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46 教会と司祭と好々爺

 カレンが町へ着く。眠たそうな番兵が詰め所から出てくると、カレンの背中の男性、マキシムを見て驚いている。

 番兵から見ても片腕が無く、傷口部分は氷で固められ意識があるかないのかわからない重症人だからだ。。

 事件、事故その他の事を考えると、いくら怪我人といえ、理由も無く町には入れれない。


 カレンは身分証を渡しながら言い訳を必死で考えるもまったくでなかった。

 この男性は、貴族に使えていた男性で、女性と逃げ。追手、しかも師匠に腕を切り取られました。

 とは、さすがのカレンでも馬鹿正直に言えない。

 だからと言って良い案は浮かばなかった。

 カレンが悩んでいると、ルナが一歩前に割って入る。



「この町に来る途中にゾンビドッグの群れに教われました。彼は腕を私を庇うのに腕を負傷し、出血が止まりませんでした。その時に通りかかった魔法使いが彼の腕を切り落とし命だけはなんとか……。今は一刻も早く治療をさせたいので町に入れてもらえませんでしょうか?」

「そ、そうか……。たしかにゾンビドッグの報告は此方にも入っている。すまん、医者、いや、この外傷はギルドのほうが言いか、道案内しようか?」

「有難うございます、でも、魔法使いの方から場所をうかがっております。私も以前この町に来た事はあるので」

「なるほど、わかった。身分証を返す。気をつけて」



 軽く会釈するルナはカレンの手を引いて町へと入った。

 カレンも一度この町には来た事あるが、ロキの元へ行くために素通りしたので道はわからない。

 ルナは何度か来た事があるらしく、カレンの手を握り先を急ぐ。

 指定された教会へと辿り着いた、外見はさほど綺麗には見えないが。ボロでもない。

 時刻は既に深夜、当然教会の中は真っ暗であった。


 カレンは鉄作の外門を抜け、玄関扉の前に立つと一度だけちゅうちょするした。

 直ぐにドアノッカーを連打で叩く。

 中から物音が聞こえ、やや疲れた感じの女性が蝋燭と共に顔を出した。

 歳はさほど取っては見えないが、若くも無い。

 二十代後半から三十代前半だろうか、カレンとルナをみて細い目をさらに細く警戒した顔で様子を伺っている。



「こんな夜分に何の御用でしょうか、寝て居る者も多数いるため御用件なら明日にして貰えませんでしょうか?」

「す、すみません。こちらにベルファランさんという方はいらっしゃいますか?」

「はぁ。ベルファランなら居ますが、先ほども言った様に朝に――」



 ルナが女性の話を遮る。



「申し訳ありませんシスター。旅の連れが大怪我を追いまして、ご覧のとおり片腕が……」

「それは……。ですが、それでしたら医者か魔法ギルド、いえ冒険者ギルドに伺ったほうが良いと思います」

「あのっ! 師匠が、あ、いえロキという魔法使いなんですけど、ここのベルファランさんにって……。えーっと証拠という証拠は無いんでけど、あ、私弟子のカレンって言います」



