説いた人達はロキも何人も見てきた。

 しかし、それと同時に、それを信じたばかりに絶望した人も沢山見ている。


 貴族から逃げた二人だって、困難な生活が待っているのは目に見えているからだ、それだったら望みどおり死を与えた方が良いとロキは思ったのだ。

 それほど、ルナは生きた目をしてなかったのだ。



 だが、カレンは助けた。

 生きていた方がいいと、助けたのだ。



 男、マキシムのほうだって彼女を逃がそうとするだけで何も考えていない。死ぬなら自分から殺してくれと。

 あの時、ロキはカレンに聞こえないようにマキシムに説いた。

 

 君達はカレンに助けられた命、僕は依頼人に君達を殺した証を持って行かないといけない。両手、両足を根元から持っていく、断わってもいい、その場合彼女は諦めろ。

 そう質問したロキに、マキシムは持って行ってくださいと、言ったのだ。


 例えそれが一時的な感情から来る物としても、彼の勇気を受け取ったロキは、使用人である証が彫られた腕を一本切り落としたのだ。

 なお、本来であれば腕ではなく、首を切り落とし持って行くのか普通であるがロキは黙っていた。



「そもそも、僕だって怒りたくて怒ったんじゃない。世の中希望があるほうが良いとは思っている。だからといって、カレンみたいに何でも通そうとするのは……」

「はいはい、ロキ様、町が見えてきましたわよ」

「ナナリー、僕が言いたいのは」

「あの、それ以上長くなるのでしたらベッドの中でなら聞きますけど」



 珍しくナナリーの眼が細くなりロキを睨む。

 ロキは言葉に詰まり、一度咳払いをした後に、素直に謝る。



「いや、僕が悪かった」

「いいですのよ、ただ最近ロキ様は、カレンさんの事となると少し熱くなるというか。いえ、辞めておきましょう。腕と髪、これはわたくしから明日にでも依頼主に手渡しますので」

「ああ、頼むよ」

「それで、どうですか? 折角の夜です、カレンさんも暫くは帰ってきませんでしょう。一口いきませんか?」



 手を口元によせてグラスの代わりをする、ようは酒を飲みませんか? との誘いだ。

 普段なら提案に乗るロキであるがお金が無い。出きるだけ溜めておいたほうがいいだろう。



「あいにく、持ち合わせが無い」

「別に今更……、それに良い酒が手に入ったんです、家飲みという奴ですわ。ミナトと一緒に飲んでも良いんですけど、どうせならロキ様もご一緒にと。カレンさんが居ないんですから偶には」

「それだったら、ご相伴にあずかる事にしようかな」

「何かトゲがあるように聞こえますけど、では行きましょう」

「特に無いよ」



 別にロキは酒は飲めない訳でもないし、嫌いなわけでもない。

 ただ、飲む機会が少ないだけでだし、健康面を考えると押さえかちに成っているだけである。



「そうこなくては。戻ったら愛を込めてお酌しますわ」

「自分で、するから」

「つれないですわね」



 ロキ達の考えなんて知ってか知らずか、カレンは朝を迎える。

 最初は何所にいるか考えたカレンであったが、直ぐに昨夜案内された部屋なのを思い出した。

 粗末な二段ベッドが二つと、中央には小さな机が一つだけの部屋。


 上半身だけを起こして縮まった体を伸ばす、ルナが寝ているだろう反対側を確認して悲鳴を上げた。



「ひぃっ」

「お早うございますカレンさん」



 視界にはルナがベッドに腰掛こっちをじっと見ていた。

 その顔は石造のように感情が出ておらず、カレンが知っているルナと違いすぎとっさに声がでない。

 それでも、必死に言葉をだすカレン。




「お、おはよ。ごめん、こっち見てるとは思わなくて、す、少しだけ。本当に少しだけ驚いただけ。もしかして私が煩くて寝れなかった?」

「違います、カレンさんは静かに寝ていましたよ、でも寝れないのは本当で、ただ起きていただけですから」

「そ、そう」

「カレンさん、私達はこれからどうしたらいいんでしょうか?」

「え……」



 カレンは言葉に詰まる。

 何時ものカレンなら、そんなの簡単、生きればいいのよ。そう言うだろう。

 でも、ルナの眼は一晩寝ていないせいか真剣で、カレンが軽く答えるような事ではないのはわかった。

 

 部屋の前の廊下に人の気配がすると、直ぐにノックの音が聞こえた。

 ルナは、カレンの答えを聞かずに立ち上がる。



「すみませんカレンさん、忘れて下さい。今開けます」



 昨夜と代わらず仏頂面のシスターメリーが、二人に挨拶をする。

 ルナと並ぶと無表情の二人組みが並ぶ。



「お早うございます。昨夜はお疲れ様でした。所でお二人とも、暫くはこちらに滞在しますよね。正式な客人ではないのですから働いて貰います」

「えーっと……私は」

「なんですか? 怪我人を放り込むだけ放り込み、医療代もおいて行かなく、厄介事だけ置いて帰るとか言いませんよねっ!」

「は、はい。お世話になります」



 カレンとしては直ぐ帰るつもりであったが、シスターメリーの迫力に何もいえない。

 ルナのほうを見ると、同じ事を思ったのだろう、カレンの顔をちらりと見て。同じく返事をした。

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