 ロキの名前を出して顔の表情が変わるシスター。

 カレンの差し出された冒険者カードを見て少し考えると辺りを見回す。

 誰も居ない事を確認すると、口元に人差し指を立てた、静かにしてという合図だ。



「最初に名前を出して貰えれば、こちらです。あと先ほども言いました通り、他の者は皆寝ていますのでお静かにお願いします」



 カレンの背後では相変わらずマキシムが唸っているが、声を出さないように必死に押さえているのが表情から見て取れる。

 ルナはその横でマキシムの背中をそっと触りながらカレンと共に、シスターの後に付いていった。


 教会の中を通り、一度外にでると小さな小屋の前に立つシスター。

 軽くノックすると、無造作に伸びた髭面の上半身が裸の老人が出てきた。赤い顔をしており部屋の中からは酒と、妙に甘ったるい匂いが外にあふれ出る。

 体は老人であるが引き締まっており、尋ねてきたシスター達を見て怪訝な顔をしている。



「なんじゃ、メリー。こんな夜中に……」

「すみませんベルファランさん。あの……。怪我人を見て欲しいとお客様が」

「ああん? 俺は庭師であって医者は魔法使いじゃねえ。メリー、お前神に仕えて気が狂ったか?」

「ごほんっ! 神は常に我々を見ておられます。その、ヴァンヘルムさんのご紹介だそうで……」

「ヴァンヘルム? なんだその名前は、ワシはしらんぞ」

「あの、ですからロキ・ヴァンヘルムさんです」



 本当に知らないのか、ヴェルファンは上半身裸のまま腕を組む。

 カレンが慌てて口を出し始めた。



「あの、私より背が小さくて、年齢は、うーん……三十中盤ぐらい? 若く見えるんだけど、歳はそこそこで、黒髪で何時もやる気のなさそうなおじさん何です、けど」

「ああ。わかったぞ、あの坊主か。たいそう偉い名前付けてわからかったぞ。しゃーねぇ。で? 怪我人は」

「はい、あの。背負ってる人がそうなんですけど……」



 片腕の無いマキシムを診せる。

 ベルファランは、その傷口の魔法を見て頷き満足した顔付きになる。



「ふむ。綺麗に切り取ったな。じゃぁ部屋に……。いやまて部屋は駄目だな。えーとだな……」



 突然慌て始めるフォルゲンを見て、シスターメリーは不思議そうな顔をする。



「あの。直ぐに治さないのですか?」

「いや、直すのは別に直すんだけどよ。その場所が困ってよ」

「ですから、貴方の部屋に来たんですけど。ここならば宿舎とも離れてますし、他の子やシスター達が起きる事もありません」

「それは、わかってる! メリーがここに来るって事はそうなんだろう。しかしワシにも事情ってのがあってだな」

「貴方の事情と怪我人の事情は別問題です、部屋が汚い程度なら掃除もしますし、とりあえず部屋に入りますよ」

「ま、まてっ!」



 ベルファランの隙をついてシスターメリーが部屋に入る。

 その扉を開けた所でシスターメリーの体が止まった。

 背後からカレンとルナが部屋の内部を見る、整頓された部屋であり玄関に当る部分には大きな鎌やハサミなどが置かれている。

 壁には食器棚、暖炉はなく、壁には普段着ている服がかけられていた。


 ここまでなら何も問題ない。


 ただ一つ三人の目線が最後、一点に集中するのは粗末なベッドの上で上半身を毛布で隠した若い女性が困り顔でこっちを見ているからだ。


 シスターメリーが小さく、それでいて、とても静かに喋る。



「なるほど。アン、怖い夢を見たからと部屋に押しかける歳ではありませんよね」



 アンと呼ばれた女性は蒼白になりながらも何度も頷く。



「では、直ちに自室へ戻りなさいっ!」

「は、はいっ!」



 アンは、裸体に毛布という格好で部屋から飛び出て行った。

 カレンはその後ろ姿をちらっとみると、小さなお尻が夜空の光で可愛く見えた。



「問題も解決したようなので、ええっと、カレンさんでしたかしら。その男性をあちらのベッドへ。それと、ベルファランさん後で話があります」

「お、おう」

「はいっ!」



 シスターメリーは、ヴェルファランに何かを聞くと、直ぐに行動に移す。

 先ほどまでアンという女性が寝ていたベッドのシーツを取ると、タンスから別なシーツを取り出し綺麗に引いた。先ほどのより分厚く何か動物のなめし皮なのがわかる。


 カレンは命令された通りにマキシムを寝かすと、ベルファランはシスターメリーに何かを頼んだ。

 直ぐに頷くとシスターメリーは小屋から出て行った。

 小屋の中にはベルファラン、カレン、ルナ、そして意識があやふやなマキシムの四人だけになる。



「あの」

「なんじゃっ」

「いえ、何かすみません」

「別にええわい、ただワシは明日からネチネチネチネチとメリーに小言を言われるぐらいだしの」



 ベルファランは、そっとカレンの尻を触り撫でまわす。



「ちょっ!」



 カレンは、ベルファランの手を跳ね除け反射的に裏拳で攻撃をした。

 フョイと回避したベルファラン。

 カレンの裏拳は、そのままでは止まらず、備えつけてある衣装入れへと攻撃。

 バキバキと鈍い音を立てて衣装入れの一部が粉砕された。



「あっ、ご、ごめんなさいっ! あの急にお尻を触るからっ」

「いや……、いい。ワシがソレを避けてなかったらと思うとぞっとするわい……」

「何をしているんですか……」

「メリーか、別になんでもないわい。それよりも」

「ええ、もってきましたよ。睡眠剤と痛み止め」



 戻ってきたシスターメリーから薬剤を手渡されると、直ぐにマキシムに飲まされた。

 効果は直ぐにあわられ苦しむマキシムは穏やかな寝息を立てている。

 ルナが驚いてその顔を見て呟く。



「恐ろしいぐらいに即効性ですね」

「ええ、ですから私しか調合できません。売るつもりもないですし」



 淡々と答えるシスターメリーは、ベルファランの横顔を見てどうしますか? と目で訴えている。



「さて、じゃぁ始めるか。そこのケツでかいほうのねーちゃん。ちょいちょいっと氷を魔法で溶かしてくれ。…………なんだ、黙ってるけどあの坊主の弟子なんだろ? 火ぐらい出せるだろう」

「えーっと。そうなんですけど、ご、ごめんなさい。出せる事は出せるんですけど二時間ほどお時間を頂ければ……」



 最後は消え去りそうな声である。



「まじか……。しゃあねえ地道に取るか」



 ベルファランは文句を言いつつも、ハサミやノミを使いマキシムの傷口の氷を削っていく。

 赤黒い傷口から血がにじみだしてきている。

 


「所で女子供の見るもんじゃねえぞ……」

「私は冒険者ですから、多少の事は」

「わたしはお屋敷でもっと酷いのを見てますので」

「なら、私も散々酷い惨状を見ていますので」

「かわいくねー女共だな、こんな時は可愛く目を潤ませてだな、そっと男の体に身を寄せるもんよ」

「シスターアンみたいにですか?」



 場の空気が一瞬で張り詰められると、ベルファランは一つ咳をする。

 妙に明るい声を出しながら治療に当った。


 空中で小さく手を十字に切ると、手の平を合わせ指を絡ませる。

 マキシムの寝ているベッドの前に膝を付けると神に祈るのように瞳を閉じた。

 口の中で何か呟いているのか、時折呪文のような声が部屋に響く。


 誰も何も声をかけない。

 マキシムの傷口が徐々に小さくなっていった。

 それは皮膚が自らの意思を持ち傷口をなくす様に動いていた。



「すごい……」

「ええ、ベルファランさんは今では老いぼれのスケベ爺ですが、その昔は力のある高名な神官でした」

「その神官がなんでこんな所にいるのです? 高名でしたら今頃は首都に居てもおかしくないはずですか」

「ええっと……」

「すみませんルナといいます」

「ルナさんですか、わかりました。ベルファランさんは、それはそれは高名で回復魔法も使える数少ない人でしたけれども、その性格から教会本部から除名されました」

「それって……。さっきのような?」

「ええ。そうです」



 さっきの事とは、部屋に裸の女性が居た。つまりはそういう事である。

 あまりにも女癖が悪いから神父の資格を剥奪されたのだ。

 しかし、神父とは言え、回復魔法を使える人間は早々居ない、なので今はこの教会でひっそりと庭師として、教会に監視目的で保護されているのだ。



「ここは、ベルファランさんに任せておきましょう、お二人は此方に、簡素でありますが部屋をご用意させていただきました。本日は夜分も遅いですし」

「あ……すみません」

「有難うございます」



 小屋を出るときに、背後から、なんだここでワシと寝てくれないのかと、悲しそうな呟きを聞いたカレンであるが、メリーに引っ張られ小屋の扉をそっと閉じた。


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